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Sunday, October 29, 2006

"Remainder" by Tom McCarthy

Remainder以前、こちらで簡単な紹介のあった "Remainder" ですが、どうしようか迷ったあげく読んでみたら、これが大当たりでした。

空から何かが落ちてきた――主人公の男が覚えているのはそれだけで、事故以前の記憶はすっかり失ってしまう。そのときの怪我により簡単な動作もままならなくなった彼は、物を掴むにも手が動くその仕組みを理解することから始めなくてはならない。そのようにして頭で考えてから移るぎこちない自分の動作を彼は偽物と感じ、逆に芝居でしかない映画俳優のスムーズな動作を本物と思うようになる。

示談金850万ポンドという大金を得た彼は、その使い道を考えあぐねるが、ある日友人宅のトイレで目にした壁のひび割れに既視感を覚え、微かな記憶をもとに以前自分が住んでいたマンションを、金に糸目をつけず再現しようとする。

オーディションをしてマンションの住人まで再現しようとする彼の強迫観念はそれだけに留まらず、次から次へと新たなプロジェクトを生み出し、彼が「再演」と呼ぶそれらは、失った自分の過去を再構築するものから、徐々にエスカレートしていく。

記憶を失い周囲との接点を失った男が、大金を使い大勢を指揮し、まるでその穴埋めをするかのように繰り返し行う「再演」。強迫観念に駆られていく彼の心理と狂気が、一人称の形で淡々と語られていくさまは、けっこうスリリングでした。これが抑鬱的でなくかなりコミカルに書かれているので、それがまた彼の狂気の不気味さを際だたせているんですよね。なんとなく現代版実存主義文学という印象の作品でもありました。

これがマッカーシーのデビュー作とのことですが、1ページ目で本人に語らせる事故の説明の仕方からしてタダモノではない予感で、出だしから引き込まれてしまいました。今後も楽しみな作家です。

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Comments

お~や、そうでしたか。なんかよくわからなそうな感じでしたけど、そこに意味がある作品なんですね。どこに置いたのかどうも見つからないと思ったら、まだ梱包解いてませんでした^^; 来月になったら読んでみます。

ううむ、The Thirteenth Tale は読み終わりましたが(エンタテインメントとしてはかなりの傑作)、The Meaning of Night がなかなか進まずてこずってます。ううむ、今週中に Glass Books まで行けるかどうか。

Posted by: a nanny mouse | Sunday, October 29, 2006 23:43

> なんかよくわからなそうな感じでしたけど、
> そこに意味がある作品なんですね。

じゃないです。過去を失い世の中にぽんと放り出された男が、なぜそのような行動を取るかというのは、病的ではありますがとってもよく分かりました。それぞれのプロジェクトは、無意識のうちに彼が自己を取り戻すため(というより、アイデンティティを獲得するため)に行った段階的な試みって感じでしょうか。それがよからぬ方向に行ってしまうのですが。

ひぇ~、硝子本まで行くおつもりですか。ご健闘をお祈りします……というか、ハズレでないことをお祈りします。

Posted by: Lilith | Monday, October 30, 2006 22:38

10月はどつぼのわりには調子よく10冊ほど読んだので、このままの勢いで……と目論んでたんですが、The Meaning of Night がけっこう重いです。まあ読みにくいわけでもつまんないわけでもないんですけどね。やっぱり濃いというか。夢食い人のガラス本が乗りやすいといいんですけど。

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, October 31, 2006 20:32

ディックふうの作品なのかと思ったら、ディックの現実崩壊感より、現実が作り物にしか見えないということで、陰画みたいな感じですね。主人公も悲壮感よりは無感情ですし。ということで、カミュの『異邦人』を思い出しました。偽物に嘔吐してしまうシーンとかも考え合わせると、たしかに実存主義を意識しているのかも。

描写のねちっこさは、まああれほどひどくないですけど、ニコルソン・ベイカーですかね。「再演」がエスカレートしていく展開はミルハウザーの『マーティン・ドレスラーの夢』の印象ですけど、こうしてみるといかにもその手のスジには受けそうな感じ(笑)

正直なところ、感情移入できない主人公を設定してるし、単なる繰り返しになっちゃてるので、中盤はかなり退屈でした。やっぱりディックみたいに可哀想な主人公にするか、もう少しブラックにするか、どちらかに転んでくれたほうが好みだったかも。

Posted by: a nanny mouse | Monday, March 05, 2007 20:20

「同じ繰り返し」が重要で、あの本の長さで退屈で放り投げないぎりぎりの線かと思いましたが。主人公は無感情でいいんだと思います。事故で自分の存在すべきところを失い「人生の傍観者」になってしまったんですから(やっぱり実存主義の世界だ~)。可哀相とかなっちゃうと、全然別物になってしまうんじゃないでしょうか。

Posted by: Lilith | Monday, March 05, 2007 22:43

う~ん、ダッシュボードからウィンドウォッシャー液が出てくるところはウケたんですが、それ以外あんまりこれといったアイデアがなかったんで、繰り返しの印象が強かったんですよね。

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, March 06, 2007 21:22

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