On Gabe Chouinard
先週 spec fic 界を吹き荒れたゲイブ・シュイナード旋風のことはご存知だろうか。
ゲイブ・シュイナード(本人の弁によれば、家族の間ではシェイナードと発音するということだが)、多分ご存知の人はご存知の、時々登場する批評よりは、ネット一口の悪いアジテーターとして名を馳せ、その考え方よりは、spec fic への攻撃的なアプローチが、結果として全体に活力を与えた奇妙な男である。
じつはわたし自身、米英のフォーラムに参加するきっかけになったのがシュイナードだった。多分彼の表立った活動としては最初期の、SF Site に掲載されていた Dislocated Fictions に、なにか新しい動きが生まれている気配があったので、それが具体的に何なのかを知りたいというのが直接の動機だった。2001年のクレジットがあるので、今から6年前のこと。ところが、シュイナードには答えを出すことには興味はないようで、口に出すのは常に「動き」で、結局最後まで答えはもらえなかった。
だが、その後の2代(3代だったかな?)の Dead Cities のフォーラムや、ジェフ・ヴァンダーミアらを巻き込んだ Fantastic Metropolis などを通じて、わたし自身様々な作品へと視野が広がり、多くの知り合いを得て、シュイナードからの直接の影響はほとんどなかったものの、結果として多くのことを学んだ。
ところがシュイナードは、その後も一つのところに留まることなく、次々と新しい批評サイト、フォーラム、ブログを立ち上げては潰し、こちらも数年前からその動向を追うことはなくなっていた。どうも家族がらみで苦労が多いだけでなく、本人自身も落ち着かない性格だったようだ。
で、そのシュイナードの最後の仕事が、今年5月にもう一人の批評家と始めた批評サイト、Scalpel。だが、1号を発表したのみで、そのサイトは既にない。掲載する予定だったシュイナール自身によるジョン・トウェルヴ・ホークスのインタヴュウを他に転用したあと、相棒は一方的に置いてきぼりをくらったそうだ。このあたりの顛末はヴァンダーミアのブログがわかりやすい。
そして、魔の 27日。シュイナードの管理していたサイト、フォーラムはすべてネット上から消えた。この中には、数年前に『ロック・ラモーラの優雅なたくらみ』の作者スコット・リンチに譲り渡し、今は Frameshift と名を変えた Dead Cities のフォーラムも含まれていた。つまりは、ここ6年ほどの spec fic の作家や読者の議論ややり取りが、すべて消されてしまったのだ。最近は覗いていなかったとはいえ、なんともね……。
まさかとは思ったが、やはりヴァンダーミアによれば、ゲイブ・シュイナードがすべて消したということらしい。じつは数日前に自動車事故に遭い、肋骨を折って5日間入院していたそうだが、退院して早々のシュイナードの最初の仕事がこの大騒動だったのだ。
本人はもう spec fic に戻ることはないと明言しているそうなので、少なくとも今後この世界で名前を目にすることはないだろうが、なんとも困った幕引きである。最初から最後までつむじ風のままで、結局益よりも害のほうが大きかったのかもしれない。ただひとつの救いは、シュイナードがあらゆるところに残した人々のつながりである。彼の動きをきっかけとして、様々なところで、様々な動きが連鎖反応的に起こった。奇妙な仕掛人がいたものである。
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