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Sunday, August 20, 2006

"The Last Witchfinder" by James Morrow

The Last Witchfinderこの物語の舞台は、17世紀の終わりから18世紀にかけてのイギリスとその植民地北アメリカ。近代科学の萌芽期で、一般の人々はまだまだ非科学的な迷信に囚われていた時代だ。その迷信の中の最たるものは「魔女の存在」で、合法的に魔女狩りが盛んに行われていた時代でもある。実際、1692年アメリカの、悪名高きセイレムの魔女裁判では、多くの無実の人々が魔女として処刑されている。

主人公ジャネットの父も、魔女を見つけ出す仕事を天職とし、誇りを持って取り組んでいたひとりだ。そして将来跡取りとなる息子ダンスタンを連れて魔女狩りに出ては、そのノウハウを息子に伝授していた。一方、女であるため留守番をせざるを得なかったジャネットは、その間、亡くなった母の姉妹である叔母イゾベルに預けられるのだが、未亡人の彼女はラテン語や最新の自然科学に通じていて、実際の実験を通してそれらを十代始めの姪とその友人に教えるのだった。そんな彼女らの尊敬する人物は『プリンキピア』を著したアイザック・ニュートンだ。

ところがイゾベルの動物解剖実験が魔女の所業と告発され、ジャネットの父は義理の姉妹を魔女裁判にかけ、処刑することを余儀なくされる。そしてかわいがってくれた叔母の悲惨な最期を見たジャネットは、彼女の仇を取るために、魔女や悪魔の存在を科学をもって否定することに生涯をかけることを心に誓う。

叔母の裁判で「魔女」の非科学性を証言してもらおうとニュートンに会いに行ったり、父が左遷させられたアメリカでインディアンの襲撃にあって誘拐されたり、ベンジャミン・フランクリンと電撃的な恋愛をしたり(フランクリン18歳、ジャネット40代!)、イギリスからアメリカに渡る途中で船が難破して無人島で暮らしたり、魔女であることを否定するための自分の裁判でモンテスキューに弁護してもらったり……。知的で冒険心があって、信念を持って正しいと思ったことに突っ走るジャネットは、モロウの代表作のひとつ "Only Begotten Daughter" の主人公ジュリーと同様、とても魅力的だ。ただ今回は、スラップスティック的な実在の人物との絡みは別として、実際のできごとについての綿密な調査をもとに書かれた作品なので、ファンタジーではなく歴史小説として読んだほうがいいだろう。

この作品にはもうひとりの異色の語り部がいる。それがニュートンを父と呼ぶ『プリンキピア』なのだが、客観的に語られる他の部分とは違い、こちらのほうはかなり作者の主張や感情が盛り込まれていて、作者の分身のようにも思える。「魔女裁判」をテーマパークのようにして町おこしに使ってる、現在のセイレムに対する憤りなどは、作者の意見そのままだろう。

モロウの作品であるからには、ただの歴史小説ではありえない。本書の中で直接糾弾されているのは魔女を信じた者たちだが、聡明な女性や、情け深いインディアンらの登場人物が配されていることにより、当時非科学的な根拠によって差別を受けたのは魔女の烙印を押された人々だけではないことも同時に伝わってきた。権力や、無知蒙昧な人々の盲信によって生じた差別だが、同じ血を分けた姉弟の対立が描かれていることによって、主義や信条には生まれや遺伝は無関係で、なにより教育が重要であることも再認識させられた。

歴史小説ではあるのだが、モロウにとって今の時代にこれを書かなくてはならない理由があったのだと思う。

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Comments

おー、待ってました! 本命の登場ですね。

なんか今回はいつもと違ってすごく真面目そうな感じなんですけど、やっぱり表面的なストーリイの部分はお馬鹿で楽しいんでしょうか?

Posted by: a nanny mouse | Monday, August 21, 2006 20:25

登場人物たちは、相変わらずみんなけっこうお馬鹿で楽しいんですが、実際の歴史の暗い部分を扱っているだけに、ストーリー的にははちゃめちゃさはほどほどで(でもヘンだけど)、読後はとても真面目な印象を受ける作品でした。

Posted by: Lilith | Monday, August 21, 2006 22:15

ふうむ、やっぱりけっこうシリアス路線なんですかね。

あ、そういえばこの本、イギリス版しか手に入れてないです。チェックしたらアメリカ版のサイン本はかなりぼられていて、ちょっと手が出しにくいですね。でも来年の World Fantasy Award には絶対絡んでくる作品ですし、そうなるとなおさら手が出せなくなるし……困った^^;

Posted by: a nanny mouse | Monday, August 21, 2006 23:05

というか、モロウの作品はどれも(と言えるほど読んでないけど)表面的にはスラップスティック基調でありながら、根っこの部分はマジメじゃないですか。というより、早読みの人は自分で読んで確認するほうが早いような……。

アメリカ版のサイン本、Clarkesworld で US$21.00 で出てますけど~(アマゾンじゃなくて、ここで買えばよかった~)。

世界幻想文学大賞はどうでしょうね。あまりファンタジーっぽくないので微妙。

Posted by: Lilith | Tuesday, August 22, 2006 21:10

ほんとだ。あそこヤバいんですよね。見始めると1冊では済まないし、結局5冊ぐらい注文すると、preorder がいつも10冊ほどあるので、思い出したようにまとめてドドッと送ってくるんですよ。もう財布にも悪いし、そんなにまとめて送られても置くとこありませんって。

で、キアナン2冊も注文して、結局5冊になりました^^;

まあでも、Nick Burrows からブッカーのロングリストの特集が送られてきましたけど、今年はぜんぜんそそられないし、要るものはもう確保してあるので、こっちは何も買う必要なさそう^^)

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, August 22, 2006 21:57

"The Last Witchfinder" について語るモロウの音声ファイルです。

Posted by: Lilith | Friday, November 24, 2006 21:28

おお、もっと皮肉屋の感じなのかと思ったら、むちゃくちゃ人のよさそうな楽しい人みたいですね。うむ、面白そう。

Posted by: a nanny mouse | Saturday, November 25, 2006 01:08

おお、BSFA賞にノミネートされました!

最大のライバルは縄の浮き世のネコ娘?

Posted by: Lilith | Wednesday, January 17, 2007 22:06

お、ほんとだ。なんか個人的に応援したい作家ばかりですね。まあ縄の浮世には quark さんとわたしが登場してるので(<なんか違う)、やっぱり頑張って欲しいですけど。

Posted by: a nanny mouse | Wednesday, January 17, 2007 23:34

おお、ジョン・W・キャンベル記念賞ノミネート!

a nanny mouse さん強力プッシュの盲視(?)も入ってますね。

うー、絶不調のため、これにて失礼。

Posted by: Lilith | Wednesday, June 06, 2007 22:03

そう、このセレクション、いつもながら見事ですね。

盲視のレヴュウが上手く書けず泣いてるところです^^;

Posted by: a nanny mouse | Thursday, June 07, 2007 00:04

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