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Tuesday, April 10, 2007

Heart-Shaped Box, by Joe Hill

何かと話題のジョウ・ヒルの長編第1作ですが、まあまあの出来のジャンル・ホラーでした。それもそれほどどぎつくないやつ。

Heart-Shaped Box (US)主人公のジュード Judas Coyne(ユダの金貨!)はへヴィメタ・バンド Jude's Hammer のリード・ヴォーカル/ギタリストとして鳴らした50代のロッカーで、バンドのメンバーを二人亡くし、とりあえず現役とはいいながら、もう3年もツアーに出ていないという半ば隠居の身。穿孔を施した頭蓋骨や魔女の告白書、アレイスター・クロウリーのゆかりの品とか、ゲテモノを集めるのが唯一の趣味といえば趣味。隠し持っていたスナッフ・ビデオのせいでかみさんには見捨てられ、ほっておいても入れ替わり立ち替わり現れるゴス娘たちをガールフレンドとして暮らしている。

そんな折、事務所のアシスタントがとあるオークション・サイトで幽霊の出品を目にする。亡くなった義父が孫娘の部屋に居ついてしまったことから、誰かに売り払えば出て行ってくれるのではないかというものだった。出品者は義父の愛用の日曜日用の礼服に幽霊を取り憑かせて送るという。半ばジョークだと思いながらも、ジュードはつい買ってしまう。

ジョニー・キャッシュでも着ていそうな古臭いスーツは、黒いハート型のケースに入って送られてきた。ほどなくして、部屋の片隅に現れる黒服の老人の姿。その眼のあるはずの場所には、黒のマーカーで塗りつぶされたような痕があった。オークションで購入したのは紛れもない幽霊で、その邪悪に満ちた意思に操られ、ジュードは自殺一歩手前まで追いやられ、同居しているガールフレンドを撃ち殺してしまいそうになる。やってきた幽霊は、ベトナム従軍時代に捕虜の霊能者から手ほどきを受けたという、プロの催眠術師だったのだ。

送り返そうと出品者にコンタクトしたジュードは、彼が幽霊を買ったのは決して偶然ではなかったことを思い知らされる。故郷に帰って自殺した、昔見捨てたガールフレンドの育ての親が幽霊の正体で、娘の姉が復讐のためにジュードの元に送り込んだというのだ。家にじっとしていても危機は避けられないことを悟ったジュードは、ガールフレンドとともにあてどもない旅に出る。だが、二人の乗った車の背後には、常に得体の知れないピックアップ・トラックが見え隠れしていた……。

Heart-Shaped Box (UK)悪趣味なヘヴィメタ・バンドの生き残りのロッカーが主人公とかいうと、かなり濃いギトギトの話が展開しそうですが、じつのところこの主人公、意外とまとも。ゲテモノのコレクションもバンドのイメージにつられてファンが送ってきたものがほとんどだし、スナッフ・ビデオも、たまたま刑事の知り合いが事件の証拠品を彼なら興味を持つだろうとくれたもの。さらには、貧しい養豚農家の倅が、悪意に満ちた父親にコードを押さえる左手を潰され、左弾きのギターに切り替えた件を聞かされるあたりから、読者は主人公にしっかりと感情移入できる仕組みになってます。

というよりも、Nirvana の何やら不気味な歌から取ったタイトルとか、そこここに AC/DC を初めとするハードロックへの言及が撒き散らされている割には、あんまりロック・ミュージシャンが主人公というあくの強さがないですね。一応プロットに絡めているとはいえ、これが作家が主人公だったとしても違和感がないようなあっさりとした展開です。ということで、ヤナやつが主人公の身も蓋もない物語を予期していたわたしは、いささか肩透かしをくらいました。

アイデア的には、幽霊の眼がマーカーで黒く塗られてたり、幽霊から不気味な e-mail が送られてきたりと、さすがに現代的な扱いが目に付きますが(まあ e-mail はダン・シモンズが A Winter Haunting で使ってたり、結構目にするような気もしますが)、あとは大体おなじみの手法の組み合わせという感じです。クライマックスの幽霊との対決のところで、30年間顔を合わせていない安楽死を待つばかりの父親を使ったちょっと面白いアイデアが出てくるんですが、この場面もどうもスペクタクルに終始して、テーマ的にはうまく片付けられなかったような印象です。

プロットはシンプルなので、たしかに映画には向いていそうな感じですけど、役者で見せるとか、幽霊がらみのシーンの特撮に凝るとか、なにかアクセントを置かないと大した映画にはならないような気もします。まあそのあたりが料理しやすいというか、料理のしがいのある原作といえるかもしれません。ただし、スティーヴン・キングの息子とは知らずに映画化権を買ったというのは、やっぱりセールス・トークでしょう。それほどインパクトのあるプロットとは思えません。

作品自体はなかなかスムーズに書かれていて、デビュー作にしては卒がないとは思いますが、ベストセラー向きとはいえても、文学的といえるほどの奥行きは感じられないですね。メインストリームの読者向けのホラーというのが一番適切かも。鬼畜を期待するハードコアなホラー・ファンには肩透かしなんじゃないでしょうか。長編第1作ということでほんとはもっと思い切った冒険をして欲しかったんですが、とりあえず無難にまとめたということで、次回作では短編の名手といわれているその才能を存分に見せて欲しいものです。

ちなみに、"Best New Horror" という短編を以前読みましたが、ジャンルの読者にはそちらのほうが楽しめる気がしますので、もっとオタクの本性を出してくれればいいんじゃないでしょうかね^^)

以前はかなり渋かったオフィシャル・サイトも、どうも Heart-Shaped Box のプロモーションに借り出されてるみたいです。

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Comments

quark さんには少々もの足りなかったんじゃないかと思いますがいかがでしょう?

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, April 10, 2007 at 23:51

ああ、助かった~! 久々にレヴュー書く気満々で読んだのに、期待はずれだったのでどうしようかと困ってところでした。

設定を説明するのに手間取る割りには、それ以降の展開が大したことないんですよねぇ。「もしもeBayで幽霊が売りに出されていたら……」というワンアイデアを、無理やりに引き伸ばした印象が強く、スティーヴン・キングの息子というよりは、リチャード・バックマンの息子なんじゃないかと疑っちゃいました(笑)。もう一本道ホラーはいいから、"Salem's Lot"とか"Stand"みたいに、めちゃくちゃ大風呂敷広げた野心作を書いてもらいたいですね。

Posted by: quark | Wednesday, April 11, 2007 at 19:25

あ、なんだ、待っていれば quark さんがレヴュウ書いてくれたんですか。残念。

どうもね~、決して悪くはないんですが、これといったインパクトに欠けてますね。バリバリのホラーでなくて、メインストリームを意識したものでも、ジョナサン・キャロルみたいな足元が揺らぐタイプの作品でも書いてくれればよかったのに。

Posted by: a nanny mouse | Wednesday, April 11, 2007 at 21:06

あら~、私も UK版の表紙に惹かれて買っちゃったんですけど~。ま、話題作だし、そのうち読んでみます。しかしハズレだったら、限定版の高い本買った人、怒っちゃうんじゃないでしょうか。

で、映画のほうの監督はニール・ジョーダンに決まったようですね。

Posted by: Lilith | Wednesday, April 11, 2007 at 22:11

それがなんかアマゾンの読者評ではけっこう評判いいようなんですよ。ベストセラー系の読者にはこの程度でもいいのかも。

Subterranean の限定版は、eBay でも 4-500ドルになってますんで誰も文句はいわないでしょう^^) ワンランク下のやつでも、ABE にただ1冊リストされてるやつは 750ドルですよ。普通のサイン本や Waterstone のスリップケース入りも 100ドルぐらいしてますからね。

Posted by: a nanny mouse | Thursday, April 12, 2007 at 01:02

eBayで売り出されている限定版の中に、幽霊に取り憑かれた一冊が混じってますよ、きっと。

Posted by: quark | Thursday, April 12, 2007 at 18:54

幽霊が取り憑いている家のほうが高いそうですから、本でもそうなんでしょうね。限定版の1番の番号が振られたものは、eBay でチャリティ・オークションにかけられましたけど、たしか 4,300ドルかなにかになってましたね。まあ本以外にも原画とか手書きの原稿とかついてたみたいですけど。

あ、ページがまだ生きてました

Posted by: a nanny mouse | Friday, April 13, 2007 at 01:25

げげげ、Heart-Shaped Box の deluxe limited は 800ドルぐらいで買われてますし、20th Century Ghosts のスリップケース入りも 1,000ドルとか 1,200 ドルになってます^^; 2,000ドルも手に入るんだったら、マジに売りたくなりますね。

というか、幽霊なんか買わなくても、売り手と買い手が亡者と化してます^^;

Posted by: a nanny mouse | Friday, April 13, 2007 at 01:44

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