Run, by Ann Patchett
ををを、あの『ベル・カント』のアン・パチェットの新作ですよ。アメリカ版は10月なのに、イギリスでは今月先行発売というのは、『ベル・カント』がイギリスで特に売れたってことなんでしょうかね。たしかにアメリカでは、口コミや書店のプッシュという草の根的なサポートでじわじわ売れて評判になった本で、普通の全米的なベストセラーとはかなり趣きを異にしてましたもんね。日本では一部でトンチンカンな読まれ方をしただけで、なんとも不思議なことにほとんど評判になりませんでしたし。いやでも、わたしにとっては年間ベストのむちゃくちゃいい本でした。
ということで新作の Run にも期待してしまいます(って、過去の作品もかなり集めたのに、ぜんぜん読んでないのはなぜだ^^;)。前作はノンフィクションでしたので、小説としては 2001年の『ベル・カント』以来ということになりますかね。
大家族を夢見ながら果たせなかった妻は、一人息子では満足せず、黒人の兄弟を養子にします。ところがその妻は、兄弟がまだ幼いうちに他界し、二人の世話は主人公に委ねられたのでした。兄弟は健やかに育ち、兄は魚類学者になるべくハーヴァードへと進学し、弟は聖職者になりたいという希望を持ち始めます。とはいえ、ボストンの市長を務めたこともある主人公は、息子の誰かを政治家にしたいという願いを捨て切れません。兄弟は父親に引きずられてジェシー・ジャスソンの演説を聴きに行きますが、反発した弟は、勢い余って道路へと飛び出してしまいます。そこへ向かってくる一台の車……。間一髪で急場を救ったのはひとりの黒人女性でしたが、彼女は大怪我を負い病院へ。その場に残された11才の娘を代わりに世話する主人公ですが……どうもそこには隠された動機があり、その後の登場人物たちの人間ドラマのなかで、秘密が解きほぐされていくようですね。
『ベル・カント』のようなインパクトのある設定ではないようですが、パチェットを読む楽しみは、極上の文章で語られる、ユーモアと痛みに等分に筆を割いた包み込むような物語なので、正直、特別に凝った筋立ては要らないのかもしれません。『ショコラ』のジョアン・ハリスにも通じるような、いつ奇跡が起こっても不思議じゃない(けど物理的には起こらない)張り詰めたような雰囲気はきっと健在なんでしょうね。そう、ほんの少しでもショックを与えると結晶が現われる、あるいは凝縮が始まるという過飽和状態を維持するのが天才的にうまい作家なんです。
基本的にアメリカ作家の作品は米版で買うことにはしてるんですが、夏に出るのに雪景色という英版の表紙もきれいですので、英版買っちゃいましょうかね。ま、結局両方そろえちゃいそうな気もしますけど。ちなみに『ベル・カント』は珍しく邦訳も読みましたけど、パチェットの独特の雰囲気は翻訳ではなかなか出ないので、原書で読むことをお薦めします。それにおそらくこの新作はよほど評判にならないと翻訳されないでしょうし。

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