Monday, September 17, 2007

Gods Behaving Badly, by Marie Phillips

Gods Behaving Badly (uk edition)Greek Myths とか書いてあるとつい Geek Myths と読み間違えてしまう今日このごろですが、なんか読み間違えても問題なそうな本が出てました。

誰も信じるものがなくなって力を失ったギリシャの神々が、人間の世界に紛れてそれぞれの特技を生かしながら暮らしています。狩人のアルテミスは犬の散歩師、美の神アフロディテはテレフォン・セックスのオペレータ、太陽神アポロはテレビの超能力者……って、う、いかにもありそうな感じ^^;

Gods Behaving Badly (us edition)まあギリシャの神々ですから、もともと「超」が付くくらい人間的なので、行儀良く人間世界に収まってるわけはないんですが、どうもごく普通のカップルが神々のいざこざに巻き込まれて振り回されてしまうスラップスティックのようです。なかなかお馬鹿で楽しそう。英米ともにカバーもなかなか洒落たデザイン。どちらも地色がオレンジなのは、なにか理由があるんでしょうか(オレンジ賞を狙っているなんていうベタな背景はないとは思いますが^^;)。

ニール・ゲイマンの American Gods やスティーヴン・シェリルの『夢見るミノタウロス』、はたまたジョン・C・ライトの Children of Chaos のイメージですかね(いやまあ、最後のはロジャー・ゼラズニイの「アンバー」の雰囲気なのでちょっと違うでしょうけど)。

作者のマリー・フィリップスはブロガーとしても有名な人だったらしいですが、デビュー作を機に引っ込んじゃったんでしょうか、invite only になっちゃってますね。

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Sunday, May 13, 2007

"The Bestiary" by Nicholas Christopher

The Bestiary神話やら伝説やらヘンテコな動物に弱い私ですが、この本もちょっと気になるんですけど~。

シチリア移民の祖母から想像上の動物の不思議な物語ばかりを聞かされてきたブロンクス育ちの少年ゼノが、"the Caravan Bestiary" という幻の中世の動物寓話集を探し求めるというお話なのですが、その本というのが、グリフィン、ヒッポグリフ、マンティコラス、バジリスクなど、ノアの方舟に乗せてもらえなかったため滅びてしまった動物について書かれていたというから、これはちょっとおもしろそう(もし神様に選ばれてたら、今頃人面獅子身のマンティコラスが町中を闊歩してたんでしょうか?)。そしてその動物寓話集、なんとゼノ少年の家族のヒミツに繋がってたなんて!

というわけで、どなたか試しに読んでみません?

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Thursday, March 15, 2007

"Japanese Dreams" by Sean Wallace (Editor)

Japanese Dreamsなんだかこのタイトルは、ちょっと気になりますね~。

特色あるファンタジー系小出版社プライム・ブックスの創立者でもあるショーン・ウォレス編纂の、世界の神話や伝説をテーマにしたアンソロジー・シリーズ第一弾だそうです。キャノンゲイトの世界の神話シリーズのファンタジー作家版って感じでしょうか。

タイトルからすると今回は日本の神話特集なのか、それともいろいろな国の神話が混ざってるのか、情報不足でちょっと分かりませんが、この中に収録されているスティーヴ・バーマンの "A Troll on a Mountain with a Girl" は山姥のお話らしいです。作家陣の中には日本にちょこっと住んでいたヴァレンテなんかもいますね。

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Sunday, February 18, 2007

"Dream Angus: The Celtic God of Dreams" (The Myths VI) by Alexander McCall Smith

Dream Angus「世界の神話シリーズ」の6人目の語り手は、代表作『No.1レディーズ探偵社』の翻訳があるスコットランドの人気作家アレグザンダー・マコール・スミスで、この "Dream Angus" は、ケルト神話の愛と夢の神アンガスにまつわる物語集になっています。

アンガスは、ケルト神話の最高神で戦術と豊穣の神ダグダが、心優しい水の精との間にもうけた息子で、人々に素晴らしい夢と愛を授けます。彼自身、人や動物の心を和ませる特質を持っていて、アンガスの前では獰猛な動物もおとなしくなり、小鳥は彼を慕って常に頭上でさえずっているといった具合。また彼をひと目見た女性を、恋の虜にしてしまう美貌の持ち主でもあります。

この "Dream Angus" では、その彼の生い立ちや青年期のエピソードと、現代に生きる人々の愛と夢の物語が、入り乱れて語られていきます。現代のほうはさすがにアンガスがそのまま登場するのではなく、アンガスについて言及されたり、またアンガスの化身のような(またはそのエッセンスを持った)登場人物が重要な役割を担っていたりして、それらを通して、「あー、こういうときがアンガスの出番なのね」とか「こういうのってアンガスの粋な計らいなのかもね」なーんて、たぶんスコットランドやアイルランドの普通の人々が日々の生活の中で、どんなときに目には見えないアンガスの存在を感じるのかが分かるようになっています。その中のひとつに反抗期の少年に振り回される家族の物語があるのですが、そこに出てくるアンガスという名のおじさんは、とんでもないことを考えちゃったりして、本音とはいえちょっと不謹慎で異質な感じがしたのですが、当のアンガス自身最大の権力者である父をウィットで負かしたりするエピソードもあったので、甘ったるいだけではなく、情に流されない現実的な側面もあるのかなとも思ったりしました。

キャノンゲイトのこの神話シリーズは年3冊発行なのですが、サイトを見てもまだ今年のラインアップは発表されてないので、次はどの作家がどこの神話を材料に料理してくれるのか楽しみです。というより、気をつけてないと知らないうちに出ていたということになりそうです。

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Sunday, February 04, 2007

"The Silver Bough" by Lisa Tuttle

The Silver Bough"The Mysteries" に続くリサ・タトルの新作 "The Silver Bough" は、これまたケルト民話を現代に上手く蘇らせた、チャーミングな物語でした。

親友を突然失い滅入っていたアシュリーは、父の提案を受け、亡くなった祖母の故郷スコットランドのアップルトンを訪ねる。祖母は生前多くを語らなかったが、1950年に家族にも告げず故郷を離れアメリカに渡ってきていたのだ。アップルトンへ向かうバスの車窓から、アシュリーはエキゾチックな雰囲気の魅力的な青年を目にする。

アップルトンはその名のとおり昔はりんごで栄えた町だったが、アシュリーの祖母フェミーが伝統のアップル・クイーンの座を放棄して行方不明になってから、衰退の一途を辿っていた。その町にはそれぞれの事情で住みついたふたりのアメリカ人女性、図書館員のキャスリーンと、若くして夫を船の事故で亡くしその遺産で暮らす未亡人ネルがいた。

アシュリーがアップルトンに到着した夜、町は大きな地震に見舞われた。この海辺の町の他への唯一の接点である細い道は、落下した大きな岩で塞がれ、アップルトンは陸の孤島と化してしまった。するとなぜだか電話も不通となり、テレビやラジオの電波も受信できなくなり、住人はそれぞれ不思議な現象に遭遇することとなる。そしてある日、ネルが植えたりんごの木に黄金の実がなる。それこそがアップル・クイーンに選ばれた者がカップルで食し、町を繁栄へと導く幻のりんごだった。

半分くらいまでは、ごくふつうの現代の物語として進むのですが、町が孤立してから徐々に異世界が浸食してきて、謎の青年ローアンの正体が分かる頃には、アップルトンは全く別の世界と化してしまいます。この少しずつの変化が、ごく自然に現代の世界に現れてくるところが、なかなかミステリアスでよかったです。"The Mysteries" のときのように、章の間に今回はアップルトンの町の記事や伝説、関係者の手記が挟まれていて、背景がよく理解できるようになっています。これを物語の中に盛り込もうとするとかなり説明的になってしまうので、このようにして情報を挟み込むというのは、とてもいいアイディアですね。

最初はアシュリーが主人公だと思ったものの、そうではなくて、その辺がちょっと中途半端に感じはしましたが、後味もよく(でもちょっと謎を残した)、ベテラン作家による安心して読める楽しい現代のフェアリー・テイルでした。

タイトルの silver bough(銀の枝)は、あっちの世界へのパスポートみたいなもののようです。ギリシャ神話ではアイネイアスが冥界に行くときに、巫女シュビレの指示に従い黄金の枝を持って行きましたが、なんか関係があるのでしょうかね。

タトルの現代版ケルト民話シリーズ(?)、これからも是非続けて欲しいと思います。

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Thursday, June 15, 2006

"Lugalbanda : The Boy Who Got Caught Up in a War: An Epic Tale From Ancient Iraq" by Kathy Henderson, Jane Ray (Illustrator)

Lugalbanda今、イラクはあんな事になっちゃってますが、あの辺りはメソポタミア文明が栄えた地。3,000年前は先進的な文化都市だったんですね。その地のシュメール人の王、ギルガメシュの遍歴を記した『ギルガメシュ叙事詩』は世界最古の神話です。

……が、19世紀に発見された粘土板の楔形文字が、1970年代に初めて解読されたのですが、それがギルガメッシュのお父さん、ルガルバンダの物語。というわけで、マイナーではありますが、こちらのほうが世界最古と言えそうです。

そのルガルバンダ伝説を、親しみやすい絵と文章で語り直したのが、この "Lugalbanda" の絵本です。

ルガルバンダ伝説についてはこちら。彼は、シュメール神話の女神イナンナの弟でもあるみたいですね。イラストもなかなか好みっぽいです(表紙のトカゲがかわいい~)。挿絵のジェイン・レイのサイトはこちら

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Sunday, June 11, 2006

"The Grass-Cutting Sword" by Catherynne M. Valente

The Grass-Cutting Sword少し前まで日本に数年滞在していたことから "Yume No Hon: The Book of Dreams" という中世の日本を舞台にした著作もある、キャサリン・M・ヴァレンテの新作は "The Grass-Cutting Sword" です。

このタイトル、すぐにはピンとこないと思いますが、素戔嗚尊と八岐大蛇の伝説の再話ということなので、これって「草薙剣」のことなんですね。"The Labyrinth" ではめくるめくシュールで幻想的な世界を見せてくれたヴァレンテなので、日本の神話がどんな雰囲気の物語に変身してしまうのか興味津々。

そういえば "Yume No Hon" は、赤本と青本とどっちにしようか迷ってて、そのままになってました。

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Thursday, June 08, 2006

"Changing Woman And Her Sisters: Stories of Goddesses from Around the World" by Katrin Hyman Tchana, Trina Schart Hyman (Illustrator)

Changing Woman And Her Sisters1985年にコールデコット賞を "Saint George and the Dragon" で受賞したトリーナ・シャート・ハイマンのイラストと、娘カトリン・ハイナン・チャーナの再話による世界の女神神話ということで、児童書ながらかなり好みの予感です。

収録されている女神たちは、ヒンドゥー教のドゥルガー、エジプトのイシス、ケルトのマーハ、シュメールのイナンナ、そして日本からは天照大神などで、こちらで各女神のイラストを見ることができます。天照の装束を見ても分かるように、細かい約束事には囚われずにその国のイメージを元に自由に描いているという感じで、伝統的な姿とは違っていたとしてもとても好感が持てますね。

この母娘コンビによる作品は、ほかに世界の龍退治の物語を集めた "The Serpent Slayer" など数冊あるようです。娘のカトリンは作家になる前は、Peace Corps の隊員として世界各国を訪れたそうで、そんな経験が作品にいかされていそうです。母のトリーナは2004年に癌で亡くなってしまったということで、新たな作品を望めないのが残念です。

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Sunday, May 07, 2006

"Lion's Honey : The Myth of Samson" (The Myth V) by David Grossman, Stuart Schoffman (Translator)

Lion's Honey世界の神話シリーズ5巻目にして初めて、ギリシャ・ローマ圏外の神話の登場です。この "Lion's Honey" で、イスラエルのユダヤ人作家デイヴィッド・グロスマンは、ユダヤ人の英雄サムソンの真の姿を探ります。

ユダヤの子供にとってサムソンは、ライオンを素手で引き裂き、ペリシテ人との戦いではユダヤ人を先導する英雄。ところが旧約聖書の士師記で伝えられる彼は、神の使命を課されて生まれたものの、次々と困難に見舞われ、最後には愛するデリラの裏切りによってペリシテ人の手に渡され、壮絶な最期を遂げる孤独な人物です。旧約聖書にある記述に納得のいく背景説明を付し、旧約聖書には書かれていない登場人物の感情にまで踏み込むことによって、無味乾燥な聖書のエピソードを血の通ったひとりの人間の苦悩の物語に高めているのがこの作品。サムソン伝説についてのエッセイであるのに、小説を読んだような読後感が残るのはそのためでしょう。

30人もの何の罪もないペリシテ人を殺したり、300匹のキツネを2匹ずつ尻尾で結び、それに火をつけてペリシテ人の農耕地を焼き払ったり、驢馬の顎の骨で1,000人のペリシテ人を殴殺したり、サムソンのやることは狂暴で弁解の余地は全くないのですが、それらの行動を作者は、屈強な身体に子供のような精神を持ったサムソンのアンバランスさ、繰り返される裏切りへの報復、そして特別な使命を持って生まれたため相手と親密さを築けない苛立ちなどが起因となっているとして、そのときどきの彼の精神状態を分析していきます。タイトルも、サムソンを語る上で重要なエピソードから取られています(注:昔は現イスラエルのあたりにもライオンが生息していたそうです)。

もちろん聖書に書かれていることは全て真実とは限らないのですが、それを出発点としてユダヤ人の英雄サムソンの人物像を、ユダヤ人の視点であざやかに肉付けした作品といえるでしょう。

作者のグロスマンは邦訳のある『ヨルダン川西岸―アラブ人とユダヤ人』や『ユダヤ国家のパレスチナ人』など、パレスチナ問題に関する著作を始め、多くの本を出版しています。

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Sunday, March 12, 2006

"The Helmet of Horror: The Myth of Theseus and the Minotaur" (The Myths IV) by Victor Pelevin, Andrew Bromfield (Translator)

The Helmet of Horror世界の神話シリーズ4人目は、『虫の生活』『青い火影』の邦訳があるロシアのヴィクトル・ペレーヴィンです。彼が選んだのは、ギリシャ神話のテセウスとミノタウロスの物語。とは言っても、アリアドネから渡された糸玉を持って迷宮に入り、牛頭人身のミノタウロスを殺したのち、糸を辿って無事迷宮から脱出した英雄テセウスの物語とはかなり違います。

ギリシャ神話のエピソードから、難問を解く方法を「アリアドネの糸」と言いますが、この作品の Ariadne's Thread はチャットルームで彼女が始めたスレッド。それはこんなふうに始まります。

I shall construct a labyrinth in which I can lose myself, together with anyone who tries to find me -- who said this and about what?

このアリアドネのスレッドで行われたチャットの記録がひとつの作品になっているという、ちょっと変わった形式の物語です。

最終的な参加者は、Ariadne、Organizm(-:、Romeo-y-Cohiba、Nutscracker、Monstradamus、IsoldA、UGLI 666、Sartrik の、見ず知らずの男女合計8名。チャットをしていくうちに、全員が同じようなホテルの部屋にいること、どうやってそこに行き着いたのか誰も記憶がないことなどが分かっていきます。スレッドを始めたアリアドネ自身、夢の中で聞いた言葉を忘れないように書き留めただけで、他の人たちも無意識のうちにチャットに参加していました。そして、ハンドルが自動的に割り当てられたものであったり、名前や出身地や職業など個人を特定するような情報は伏せ字になってしまったり、お腹が空いたと書けば食べ物が出てきたり、このチャットが誰かの監視下に置かれていることが歴然としていきます。

この謎を解くため、アリアドネが直前に見た夢について語ります。彼女は、ふたりの小人を従えた背の高い男を見かけるのですが、小人によると男の名前はアステリスクで、神をも凌ぐ存在とのこと。彼の頭は牛頭のような形をした、内部が複雑な機構のヘルメット(注:被っているのではなく、頭自体がヘルメット)で、これがタイトルになっている「The Helmet of Horror」です。

彼らは同じような部屋にいながら、ドアを開けるとそれぞれが違う迷路に出て、各人がそこで不思議な体験をします。そしてお互い会うこともままならないまま、チャットが続いていきます。

彼らを救うテセウスは現れるのか、それともこの中の誰かがテセウスなのか? 過去・現在・未来に関する特殊な機構を持つ謎のヘルメットは一体何を意味しているのか? アステリスクの目的は? 閉塞状態の中でそんなことを語り合う彼らのチャットを通して、シュールでちょっと哲学的な雰囲気を味わえる、ミノタウロスとラビリンスのもうひとつの物語でした。

この翻訳はまだ出てなくて、角川の神話シリーズ専用サイトを見ても予定とかも書いてないですね~。

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