The Court of the Air, by Stephen Hunt
こちらで Lilith さんが紹介していた本ですけど、わたしもそれなりに期待していたんですが、う~ん、なんか物語の書き方を教えてやりたくなるような本でした。
ジュール・ヴェルヌふうののどかな表紙はかなり偽物で、気球はほとんど活躍しないし、そもそも設定がバリバリのスチームパンクなんですよね。ま、そのあたりは問題ないし、最初の 100ページほどはパルプを模した速い展開でなかなか期待を持たせるんですが……。私娼窟に売られた孤児の少女、ところが最初の客は彼女を狙う殺し屋で……。一方、叔父の家に身を寄せる気球の事故の生き残りの少年は、一家皆殺しの目にあって気球乗り崩れと逃亡する羽目に。
じつは、空を制することで周囲からの攻撃を防いでいる民主的な国家ジャッカルのまわりでは、様々な悪巧みが渦巻いていて、隣の国ではバイオ兵器を研究しているし、ジャッカルの地下では昔の帝国がカルトな指導者の下息を吹き返しているしで、上空から下界を見守る空の宮廷の面々も気が気ではありません。でまあ、少女と少年の主人公が蒸気機関人やカニ少女などの助けを得ながら悪巧みと戦うことになるんですが……。
問題は、100ページを越えたあたりから、完全に同じことの繰り返しの金太郎飴状態になってしまうことなんですよね。主人公を初め様々なキャラクタを用意しながらも、ほとんどこれといった活躍もしないし、ストーリイのメリハリも何もあったもんじゃありません。
作中ではパルプ小説が大きな機能を担っていて(この作品の中では penny dreadful)、みんなが三文小説で世間の動きを追っているという設定なんですから、作者もパルプ小説に倣って、一定のリズムで山場を用意して話を進めていく手法を身につけたほうがいいんじゃないでしょうか。
The Somnambulist はパルプのパロディをやって成功した例だと思いますが、こちらのスティーヴン・ハントさんはパルプを意識しながらもパルプの何たるかを全く理解していないとみました。書き方によってはそれなりの作品になったんじゃないかと思うんですけどね。残念でした。
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