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Tuesday, July 24, 2007

Blindsight, by Peter Watts

個人的に大プッシュ中のピーター・ワッツの『ブラインドサイト』ですが、以前紹介したものよりもう少し詳しいレヴュウを書きましたので、ポストしておきます。作品のほうは作者のサイトでも公開されてますので、読まないのはもったいないですよん^^)

Blindsight自分を自分であると認識すること――自我の意識は、人間と動物とを分けるひとつの指標だといわれている。厳密にいえば、ゴリラやチンパンジー、幼い人間の子供にはないが、オランウータンは自他を認識しているという。

さて、人間の精神活動とは切っても切れない特性として認識されてきた「意識」だが、そもそも「意識」と「知性」と「種の保存」の間には、それほど緊密な関係があるのだろうか。そして、それに付随して生まれた「同情」や「良心」には、いったいどんな意味があるのか。これまで海洋SFを書いてきたワッツが、初めて宇宙に飛び出しファースト・コンタクトものに挑戦した本作では、精神的な改変を受けた人々や AI、はたまた化石遺伝子から復元したヴァンパイアまでが登場して、不可解な異星生物に翻弄される中で、知覚や意識、知性に関する様々な議題をまな板に乗せ、解体し、冷徹な現実に基づいて再構成し、常識に疑問を投げかける。

主人公は、子供時代に癲癇の治療のために脳半球を切除したシリ・キートン。手術の結果、人間的な感情は失う代わりに、他者の反応を客観的に観察して瞬時の状況判断ができる「統合者」の能力を身に着けていた。彼の叙述は、自閉症者のモノローグで語られた、エリザベス・ムーンの『くらやみの速さはどれくらい』を思わせるものがある。非人間的な息子の誕生を悲観して「ヘヴン」という VR 施設に引きこもる母親や、キートンにいささかなりとも人間的な感情を呼び起こそうとするカウンセラーの恋人の心配をよそに、そのキートンにうってつけの任務が現われた。カイパー・ベルトの近辺に発見された、異星人の構築物らしい存在である。

21世紀末、人類はファースト・コンタクトを経験した。それは夜空を等間隔に染める流星雨として降り注いだプローブの群れの形で現われた。出所をつきとめた人類は、量子コンピュータの AI が制御する宇宙船「テーセウス」を用意し、異星生物に対応するための専門家のチームを組織する。体中を各種計測のためのセンサーで機械化した生物学者、多言語分析のため四重人格化された言語学者、そして、部下を見殺しにしながらも交渉を成し遂げた平和主義者の戦闘家がメンバーとして選ばれた。

また、量子 AI の思考を理解するには、ホモ・サピエンスとは異なる認識構造を持つ、ホモ・ヴァンピリスの船長が不可欠だった。自力では合成できない特定のタンパク質の確保のため人類を狩ったヴァンパイアは、自然界にはなかった直交座標の登場により 70万年前に絶滅したのだが、特殊能力を買われ復活していたのである。いや、ヴァンパイアの遺伝子の一部は他の隊員にも移植されていた。コールド・スリープから目覚めるには不可欠だったのだ。そしてキートンは、対象を理解しないまま全体像を把握するという統合者の能力を生かし、各隊員間の状況認識の整理を行うコミュニケーションの役目を負うことになる。

彼らを迎えた異星の巨大宇宙船は英語を話し、自らを「ロールシャッハ」と名乗った。だが、侵入の試みは、熱や放射能、電磁波といった物理的な障壁に始まり、次第に不可解な出来事によってことごとく排除され、徐々に、隊員たちのほうが精神的な影響を受け始める。アルジス・バドリスの『無頼の月』を思わせる、理解不能な構築物との不毛なセッションの趣である。

そして、意外な異星生物に相対しての、「意識」は「知性」にとって不可欠なものなのか、それともたまたま人類が獲得した形質に過ぎず、保身のために脳が見せる幻覚や、あるいは自意識に縛られないサヴァン症候群の人々が見せるひらめきが示すごとく、「枷」でありうるのではないかというスリリングな議論で、作者の筆は真骨頂に達する。

主人公の内面にも等分に筆を割き、サスペンスに満ちたアドベンチャーものとしてのしっかりしたストーリーを維持しながら、背景に織り込まれた現代的なアイデアの数々にも細心な注意が行き届いている。それも、ストロスを遥かに上回るような情報量を盛り込みながら、リーダビリティをまったく落とさない作者の力量は並のものではない。そして、久々に骨太なハードSFを読んだ充実感を感じさせるテーマの掘り込み。透徹した科学的議論が、叙事詩的な美を獲得するのは、稀有の傑作の証拠だろう。21世紀のレムの後継者、あるいはイーガンやチャンのライバルの登場といったら、いいすぎだろうか。

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Comments

しっかし、いつ見ても悲惨なカバーですね。作者も業を煮やして、アイデア段階のいくつかの原画をベースに代わりのカバーを用意して、自分のサイトでダウンロードできるようにしています。

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, July 24, 2007 at 20:12

ということで、カバーを本来あるべき姿に入れ替えてみました^^)

Posted by: a nanny mouse | Thursday, July 26, 2007 at 20:56

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