« "And Only to Deceive" by Tasha Alexander | Main | Do the Creepy Thing, by Graham Joyce »

Wednesday, October 18, 2006

The Stone Ship, by Peter Raftos

The Stone ShipInternational Horror Guild Awards の候補にもなっている作品ですが、オーストラリアの小出版社から出た新人作家のものということで、ネットの口コミで話題にならなかったら、人知れず消えてしまったかもしれません。そんなあたりも含めて、かなり obscure な本です。

結婚したばかりの妻を亡くし悲嘆にくれる主人公は、いずことも知れぬ孤島を訪れ死のうとしますが、そこには先住者がいました。つまりはまあ、主人公と同じことを考え、自ら命を絶った男が、成仏できずに幽霊としてくすぶっていたんですね。主人公は、どうせ死ぬつもりなら、幽霊からすべてを奪ったある大学教授に復讐する手助けをして欲しいと頼まれます。出鼻をくじかれた形の主人公は、思い切って死ぬこともできず、このかなり怪しい幽霊の依頼に乗ってみることにします。う~ん、このなさけない主人公のキャラクタ設定がなんとも秀逸。

二人が向かった先は、いずことも知れぬ国の海辺にある、ただ「大学」とのみ呼ばれる巨大な施設でした。ただひとつの橋により浜辺と結ばれ、海中にそびえる大学は、さながら表紙で描かれたバベルの塔のおもむき(モン・サン・ミッシェルみたいな感じなんですかね)。いっぽう、海辺には、入学許可を待つ学生や使用人への志願者で、大きな町ができていました。主人公は使用人としてもぐりこもうとしますが、お役所仕事を絵に描いたようなこの町では、申し込みをするだけでもあちこちの窓口をたらい回しされ、一向に埒が明きません。とはいえ、もともと官吏出身の主人公、賄賂の使い方はお手のものでした。

首尾よく図書館の雑用係として採用された主人公ですが、早々に迷路のような図書館で阿鼻叫喚の騒乱に巻き込まれます。この図書館では、哲学の奥の院を筆頭に、最下層の辺縁に配置された人文科学まで、ジャンルによる階級体制が敷かれ、ときどき行われる階級の入れ替えに、図書館員たちが暴動を起こしていたのでした。難を逃れた学生たちとともに、図書館の地下へと向かった主人公は、廃れてしまった学説や流行遅れの文学が、インクを吸い取られ白紙の本へと変えられていく様子を目にします……。

ということで、官僚主義のはびこる大学を皮肉ったリアリズム……いえ、パロディですが、基本的に寓話というよりは、グロテスクでお馬鹿な逸脱を楽しむタイプの本ですね。カフカ風の官僚主義の悪夢というよりは、ゴーメンガーストの醜怪な奇想といいますか。200年以上もこの世界を牛耳る学長や、大学の地下に棲む死肉喰らいの怪物も登場しますよ。でまあ、幽霊の復讐譚もじつのところマクガフィンで、当然のことながらアンチ・クライマックスな展開に向かうんですが、最後の最後で見せるスペクタクルにはウケちゃいました。

大向うを唸らせるような傑作とはいいませんけど、ゴシックな暗い笑いが好きな人、とくにジェフリイ・フォードの『白い果実』なんかに目がない人なら、泣いて喜ぶような作品でしょう。

|

« "And Only to Deceive" by Tasha Alexander | Main | Do the Creepy Thing, by Graham Joyce »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference The Stone Ship, by Peter Raftos:

« "And Only to Deceive" by Tasha Alexander | Main | Do the Creepy Thing, by Graham Joyce »