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Thursday, May 24, 2007

The Somnambulist, by Jonathan Barnes

The SomnambulistThe Somnambulist、読みましたが、これがなんとも意外な面白さ。文学的メリットのまるでない全くのナンセンスで、とうていあり得ないようなうそくさい登場人物による複雑怪奇な話で、いかにも素人くさい文章で書いてあるし誰も信じないだろうと語り手自身がいってるくらいですから、いちおうミステリの形式を取ってはいるもののやってることはかなり無茶苦茶。けど、ヴィクトリア朝末期の三文小説の体裁で書かれた物語は、展開を追ってるだけで美味しいです^^)

自前の劇場で奇術を見せているエドワード・ムーンは既に盛りも過ぎて、片手間の探偵家業も最後の事件に失敗してからこれといった依頼人もない。相棒の大男 Somnambulist(夢遊病者)と興行を続けてはいるものの、最近は客の反応もいまひとつの状態。この夢遊病者というのが得体の知れない男で、8フィートを超える巨漢ながら口にするのはミルクばかりで、口が利けずに石版を使って簡単なやり取りをするのみ。そのくせ、剣で刺されようが何をされようがその体には傷ひとつ残らず、時にはムーンのボディ・ガードも務めるという設定。

そんなムーンに馴染みの刑事から、久々の事件の依頼が舞い込んでくる。ビルから落ちて死んだあるシェイクスピア役者の死因に、不可解な点があるというのだ。調査を進めていくうちに、さらにもう一人犠牲者が出る。こちらの犠牲者は死ぬ前に「蝿男……」の一言を口にしていた。フリークを専門とする私娼窟に出入りしていたムーンは、そこである旅のサーカス一座に蝿男がいることを聞き出し行方を追うが、ムーンに追われた蝿男はビルから飛び降り、自らの命を絶った。

事件は解決を見たように思われたが、それはムーン自身をもターゲットの一つとした、本当の事件の始まりに過ぎなかった。アルビノのリーダーに率いられた Directorates という政府の秘密組織は、女降霊術師が10日後にロンドンにロンドンに降りかかると予言した未曾有の危機に対し、渋るムーンを動員しようとする。劇場を焼き討ちされたムーンは、嫌々ながらも協力せざるを得なかった。

ということで、詩人コウルリッジの遺志を継いだカルトの地下組織が、あっと驚く悪巧みを画策してるんですが、この作品の面白さは、章が変わるたびに得体の知れない登場人物が次々と登場してくるところですね。未来の出来事を知っていて、時間を逆に生きているらしいマーリンのような男とか、ムーンの昔の相棒で、警戒厳重なニューゲートに監禁されていながら闇の動きは何でも知っているハニバル・レクターのような囚人、ロシアが放った凄腕の暗殺者など、他にも伏せておいたほうが楽しいキャラクタが満載です。伝説のロンドンの最初の王ラッドの石像なんていうのも掘り出されてきますし。

正直ムーンや夢遊病者がごくまっとうな登場人物に見えてくるくらいですね。いちおう夢遊病者の正体らしきものは最後には明かされますが、あれは明かされたっていうんでしょうか。本人が明言しているくらいとっても信頼できない語り手の叙述上の仕掛けも、意外な形で種明かしされるというおまけもついてます。

プロットは複雑怪奇に紆余曲折して楽しませてくれるんですが、結末はもうひとひねりあってもよかったかもしれません。まあ、なんじゃこれっていうキャラクタによるヘンテコなエピソードが次から次へと続きますので、これ以上の贅沢はいらないかもしれませんが。女王が亡くなってすぐの時代という設定のようですので、ほんとうはエドワード朝ものというべきかもしれませんが、このカラフルさはヴィクトリア朝に分類しても不都合はないでしょう。

この作品はジョナサン・バーンズのデビュウ作ということですが、Times Literary Supplements でレヴュウなんかもやってる人みたいですので、けっこう英文学の専門家なんでしょうね。SF作家のアダム・ロバーツが、19世紀英文学の教授として宣伝文句を寄せていますが、嘘ではないとはいえこれもパロディですね~^^) 次作が楽しみな作家が登場しました。

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Comments

やだ~、おもしろそ~。どうしよ~。

「相棒の大男の夢遊病者」って、カリガリ博士に出てくる大男みたいなやつでしょうか。しかし「蝿男」って飛べないのになんで蝿男?

quark さんは絶対買う気がします。

Posted by: Lilith | Thursday, May 24, 2007 21:39

パルプ小説に出てくるヘンテコなキャラクタを総動員した感じで、それなりにプロットはあるんですがお馬鹿なまま終わるので、読み終わってから quark さんが文句をいうようなタイプの作品かとも思いますけど^^) いや、怒らせてみたい気もしますね。

カリガリ博士の大男ってのは知らないんですけど、こちらの夢遊病者はヌボーと出てきて最後までヌボーのままです。まじ、オススメです。

Posted by: a nanny mouse | Thursday, May 24, 2007 22:01

もちろん、もう買ってます! 読んでませんけど……
でも、こんな紹介されたら読まずにいられません。

カリガリ博士は、その昔、何度も映写機まわした懐かしい作品ですね。
「月世界旅行」がYouTubeで見られるぐらいだから、きっと「カリガリ博士」もあるに違いないと思ったら、案の定ありました。

http://www.youtube.com/watch?v=MrNJBbXhvOs

ごゆっくりお楽しみください。

Posted by: quark | Friday, May 25, 2007 02:28

きゃ~、quark さん、ありがとうございます~。カリガリ大好きなんです~~~♪

そういえば、スコセッシがサイレント映画の保存に乗り出しましたね。

しかし quark さんの前世が、活動写真の映写技師だったとは……。

Posted by: Lilith | Friday, May 25, 2007 23:06

その昔、スコセッシが映画館で『ジョーズ』を観ていたとき、「おやっ、公開当時に見たときは、海の青がもっと鮮やかだったんじゃないかな?」と、違和感を覚えたことがきっかけで、カラーフィルムの褪色現象が明らかとなり、デジタルで保存しようという運動が始まったのです。この人は、監督として優れているだけではなく、映画愛好家としてこの上なく重要な役割を果たしていますよね。

Posted by: quark | Saturday, May 26, 2007 00:12

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