Thursday, October 18, 2007

Santa Esperanza, by Aka Morchiladze

Santa Esperanza @ amazon.de黒海に浮かぶサンタ・エスペランサ島を舞台にした作品だそうですが、なんと~、36冊の小冊子がフェルトのケースに入った構成で、地図も付いているんだとか。中身はラヴ・ストーリイや手紙、おとぎ話や神話・伝説・年代記、はたまた e-mail から新聞記事、日記や戯曲、憲法の抜粋から遺言書、そしてなんと6人でプレイするカードゲームまで、ありとあらゆる形式の創作で成り立ってるようですね。

作者はグルジアの……、ええと……、読めません^^; ううむ、なんとか無理してアカ・モルチラッゼということにしておきましょう。グルジアでは人気作家で、テレビのパーソナリティやソープオペラの作者、スポーツ・コラムの執筆など多方面で活躍しているんだとか。本名は Gio Akhvlediani だそうですが、なおさらわかりません^^;

そう、サンタ・エスペランサというのは架空の島で、グルジアの状況を重ね合わせているんですね。グルジア人とトルコ人、イタリア人とユダヤ人、そしてブリトン人が住むこの島国では、内部抗争に外国人が加担して様々なドラマが起きているようです。詳しい内容はこちらの記事で。

でまあ、形式も含めてむちゃくちゃ面白そうなんですが、問題は今のところグルジア語以外ではドイツ語訳しかないということ。ということで、リンクは amazon.de に張っていますが、ま、どうせつまみ読みするだけなんで、ドイツ語版買っちゃいましょうかね。ちなみに、グルジア語っていうのはこういう言語らしいです……って、ページのタイトルに作者の名前がありますので多分そうなんでしょう^^; ううむ、google translation も歯が立たない……って、毎度のことでした。

グルジアでは 500冊ほど売れればベストセラーで、2,000部売れたら大ヒットということですが、ドイツでは既に本国の5倍ほど売れているとのこと。日本語版は……さすがに出ないでしょうね。ともかく、話の種としてだけでも手に入れる価値はありそうです。

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Monday, June 04, 2007

HAV, by Jan Morris

HAV地中海に面したちっぽけな半島に位置する都市国家、ハヴ。もともとはギリシャ人が住んでいたらしいが、長らくトルコの支配下に置かれ、様々な民族が出入りし、マルコ・ポーロが訪れた頃には、中国人の建てた楼閣もお目見えしていたという。

その後イギリスの監視下に置かれ、革命期のロシアの脅威にさらされ、ドイツにも目を付けられていたが、交易路として栄えた昔や、戦時下の要衝としての位置付けはともかく、塩の輸出ぐらいしか経済的価値のない現在では、ほとんど忘れ去られた国と化していた。

往時のハヴは様々な有名人が訪れていたんですけどね。トルストイやディアギレフにニジンスキー、ヘミングウェイが注文したカクテルはいまでも飲めるし、ヒトラーもお忍びで偵察に来ていたという噂もあった。

さて、空港さえなく、あるのは鉄道と海路のみというハヴを、イギリスの有名な旅行記作家ジャン・モリスが訪れたのは 1985年のこと。内乱の勃発により中断されるまで、6ヶ月にわたって滞在した彼女が書き綴った、貧しいけれども自分たちの歴史や習慣、日々の生活に誇りを持って暮らしている様々な階層の人々の物語は、Last Letters from HAV という旅行記にまとめられ、ブッカー賞の候補にも上った。わたしもハヴを訪れてみたいという読者は引きも切らなかったという。

……って、ブッカー賞って、フィクションの賞じゃないですか。そう、小説とはどこにも明記されてなかったんですが、これは架空の国ハヴを舞台にしたフィクションだったんですね。あちこちの欧州の都市から借りてきたような、虚実の入り混じった微妙にノスタルジックで時としてユーモラスな物語は、イタロ・カルヴィーノの世界というよりは、アヴラム・デイヴィッドスンの The Phoenix and the Mirror に出てきた架空地中海史の世界とか、レーナ・クルーンの虫の国滞在期 Tainaron を思わせるようなところがあります。リッキ・デュコルネの偽史・偽博物誌にも通じますかね。

さて、時は下って 2005年、ジャン・モリスは再びハヴを訪れます。空港も出来、高層ビルが建ち、ビーチ・リゾートとして生まれ変わったハヴは、昔の町並みも姿を消し、人々の意識も変わり、厳しくなった警戒の中、モリスの滞在は6日間で中断されます。ハヴを覆っているのは、21世紀の現実でした。ということで、新装版として HAV のタイトルで 2006年に出版された作品には、20年後の章が 100ページほど追加されてます。ただし、この追加によって、この作品の意味は大きく変わってしまったといっていいでしょう。このあたりの経緯は以前にも触れました

たまたま両方の版を持ってましたので、Last Letters from HAV と、20年後の HAV of the Myrmidons を別の本で読むことになったのですが、できれば続けて読まないことをお薦めします。暗いトーンで終わるとはいえ、ある種ルリタニアものの趣を有する HAV の世界を、すぐに現実のしがらみで消し去ってしまうのはなんとももったいなさ過ぎます。作者がここに二重の意味を込めたのは十分理解できますが、それは20年というギャップがあってこそのこと。2冊に分けて出版したほうがよかったかもしれませんね。

じつはこの作品、昨年他界した知人が大好きな本の1冊として上げていたものでした。彼は追加の章、読んでないんですよね。

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Wednesday, December 27, 2006

"Arrival" by Shaun Tan

Arrivalううう、なにこの生き物? かわいい~。なんともいえない「未知との遭遇」のワンショットですが、これは中身が気になります。

あらすじによるとこの本は、住み慣れた故国をあとに未知なる国へと旅立った、移民、難民、流民の物語で、全ての旅人に捧げられた字のないグラフィック・ノヴェルとのこと。

作者のショーン・タンは、"The Red Treeレッドツリー)" で 2002年にオーストラリア児童図書賞を受賞した、在パースのイラストレータです。この "Arrival" は、移民の国オーストラリアの作家ならではの作品なのかもしれませんね。The Viewerタンは、2001年世界幻想文学大賞で、ベスト・アーティストにも選ばれています。

こちらの作者のサイトに、各絵本のイラスト少々と作者自身のコメントがあるのですが、どれもなんだかとってもエキセントリックで好きですね~。まずは1冊試し買いをしたいのですが、どれにしようか迷ってしまいます。ちなみに、他の何冊かの絵本で文を担当しているゲイリー・クルーは、エドガー賞YA小説賞にノミネートされたこともあるオーストラリアの作家だそうです。

彼の絵本のいくつかは、短篇映画や芝居にもなっているんですね。

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Sunday, July 30, 2006

"Mirrors of the Unseen: Journeys in Iran" by Jason Elliot

Mirrors of the Unseen: Journeys in Iranブッシュに「悪の帝国」と名指しされているイラン。欧米との関係改善を図ろうとするも失敗した穏健派ハタミに代わり、保守強硬派のアハマディネジャドが大統領になってからとんでもない方向に突き進んで、国際社会のつまはじき者になっている感がありますが、元は豊かな文化を持つ国です。政治のことは置いておいて、イランの本当の姿とその魅力を伝えようというのが、この "Mirrors of the Unseen: Journeys in Iran"。

Independent のレヴューによると、イランについてかなりの歴史的文化的知識を持つエリオットが、美しく、ユーモア溢れる文章で書いた旅行記とのことで、とても期待できそうです。読者は、ニュースで報道されるイランのネガティヴな面だけでなく、別の側面を見ることができて、バランスの取れたイラン像を描けるのではないでしょうか。

作者の撮った30枚の写真、15枚のスケッチ、そして地図つきとのこと。イスファハンには一度行ってみたいと思っている私には、ちょっと気になる本です。

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Monday, June 05, 2006

HAV, by Jan Morris

HAV!ジャン・モリスの作品は、日本でも『わたしのウェールズ、わたしの家』『ヴェネツィア帝国への旅』『香港』などが翻訳されていて、トラベル・ライターとしては有名なんですが、その彼……いや、彼女の(う~ん、元彼です……っていうと違う意味になってしまうのか^^;)たしか唯一のフィクションに、1985年に出版されてブッカー賞の候補にもなった Last Letters from HAV っていう短い作品があります。

中東の小国を訪れた作者が、人々の姿や日々の生活を、歴史や社会体制を交えて語った紀行文で、発表当時多くの読者がこの小国に行こうと旅行社に出向いたそうです。でまあ、なぜトラベローグなのに「フィクション」なのかというと、お察しのとおり、ハヴは架空の国だったんですね。この作品は、内乱により全体主義的国家に向かうハヴを作者が去るところで終わっていました。

と、まるで読んだみたいに書いてますが、じつは、持ってはいるものの例によって積読のまま^^; そうこうしているうちに、20年後のハヴを描いた続編を付け加えた新版、というか新作が出てしまいました。何年か前にもう本は書かないと宣言した作者のかわいい言い訳がこちらにあります。Last Letters from HAV が20世紀の社会を描いたものだとすれば、続編の Hav of the Myrmidons は21世紀の国際情勢を反映したものとのこと。

相変わらず眼光鋭いル・グィンによる紹介がこちらにありますが、彼女によれば、ユートピア文学的なサタイアのファンタジイではなく、出版社は嫌がるかもしれないが、現実社会を観察することから生まれたSFだそうです。う~ん、ル・グィンのおばちゃんは苦手なんですけど、いつも感心させられてしまうんですよね。ということで、マルコ・ポーロやイブン・バトゥータが世に知らしめ、T・E・ロレンスやヘミングウェイ、ル・カレが滞在したというハヴの街を、これを機会に訪れてみましょうかね。

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Thursday, April 13, 2006

"Mortimer of the Maghreb" by Henry Shukman

Mortimer of the Maghreb砂漠と海のこの表紙と「マグレブ」ときては気になりますね。

旅行作家であり、詩人でもある作者の初短編集だけあって、サハラやカリブなどが舞台になっているようです。

A collection of psychologically complex, often darkly comic stories that take us into the self-made Edens of travelers whose certain paths around the world lead invariably back to the uncertain self だって。出版社の宣伝文うまいですね~。これ読んだだけで 80% 買う気になってます。

もうちょっと詳しくは、Alfred A. Knopf のサイトでどうぞ。

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Tuesday, April 11, 2006

Icelander, by Dustin Long

Icelanderマクスウィーニイからまたヘンな本が出てますね。"Nabokov meets Lemony Snicket" とか "a Nabokovian goof on Agatha Christie" とか不思議な組み合わせの紹介がされてますけど、架空のアイスランドの地下の国を舞台にしたミステリの形式で、かなり遊んでるみたいです。

メインのストーリイは行方不明になった犬を追って地下の国に迷い込んだヒロインが、親友の殺人事件をいやいやながら調べることのようですが、様々な登場人物が語り手を務めて、探偵の一人はヨーダみたいな語り口なんだとか。他にも真の語り手や殺された被害者が脚注でいろいろコメントしているようで、このあたりがナボコフ的なんでしょうか。

4色刷りのシンプルな表紙がなかなか好みなので(たぶん他のマクスウィーニイの単行本のようにカバーなしで直に印刷してあるんでしょう)、これは買いですね。表紙のキツネがどう話に絡んでくるのかも気になりますし。

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Sunday, February 26, 2006

"Lost Cosmonaut" by Daniel Kalder

Lost Cosmonautレトロな表紙がなんとも言えませんが、出たばかりの新刊です。

なにやら作者自身が、ロシアのいくつかのミステリアスな共和国を旅行するらしいですが、どれも実在しないヘンテコな国っぽいです。挙げ句の果ては AK-47 を設計したミハイル・カラシニコフを探したりと、お馬鹿っぽそうで好きかも。

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Wednesday, February 01, 2006

A Tour Guide in Utopia, by Lucy Sussex

A Tour Guide in Utopiaちょっと気になる本がみつかりました。

オーストラリアのファンタジイ系の作家ルーシイ・サセックスの短編集ということですが、どうもこういうトラベローグを意識させるタイトルのつけ方には弱いですね。15年ぶりということはかなり寡作なんでしょうか。

そもそもオーストラリアって大地に根ざしたシュールな幻想を得意とする作家が多いので、ちょっと期待です。たぶんでも、MirrorDance っていうのは小出版社なんで、Australian Online Bookshop とかのジャンルものを扱っているオーストラリアの本屋でないと入手できないかもしれませんね。

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Sunday, August 14, 2005

Les Cités Obscures: Les Murailles de Samaris

Les Cités Obscures: Les Murailles de Samaris なにやらグラフィック・ノヴェルみたいな表紙ですが、え~、グラフィック・ノヴェルです。ベルギーのSchuiten & Peeters のコンビによる BD(バンド・デシネ)ですね。作画担当のシュイテンと脚本のペータース(オランダ系の名前なんで適当にドイツ語読みしてます^^;)は、1988年に発表された第1作のこの作品以来、現在までほぼ10冊ほど Les Cités Obscures のシリーズを描き続けています。

舞台となるのは、現実の都市を模してはいても、微妙に肌合いの異なる架空の都市の数々。蒸気機関車が走りプロペラ機が飛んでいるどこか懐かしい光景なんですが、20世紀前半のイメージなので、産業革命期を扱ったスチームパンクよりは洗練されてます。改変世界もの、とわざわざいうよりは、ジュール・ヴェルヌあたりから延長してきた「懐かしい未来」という形容がぴったりきそうですね。

登場人物があんまり美形じゃなく、風采のあがらない中年男が主人公の場合が多いのが特徴的ですが、大抵の場合ファム・ファタールに導かれ、都市をめぐる陰謀に巻き込まれるという、オーウェルの『1984年』を思わせるお決まりのパターン。とはいえ、このシリーズ、ストーリーなんかどっちでもいいんです。作品の醍醐味は、全編を埋め尽くすありえざる都市の光景と、精緻な建築物の数々にあります。昔の都市計画者や建築家のスケッチブックを眺めている感じですね。

この第1作でも、主人公の住む Xhystos は流麗な曲線によるアール・ヌーヴォーで描かれ、主人公が訪れる砂漠の中の城塞都市 Samaris は、直線中心のルネサンスとギリシャを組み合わせたようなタッチ(まあかなりアール・デコが入ってますが)で対比を見せています。登場人物の服装も建物に合わせてクラシコを基調にしたものですが、この世界の女性の衣服は非常に破れやすいようで、腕をつかんだだけで胸がはだけたり、かなり便利にできてます。色っぽいおねーさんが脈絡もなく突然裸になるのは理解に苦しみますけど、きっとこの世界の風習なんでしょう^^)

都市の秘密を知ってしまった主人公の右往左往は、遥か昔に初期から中期にかけての手塚治虫が描いてたようなプロットで、現在の日本のマンガと比べるとプリミティヴとでもいえそうな出来なんですが、ノスタルジックな背景と組み合わせると、逆に強みになっているようにも思えます。そういえば、『ベルヴィル・ランデブー』も、昔のニューヨークをモデルにした架空の都市ベルヴィルの物語でしたけど、かなりメンタリティは近いですね。それどころか、あの印象的なデフォルメされた船の絵は、ごく似たものが Les Cités Obscures の1冊に出てきますので、直接の影響を受けているのかもしれません。

このシリーズ、英語版も何冊か出ているんですが、絶版になっている場合が多く、なかなか手に入りません。あんまり得意でもないフランス語で(文字を一切使わない会話のみの授業しか受けたことないんですよね)、わからない単語を飛ばして読むと、まあ90%ぐらいわからないことになるんですが(笑)、ストーリーはシンプルですので、眺めて楽しむためだけでも手に入れる価値ありです。

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