Fantasy Goes Literary
パブリッシャーズ・ウィークリーに "Fantasy Goes Literary" と題した、最近のメインストリームでのSF/ファンタジイ的な作品の流行を扱った記事が載っていました。とくに目新しいことが書いてあるわけではありませんが、このブログで取り上げることの多い作家や作品がピックアップされてましたので、ちょっとご紹介(リンクした記事は1週間ほどで読めなくなると思います)。
アリス・シーボルドの『ラブリー・ボーン』やハリー・ポッター、テレビ番組の「ロスト」を皮切りに始まったファンタジイの一般化は次第に文学の世界に及び、オードリー・ニフェネッガーの『タイム・トラベラーズ・ワイフ』、デイヴィッド・ミッチェルの Cloud Atlas、スザンナ・クラークの Jonathan Strange & Mr Norrell、エリザベス・コストヴァの『ヒストリアン』といった、それまでならジャンル小説と見做されてもおかしくない作品が、一般読者の間で広く読まれるに至ったという書き出しで、最近目に付いたものとして、Mario Acevedo の The Nymphos of Rocky Flats、Kevin Brockmeier の The Brief History of the Dead、Keith Donohue の The Stolen Child を挙げています。
ふむ~、他の2冊はともかく、イラク帰りのヴァンパイア探偵が色情狂の流行に立ち向かうという The Nymphos of Rocky Flats って、ほんとうに面白いんでしょうかね^^; まあこういうところで取り上げるということは、それなりの工夫があるんでしょうけど。
このファンタジイの一般化の背景として、ブロックマイアも引っ張り出されて、ハリー・ポッターや指輪物語の流行により、大人の読者もファンタジイを手に取ることに抵抗がなくなった点を挙げています。また、ニューヨーカー誌がブロックマイアやジョージ・ソーンダース、はたまたスティーヴン・キングなどのファビュリスト・フィクションを積極的に取り上げてきたことも、ジャンルの垣根を低め、より広義な文学的への回帰をもたらしたとしています。
文芸書の編集者がどんな作品に目をつけているかという例として、魅力的なラインアップを揃えているペーパーバック・リプリントのハーヴェストが取り上げられていますが、今回ここに、ケリー・リンクの Magic for Beginners、サルヴァドール・プラセンシアの The People of Paper、リディア・ミレの Oh Pure and Radiant Heart が加わるそうです。ううむ、このブログで話題にした作品ばかりじゃないですか^^)
この他にも、有名作家の児童書への進出や、逆にジャンルからのアプローチとして、ジェフ・ヴァンダーミアの City of Saints and Madmen に触れて、作家の側でもジャンルに縛られずに書くこと、あるいは色々なジャンルに手を染めることに抵抗がなくなりつつあるとし、ケリー・リンクの旦那さんでもあるギャヴィン・J・グラントの、現代を描くのにSF/ファンタジイ的手法は最適なんだという言葉で締めくくっています。
さてさて、マージナリアの住民としては境界地帯に注目が集まることは歓迎なんですが、それだけじゃなく、一般書の読者はジャンルのコアの作品にも目を向けて、逆にジャンルの読者は他のジャンルや一般文芸にも積極的に手を出して欲しいですね。自戒もこめて。
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Comments
あ、"Oh Pure and Radiant Heart" の感想待ってたのを思い出してしまいました。PB、もうすぐ出ちゃいますけど~。それにしてもPBの表紙はとってもヘン。"The People of Paper" はとても好きでしたが、こういうところで言及されるほどの話題作だったとは、ちょっとびっくりです。
で、一般読者のひとりとしては、ジャンルのコアの作品と言われても、何がいいのやら~の世界です。でも、まあ、おもしろければジャンルなんて何でもいいんじゃないでしょうか。
Posted by: Lilith | Wednesday, April 05, 2006 at 22:45
あの~、ヴァンパイアのを読めという無言の圧力を感じるんですけど~、気のせいですよねぇ~。
アハハ、ハハ……。
Harvest Booksのリストが面白くてパラパラと見てたら、なんとイーライ・ウォーラックの自伝が5月に出版されるのを発見。さっそく予約しました。
これ以外にも、面白そうなのがいっぱいですね。この"Pinkerton's Sister"とかすごくよさそうです。
Posted by: quark | Wednesday, April 05, 2006 at 23:53
う、まだ読んでません< Oh Pure and Radiant Heart ^^;
Lilith さんが一般読者なんてだれも認めませんって。ジャンルの読者じゃないということであれば、特殊読者でしょうか^^)
まあジャンルのコアの作品って、改めて訊かれると困りますが、SFだったらさつきさんが大好きなグレッグ・イーガンとかダン・シモンズ、bumpkin さんが制覇目前のアレステア・レナルズあたりですかね。まあ他にもいろいろありますけど。
ファンタジイでは、いかにもなハイ・ファンタジイを除くと、ジョン・クロウリーやジーン・ウルフ、パトリシア・マキリップなんかが出てきますね。ティム・パワーズも本流だと思いますけど。
Posted by: a nanny mouse | Thursday, April 06, 2006 at 20:32
え、quark さんてそういう趣味でした?
Pinkerton's Sister はハードカバーが出たときにちょっと気になったんですが、なかなか微妙な感じで、長さが長さなんでたぶん読まないと思って見送ったんでした。かなり評判がよかった作品ではあります。
Posted by: a nanny mouse | Thursday, April 06, 2006 at 20:38
ジャンルの話になると、いつも混乱するんですが、私はとりあえずパッケージの問題だと思ってます。出版社が売りやすくするための方便であるか、読者が読みたい小説を探すための方便であるか、どっちか。
ちょっとシニカルなこの見方からすると、コアなSFというのはSF専門の出版社から出された作品ってことになりますね。上記の記事で名前があがってるのは、ほとんど小出版社のもの。AceやGolanz、Torなどといった老舗のSF系出版社の名前はまったく挙がってませんですし。こうしたところの出版社には、マニア的な固定読者がついてるので、ジャンル内だけで経営が成り立ってしまってるところがあるんじゃないかと。
日本と比較すると、英米では伝統的に主流文学とジャンルとの垣根が相当高かかったんで、今頃こんな議論になってるんでしょうね。ずいぶん前からグチャグチャになってる日本文学の現状から推察しますに、べつに垣根が低くなったからって、高度な作品が生まれてくる保障はないってことかも知れません。
Posted by: quark | Thursday, April 06, 2006 at 23:25
ええと、コアうんぬんの話は私が持ち出したことで、この記事とは関係ないので、余計なノイズを入れてしまったかも。
小出版社の件についても、一部の作品がハーヴェストでリプリントという部分以外は、直接関係ないように思いますね。他は大体大手か定評のある主流文学の出版社なんで。
ジャンル分けがパッケージやマーケティングに帰属という件は、一部同意しますけど、ジャンルの読者じゃないと読めない作品や、ジャンルのクリシェを使いながらもジャンルの読者じゃ耐えられないような作品もあるので、やっぱり濃さの問題では?
垣根が低くなったことで、今まで手に取ることもなかったような読者にも読まれて評価されるようになったことを重視してるのであって、直接クオリティにまでは言及していないのでは? まあ長い目で見れば、作者の自由度と読者の受容度が上がったことで、傑作・意欲作が生まれる可能性が上がったという含みはあるのかもしれませんけど。
これとちょうど表裏の感じでNYタイムズのイツコフ批判が噴出してて(SFを普及する立場の人がオタクにしか読めないことを強調するのはどういうことだっていうやつ)、ジャンル論っていうのはひとつの娯楽みたいですね。一歩下がって覚めた目で片をつけることは求められていないんじゃないでしょうか。
Posted by: a nanny mouse | Friday, April 07, 2006 at 00:21
Pinkerton's Sister の作者、昨年亡くなったそうです。今月続編が出てますけど。
Posted by: a nanny mouse | Tuesday, April 11, 2006 at 00:52
ひぇぇ、遺作のタイトルが"A Dead Language" って、洒落になってませんがな。
Posted by: quark | Tuesday, April 11, 2006 at 06:53