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Tuesday, September 18, 2007

The Last Cavalier: Being the Adventures of Count Sainte-Hermine in the Age of Napoleon, by Alexandre Dumas

The Last Cavalierアレクサンドル・デュマの新作が英訳されたそうですよ……って、デュマが晩年に書いた未完の新聞連載小説で、本の形ではまとまっていなかったものを、研究者が発掘し、本国フランスでは 2005年に出版されたものだそうです。英訳でもハードカバーで 750ページというかなりの大作ですが、これでもデュマの構想の3分の1程度だとか。全体のストーリイ自身はアウトラインが残されているようです。

物語は、デュマが他の作品では書くことのなかったナポレオンの時代を背景にしていて、王党派のサント・エルミン伯エクトールの受難と冒険を描いたものだとか。結婚を目前にしてナポレオンに捕まったエクトールは、一船員として海外に赴くことを条件に解放されますが、まあデュマの主人公ですから、行く先々で剣を片手に大活躍、女性にはモテモテで……という、ファンには堪えられない面白さだとか。人間相手の戦いだけでなくなにやら秘境冒険ものも楽しめるようですよ。エピソードを積み重ねるような展開の中に、有名人の伝記やファッション、風俗、地理、歴史への含蓄がユーモアを交えて語られ、中途で終わっているからといって面白さが減じるものではないそうです。

そもそもデュマの父というのが、一時はナポレオンのライバルと目されたほどの軍人ながら、若くして亡くなったため、デュマ一家はかなり苦労したとのこと。ということで、ナポレオン寄りというよりは、相当揶揄を込めて書かれていることが想像されますが、作者の意図は、エクトールを視点人物として、ナポレオン時代の主な出来事をパノラマ的に描くことにあったとのこと。まあそのあたりのお勉強は横に置くとしても、モンテ・クリスト伯的な立場の主人公がダルタニャン風の活躍をするというだけで、これはちょっとほっておけないかも^^)

ちなみに以上はデュマの大ファンを自認する有名な書評家、Michael Dirda のレヴュウのかなりいい加減な受け売りですので、きちんとした内容を知りたい方はそちらを参照ください。

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Monday, September 17, 2007

Into the Wild, by Sarah Beth Durst

Into the Wildギリシャ神話の神々が人間に混じって生活しているのなら、童話の登場人物たちも負けてはいません。

主人公ジュリーはフツーの女の子で、ほんとにフツーの生活をしたいんですけど、ママのラプンツェルがパーティーを開くといえば、もうどうしょうもなく sexist な7人の小人の爺さんたちがやってくるし、ママの知り合いのシンディーは暴走狂だし、兄のブーツはメイド服に身を固めたネコだし、おばあちゃんは悪い魔女だし、ベッドの下ではほとんど叢にまで落ちぶれた「野生」ができそこないの魔法の品を吐き出しているし、とてもじゃないけど友だちを家に呼ぶことさえできない……。

ということで、中世の終わりに力を失った「野生」の元を逃れてきた童話の主人公たちが、人間界でごくフツーの生活を送ってるんですが、なにやら野生が力を取り戻し、大変なことになっちゃうみたいです。野生に乗っ取られた町と、人質に取られた母を救うため、ジュリーと兄とおばあちゃんが童話の世界で大活躍。

このパターンは最近流行りみたいですね。児童書では Tom Trueheart とか Into the Woods なんてのがありましたし、アニメの Hoodwinked や大人向けコミックの FablesCastle Waiting なんてのが出ています。この作品はちょっとチック・リット的なYAものっていうあたりが新鮮ですかね。作者のサラ・ベス・ダーストはこれがデビュー作のようです。期待しましょう。

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Gods Behaving Badly, by Marie Phillips

Gods Behaving Badly (uk edition)Greek Myths とか書いてあるとつい Geek Myths と読み間違えてしまう今日このごろですが、なんか読み間違えても問題なそうな本が出てました。

誰も信じるものがなくなって力を失ったギリシャの神々が、人間の世界に紛れてそれぞれの特技を生かしながら暮らしています。狩人のアルテミスは犬の散歩師、美の神アフロディテはテレフォン・セックスのオペレータ、太陽神アポロはテレビの超能力者……って、う、いかにもありそうな感じ^^;

Gods Behaving Badly (us edition)まあギリシャの神々ですから、もともと「超」が付くくらい人間的なので、行儀良く人間世界に収まってるわけはないんですが、どうもごく普通のカップルが神々のいざこざに巻き込まれて振り回されてしまうスラップスティックのようです。なかなかお馬鹿で楽しそう。英米ともにカバーもなかなか洒落たデザイン。どちらも地色がオレンジなのは、なにか理由があるんでしょうか(オレンジ賞を狙っているなんていうベタな背景はないとは思いますが^^;)。

ニール・ゲイマンの American Gods やスティーヴン・シェリルの『夢見るミノタウロス』、はたまたジョン・C・ライトの Children of Chaos のイメージですかね(いやまあ、最後のはロジャー・ゼラズニイの「アンバー」の雰囲気なのでちょっと違うでしょうけど)。

作者のマリー・フィリップスはブロガーとしても有名な人だったらしいですが、デビュー作を機に引っ込んじゃったんでしょうか、invite only になっちゃってますね。

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Thursday, September 13, 2007

R.I.P. Madeleine L'Engle (1918-2007)

ちょっと時間がたってしまいましたが、やっぱりマデレイン・レングルが亡くなったことは書いておかないと。わたしの読書の好みを決定付けた1冊、『五次元世界のぼうけん』を書いた人ですから。というより、小学生時代にこういうむちゃくちゃ面白い本があったから、読書にとりつかれてしまったんですよね。

A Wrinkle in Time1962年に出版された『五次元世界のぼうけん』(A Wrinkle in Time)は、今の時代でいえばハリー・ポッターに匹敵するような位置付けにあるんでしょうけど、そのぶっとび具合はハリポタなんか目じゃありません。C・S・ルイスのナルニアやフィリップ・プルマンのライラの冒険あたりと並べてみるのが適切かと思いますが、なんともヘンテコな世界を背景に、個性的な登場人物たちによる奇妙な冒険が語られ、実質はファンタジイなんですが、擬似SF的な理屈っぽさが大きな魅力になってます。かなり宗教的なモチーフも顔を出しているんですが、ここまで面白ければそれも邪魔にはなりません。

正直、大人の目から見れば、作者の興味の対象をなんでも放り込んだような気紛れな展開は、けっして上手いとはいえませんけど、不思議なものならなんにでも興味を示す子供にしてみれば、そこが楽しみなんですよね。最終的にあんまりまとまりのよくない4部作になり、そこから枝分かれして別のシリーズも生まれたりしましたが、大人になってから読んだ2巻目以降は印象に残りませんでした。日本では復刊時にたしか3巻目まで揃って出ましたが、それほど話題にならずに消えてしまったように思います。までも、こういう作品はそれでいいのかな。

アメリカではずっと絶版にならずに読み継がれてきて、今年の5月には4冊揃いのペーパーバックの新装版も出ているようですので、久しぶりにまた手を出してみたくなりました。先ごろのロイド・アレクサンダーに続き、子供時代の愛読書の作者が亡くなってしまうのは寂しいですけど、相変わらず今でもどこかで初めてこの本を読む子供がいるのかと思うと、ちょっと微笑ましくなりますね。あんまりヘンテコな趣味に染まらないといいんですが^^)

苗字の  L'Engle は、フランス語発音の「ラングル」かと思ってましたが、英語的に「レングル」と発音するのが正しいようですね。作者の人となりや作品の概要についてはNYタイムズの追悼記事がよくまとまっています。

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