Friday, June 23, 2006

The Book of Everything, by Guus Kuijer

The Book of Everything大胆なタイトルとカエルの表紙につられて手を出してしまいましたが、なかなかの傑作でしたよ。

50年代初頭の戦火のまだ冷めやらぬアムステルダムで、父母と姉とともに暮らすトマスは、大人になったら何になるのかと訊かれて、幸福になると答えるような少年。なぜかといえば、厳格な父親がかなりの難物で、トマスが賛美歌の歌詞を間違えたからといって、木の杓子で尻をいやというほど叩くような性格なのだ。けど、トマスが気にしているのは自分の尻のことなんかじゃなくて、彼をかばって叩かれた母親のことだった。

遠くの公園で木の葉が突風に吹きちぎられるのがわかったり、運河に熱帯魚が泳いでいるのが見えたりするトマスは、自分のノートに "Book of Everything" という名前を付け、見たこと、思ったことをなんでも書き入れていく。そこには、時々現れるキリストとの会話や、父親なんてペストで死ねばいいという願いも書き込まれている。まあ、ペストってなんだかよく知らないんだけど。

そう、トマスの日常は不思議なことばかり。荷物運びを手伝っておそるおそる足を踏み入れた隣の魔女のお婆さんの家では、ベートーベンの音楽とともに、二人の座った椅子がふわふわと宙を漂うし、父親の語るエジプトを襲う災いのくだりでは、水槽の水が真っ赤になったり、カエルの大群が通りを埋め尽くしたり……。まあ、そのたびにトマスは父親からお仕置きを食うんだけど。

ううむ、狂信的な父親の影に怯える少年の話なんですが、いや、意外と明るいです。ちょっとマジカル・リアリズムふうのエピソードが微妙にコミカルですし、最後には家庭内暴力という時代を超えた問題に、トマスを取り巻く女性軍が一致団結して立ち向かうという意外な展開も新鮮です。1時間ちょっとで読み終わってしまうような短い物語ですけど、タイトルに負けないだけの中身がしっかり詰まってますね。

作者の Guus Kuijer はオランダのベテラン児童書作家だそうです。"Kuiper" が「カイパー」なので「カイヤー」かと思ったら、「フース・コイヤー」という名前で邦訳作品もあるようですね。この作品は英訳ですけど、訳者が上手いんでしょうか、知らずに読んだら翻訳とは気づかないような鮮やかな英文になってます。大人向けの作品でも評価の高い翻訳者の手によるもののようですね。オススメ~。

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