Sunday, July 01, 2007

On Gabe Chouinard

先週 spec fic 界を吹き荒れたゲイブ・シュイナード旋風のことはご存知だろうか。

ゲイブ・シュイナード(本人の弁によれば、家族の間ではシェイナードと発音するということだが)、多分ご存知の人はご存知の、時々登場する批評よりは、ネット一口の悪いアジテーターとして名を馳せ、その考え方よりは、spec fic への攻撃的なアプローチが、結果として全体に活力を与えた奇妙な男である。

じつはわたし自身、米英のフォーラムに参加するきっかけになったのがシュイナードだった。多分彼の表立った活動としては最初期の、SF Site に掲載されていた Dislocated Fictions に、なにか新しい動きが生まれている気配があったので、それが具体的に何なのかを知りたいというのが直接の動機だった。2001年のクレジットがあるので、今から6年前のこと。ところが、シュイナードには答えを出すことには興味はないようで、口に出すのは常に「動き」で、結局最後まで答えはもらえなかった。

だが、その後の2代(3代だったかな?)の Dead Cities のフォーラムや、ジェフ・ヴァンダーミアらを巻き込んだ Fantastic Metropolis などを通じて、わたし自身様々な作品へと視野が広がり、多くの知り合いを得て、シュイナードからの直接の影響はほとんどなかったものの、結果として多くのことを学んだ。

ところがシュイナードは、その後も一つのところに留まることなく、次々と新しい批評サイト、フォーラム、ブログを立ち上げては潰し、こちらも数年前からその動向を追うことはなくなっていた。どうも家族がらみで苦労が多いだけでなく、本人自身も落ち着かない性格だったようだ。

で、そのシュイナードの最後の仕事が、今年5月にもう一人の批評家と始めた批評サイト、Scalpel。だが、1号を発表したのみで、そのサイトは既にない。掲載する予定だったシュイナール自身によるジョン・トウェルヴ・ホークスのインタヴュウを他に転用したあと、相棒は一方的に置いてきぼりをくらったそうだ。このあたりの顛末はヴァンダーミアのブログがわかりやすい。

そして、魔の 27日。シュイナードの管理していたサイト、フォーラムはすべてネット上から消えた。この中には、数年前に『ロック・ラモーラの優雅なたくらみ』の作者スコット・リンチに譲り渡し、今は Frameshift と名を変えた Dead Cities のフォーラムも含まれていた。つまりは、ここ6年ほどの spec fic の作家や読者の議論ややり取りが、すべて消されてしまったのだ。最近は覗いていなかったとはいえ、なんともね……。

まさかとは思ったが、やはりヴァンダーミアによれば、ゲイブ・シュイナードがすべて消したということらしい。じつは数日前に自動車事故に遭い、肋骨を折って5日間入院していたそうだが、退院して早々のシュイナードの最初の仕事がこの大騒動だったのだ。

本人はもう spec fic に戻ることはないと明言しているそうなので、少なくとも今後この世界で名前を目にすることはないだろうが、なんとも困った幕引きである。最初から最後までつむじ風のままで、結局益よりも害のほうが大きかったのかもしれない。ただひとつの救いは、シュイナードがあらゆるところに残した人々のつながりである。彼の動きをきっかけとして、様々なところで、様々な動きが連鎖反応的に起こった。奇妙な仕掛人がいたものである。

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Friday, May 18, 2007

Win a Signed Copy of Useless America by Jim Crace

Useless Americaジム・クレイスの幽霊本(って、幽霊が出てくるわけではなくて実在しない本のことですけど)Useless America については以前取り上げましたが、なんと、Powells.com ではほんとうにこの本を出版してしまうそうですよ。限定75部で作者のサイン入り、クレイスの架空の題辞にちなんで、うまい題辞をでっち上げた人に進呈されるとのことです。5/28 締め切りで誰でも応募できるようですので、脛に傷のある方……、じゃない、腕に覚えのある方はトライしてみてはいかがでしょう。まあ実際は題辞の部分のみが本物で(つまり今回の受賞作品で)、本文の部分はブランクなんだそうですが。

The Pesthouse (UK)The Pesthouse (US)で、クレイスの本物の新作の The Pesthouse のほうは、放置された環境問題のせいで中世に逆行してしまったアメリカが舞台ということで、コーマック・マッカーシーの The Road なんかと比較されているようですが、イギリス作家の描くポスト・ホロコーストのアメリカは一味違って面白そうですよ。といいながらまだ積んだままですが^^;

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Saturday, May 05, 2007

David Mitchell on The TIME 100

The TIME 100なんと~、デイヴィッド・ミッチェルが今年のタイムの The TIME 100 この世界を形作る100人にリストされているではないですか。100人のうちで作家が2人だけで、もう一人がノーラ・ロバーツ(meeeh!)っていうのはそんなもんなのかな~という気もしますが、やっぱり期待の若手ナンバーワンなんでしょうね。

いちおう一通り 100人の名前だけ眺めてみましたが、かなり知らない人が多くて、どうもわたしが世情にうといことが実感されたリストでした。まあ正直あんまり面白いセレクションじゃないですけどね。

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Tuesday, April 24, 2007

International Pixel-Stained Technopeasant Day

出遅れてしまいましたが、4/23 は International Pixel-Stained Technopeasant Day(国際ピクセルまみれのテクノ小作人の日)だったんですね。え、ご存じない? じつはわたしもついさっき知りました^^;

ことの発端は SFWA(SF作家協会)の副会長のハワード・ヘンドリクスが、ウェブで作品を無料で公開するのはスト破りみたいなもんじゃないかと批判したことにあるようです。

これに対してジョー・ウォルトンが 4/15 付けで、4/23 を International Pixel-Stained Technopeasant Day(略称 IPSTP Day; 日本語では国際ピまテこの日と仮に名付けましょう)とする旨宣言し、プロ・レベルの作品(小説、短編、詩、歌など)をウェブ上で公開することを呼びかけました。

こちらピまテこのオフィシャル・コミュニティが立ち上がっていますが、どんなアーティストが何を公開しているのか掘り出してみるのは楽しそうですよ。ちなみにチャールズ・ストロスはローカス賞の候補にも挙がっているノヴェラ "Missile Gap" を公開しています。

そういえば 4/23 はサン・ジョルディの日で、シェイクスピアの誕生日・命日、セルバンテスの命日なんですね。国連でも World Book and Copyright Day(世界図書・著作権デー)ということで、著作権について考えるにはピッタリの日でした。いやまあ日本ではもう過ぎちゃいましたが。

ということで今年から始まったピまテこの日なんですが、定着して欲しいですね。う~ん、うちのブログでプロ・レベルの原稿といえば……考えてみるまでもなくありませんでした^^; 供給者としての参加はあきらめて、消費者として貢献しましょうかね。

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Saturday, November 11, 2006

Bad Voltage, by Jonathan Littell

Bad Voltage今年のゴンクール賞を受賞したジョナサン・リテル(う、ドメインがロシアだ^^;)の作品です……って、こちらは学生時代に書いた 1989年出版のサイバーパンクのカバーですけど^^) しかしなんともいえない趣味してますね。

スパイ・スリラーで有名なロバート・リテルの息子で、れっきとしたアメリカ人なんですが、フランスで育ったそうですね。紛争地帯への食糧援助をしている団体で働いていて、銃撃で大怪我を負ったこともあるという活動家のようです。Les Bienveillantes

ナチのホロコーストを司令官の視点から語った Les Bienveillantes は、フランクフルト・ブック・フェアでは英語版の版権をめぐって争奪戦があったそうですけど、ゴンクール賞受賞ということで HarperCollins はかなり得をしたんじゃないでしょうか。英語版は 2008年出版予定とのことで、早く読みたい人はフランス語と 900ページ格闘しなきゃいけないみたいですよ。パス。

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Wednesday, November 01, 2006

Useless America, by Jim Crace

アマゾンを見るとジム・クレイスの新刊 Useless America が9月末に発売されたことになっていますが、じつはこれ、作者が書いた覚えのない幽霊本なんだそうです。一応出版予定ということで、出版社の Viking が仮の名前でデータベースに入れてたんですね。

The Pesthouse実際の新刊は出版社が Picador に変わり、来年の3月に予定されている The Pesthouse だそうです。冒頭の "This used to be America, ..." の部分がいつの間にか Useless America に化け、仮のタイトルとして流通していたらしいです。詳しい話はこちらで。

じつはかなり先の出版予定まで ISBN が取られカタログ化されるのは珍しいことではなく、たとえばティム・パワーズの Moonlight Becomes You (完全幽霊本)や、イアン・M・バンクスの SF Novel (こちらは最終的に The Algebraist というタイトルで出版)など、ファンの間ではかなり有名です。データ化された幽霊はおいそれとは消えないもんなんですね。

ちなみに、ジム・クレイスは自作の題字に架空の作家や作品の引用を使うことが多いそうですが、クレイスがでっち上げたギリシャ・ローマ時代の地理学者 Pycletius (ピクレティウス?)は、The Oxford Companion to English Literature に記載されたそうです^^)

ということでハロウィン向けに幽霊本の話題でした……って、今日はもう11月じゃないですか^^;

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Thursday, October 05, 2006

An Incomplete History of the Art of Funerary Violin, by Rohan Kriwaczek

An Incomplete History of the Art of Funerary Violin19世紀初頭のヨーロッパでは、それぞれの町や村に葬送のためのバイオリン弾きがいて、独自の音楽を培ってきたんですが、これをこころよく思わない教会の弾圧に遭って、1830-40年代の大葬式粛清時代にほとんど姿を消したそうです。この作品は、細々と現代まで生き延びた葬送バイオリニスト・ギルドに属する作者が、秘史ともいえる葬送バイオリンと時代とのかかわりに光りを当てたノンフィクションだそうです。

とまあ、これだけではフーンでおしまいになってしまう話なんですけど、アマゾンでも売ってるこの本、その存在自体がまったくのデマなんだとか。こちらのNYタイムズの記事に詳しいですが、この作品のアメリカでの出版社のカタログを見て、ある書店が音楽史の専門家に葬送バイオリンについて問い合わせたのが事の発端で、そんな史実はないと知らされた出版社が作者に確認して、まったくの冗談であることが判明したというもの。イギリスの出版社と作者の手の込んだジョークだったんですね。

An Incomplete History of the Art of Funerary Violinちなみに、作者のサイトには、葬送バイオリニスト・ギルドやこの本の紹介がまことしやかに書かれています。で、気になるのがアマゾンUKで現在セールス・ランク 104位のこの本が、果たして手に入るのかどうかということ。記事を見てジョークで注文した人がかなりいるんでしょうか。注文が集まったからと、案外ジョークで出版されちゃったなんていうことも起こるかもしれません^^) いちおう日本のアマゾンでもリストされてますので、だれか注文してみませんか? いえ、わたしの場合、こういうしょうもない話題にするのもバカらしい本に手を出す趣味はまったくありません……けど、気になりますね^^;

おっと、アメリカ版もリストされてました。こっちのカバーのほうがよさそうですね。

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Sunday, October 01, 2006

Hagakure in End of the World Blues

End of the World Bluesquark さん命名の nawa-no-ukiyo が、ジョン・コートネイ・グリムウッドの新作 End of the World Blues に登場することは以前お伝えしましたが、その現物を手に入れました。

じつは何を隠そう、神出鬼没の quark さんとわたしは忍者の末裔で(嘘)、葉隠れに関する権威でもあるので(大嘘)、グリムウッドのたっての頼みで(誇張)、作品に登場する葉隠れからの引用を正しく英語にする手伝いをしたのでした(ちょっとホント)。

で、そのグリムウッドですが、なんともうれしいことに、巻末の謝辞の冒頭で、そのことに触れてくれています^^)

Acknowledgements

(a nanny mouse) and (quark) for translating lines from Yamamoto Tsunemoto's Hagakure Kikigaki. Without this help writing EWB would have been much harder. Also my thanks for their help in coming up with a suitable Japanese term for 'floating rope world...' (All of the suggestions were excellent, but nawa-no-ukiyo caught exactly the right combination of history and artistic subversion.)

ううむ、そんな大それたことをしでかした……いえ、たいした事をしたわけではないんですが、あれでよかったんでしょうか^^; いやまあ、うまく行ってるところはわたしのおかげで、まずいところは quark さんのせいなのは確かなんですけど。はてさて、読んで確かめてみましょうかね。

[追記] こちらに感想上げました。(2007/4/22)

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Saturday, September 30, 2006

Atwood Wields the LongPen

LongPen以前 quark さんがご紹介していたマーガレット・アトウッドの遠隔サイン機ですが、LongPen の名前で実用化され、ほんとうに使ってるみたいですね。とはいいなら、いろいろトラブルは多いようで、いざ本番というときに、人ゴミによる熱気でコンピュータが故障したりとか、なかなかスリリングなようです。

今回はスコットランドでのサイン会の様子をアトウッドが紹介してますが、(モデルじゃない『ラビリンス』の作者の)ケイト・モスがロンドンからトロントのファンにサインしたりと、意外にもうまく行ってしまってなにやら拍子抜けのご様子。下品なバラッドなんかこしらえてオチャメですね^^)

We sign'd it ance, we sign'd it twice,
We sign'd it four times forty;
And all wha' said it wud nae wurk
Can stuff it up their shortie.

最初にこの話を聞いた時に、ジョークだと信じて疑わなかったわたしは素直に脱帽します。いえ、依然としておバカだとは思いますが、そのおバカなことをほんとうにやってしまうなんてやっぱりエライです^^;

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Saturday, September 09, 2006

Banksy Punked Paris Hilton

Parisちょっと趣向を変えてセレブの話題などいかがでしょう^^)

以前作品集を紹介したイギリスのグラフィティ・アーティストの Banksy ですが、こんどはパリス・ヒルトンをターゲットにして話題になっています。なんでもイギリス各地のレコード・ショップで、パリスのデビュウCDを、バンクシイお手製のカバーをつけたリミックスにすりかえたとのこと。500枚といえばそうとう手間がかかったでしょうね。

で、その中身はといえば、こちらで改竄された内容が見られます。すりかえの様子はこちらで。

だれも返品した人はいないということですが、eBay あたりでかなりの高値になっていそうですね。Banksy の「作品」だったらわたしも欲しいかも^^)

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