The Neddiad: How Neddie Took the Train, Went to Hollywood, and Saved Civilization, by Daniel Manus Pinkwater
さてさて、夏ですから夏向きのスカッとした話でいきましょう。
こちらでちょこっと触れましたカメの表紙がかわいい The Neddiad ですが、やはり期待通りの脱力感バッチリの楽しい作品でした。ナンセンスなストーリイ展開ということでは、イギリスのロウル・ダールに対し、アメリカのダニエル・ピンクウォーターここにありといった感じでしょうか。まあダールのシニシズムや、イギリス的ないびりの伝統は微塵も見られず、いかにもアメリカといったおおらかさや、根っ子にある真摯な姿勢がなんとも心地よい作品です。日本ではほとんど無名というのが信じられない、アメリカの秘宝といってもいいんじゃないでしょうか。
時代は 1940年代末から 50年代初頭にかけてでしょうか、シカゴに住む靴紐王ウェントワースステイン一家は、ハリウッドに出来た帽子の形のピザハウスでピザを食べてみたいというネディーの願いに応えて、大乗り気になった父親に率いられてロサンゼルスに引っ越すことになります。大陸横断の豪華特急スーパー・チーフに乗り込み、3日間の旅に出かけた一家ですが、アリゾナで一時停止の際に、ネディーは置いてきぼりにされてしまいます。というのが、駅に隣接したインディアンの民族展示場に見入っていたネディーは、時間の感覚を失っていたのでした。ネディーはそこで、シャーマンのメルヴィンから、笛を吹きながら踊る男が刻まれたカメの形の石を手渡されます。
やむなくホテルに泊まり次の列車を待つネディーですが、街ではウェスタン・カーニバルの真っ最中で、案内されたのはただひとつ残っていたいわくつきの部屋。そう、夜になるとやっぱり出ました、行儀のよい、ベルボーイの幽霊が! とはいえ、姿かたちは少年ながら、死んで 50年経つというこの幽霊、さまざまな宿泊客と出会い、なかなか経験を積んでました。いっぽう、カーニバルでは、ダートオニオン(ダルタニャン)を初めとした剣戟ものの主役で有名な花形役者の息子と知り合いになり、ネディーはこれからロサンゼルスに帰るという彼らの車に同乗させてもらうことになります。一度グランド・キャニオンを見てみたいというベルボーイのビリーも一緒にいくことになりました。
さてさて、グランド・キャニオンを空から眺めようという一行は、小型のプロペラ機に乗り込みますが、そこにはどうしてもパラシュートを身につけていたいといいはる東欧なまりのみょうちきりんな男、サンダー・ユーカリプタスも同乗してました。そして、空の上で、ユーカリプタスはネディーに銃を突きつけ、カメのお守りを奪います。パラシュートを開き、グランド・キャニオンへと消えていくユーカリプタス。はてさて、シャーマンから受け継いだ大事なお守りを無くしたネディーはいったいどうするんでしょうか……。
いやまあ、結末間際まで、少々ナンセンスでスラップスティックな話が進んでいきますので、あんまり心配はいらないんですけどね。ともかく無事にロサンゼルスへたどり着き、家族と再会したネディーは、役者の息子につられてミリタリ調の学校に通い、天然のタール・ピットから現われたサーベル・タイガーやマンモスの骨格に驚き、一見しとやかなお人形さん、じつはカウボーイ役者の父親譲りの親分肌の女の子と知り合いになり、友人のサーカス一座を訪ねたりしながら、新しい仲間たちと共に、カメ石を狙うさらなる悪巧みに立ち向かいます。揃いの黒服に身を固めた恰幅のよい十人組の警官なんていう文字通り人間離れした怪しい脇役も登場しますよ(たぶん他の作品にも出てくるキャラじゃないかと思いますが)。シャーマンのメルヴィンとも意外な形で再会しますし……って、この人、じつはずっと出ずっぱりなんでした^^;
さてさて、カメ石については、お約束どおり地球の運命に関わる重大な秘密が隠されていて、それを受け継いだネディーは、世界の安定を保っているパワーの源の力を借りて、太古の地神を鎮めるというなかなかクトゥルーふう……というよりは、かなりニュー・エイジふうの展開が待っているんですが、ピンクウォーターの場合、じつはお話のまとめの部分はどっちでもいいんですよね。まあのほほんな展開で気ままに寄り道しながら、最後にはきちんとまとめるというのは作者の生真面目さの表れではあるんですが、ピンクウォーターの真髄はほんとは寄り道にあります。このあたりがね~、誰でも知ってるベストセラーにならずに、その素晴らしさを発見した人たちによって支えられたロングセラーになっている原因でしょうね。Lizard Music なんかも、決して有名作品ではありませんが、かなり以前の出版にもかかわらず、絶版にならずに読み継がれているようです。
作者がこの作品で試みたのは、あからさまなメッセージの押し付けではなく、ごくシンプルに、作者が子供時代に好きだったものを、決してノスタルジイではないリアルタイムの視点で綴った、いわばエッセイを物語の形で発展させたものといえるでしょう。そう、50年以上前の風物を描きながらも、作者のワクワク感は今の読者にダイレクトに伝わってくるはずです。いつの時代を書こうとも常に「今」となる、ノスタルジイの通用しない児童書という枠組みがまさにピッタリの作品ですね。そんなあたりが大人が読んでも感心してしまう秘密じゃないでしょうか。
ううむ、暑さでぼけ~っとしてきて、最後のほう、何をいいたいんだか自分でもよく分からない紹介になりましたが、ともかく、のんびりと夏を過ごすには最適の本ですよん^^Y
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