"Weight : The Myth of Atlas and Heracles" (The Myths III) by Jeanette Winterson
現代作家が語る世界の神話シリーズで、ジャネット・ウィンターソンが選んだのはアトラスとヘラクレスの物語。前書によると、原稿依頼の電話を切るときには、もうこれに決めていたんだとか。電話中に、まるでこのときを待っていたかのように、ふと思いついた物語。この企画がなければ書くこともなかったであろう物語。
巨人族のアトラスは、ゼウス率いるオリュンポス神との戦いで破れ、蒼穹を支える罰を受けます。一方、半神半人のヘラクレスは、気が触れて自分の子供を殺した償いとして、神託に従いエウリュステウス王に仕えることになります。彼に課せられた12の難題のひとつが、アトラスの作ったヘスペリデスの園から黄金の林檎を取ってくること。そして、ヘラクレスはアトラスの支える天を一時肩代わりして、アトラスに林檎を取って来させることにします。
ギリシャ神話のアトラスとヘラクレスの別々の物語が交わるこのエピソードで、ふたりがともに課せられた重荷(一方は文字通りの重荷、他方は難題)を背負っているという共通点に着目し、それをテーマにまで高めたのがこのウィンターソンの物語。
本書にも出てくるのですが、毎朝ゼウスの大鷲に食われた内臓が、夜にはまた再生する責め苦を受けるプロメテウス。彼はコーカサスの岩山に鎖でつながれているので、逃れる術はありません。ところがそんな頸木のないアトラスとヘラクレスなのに、彼らは何も考えずに課せられた罰を黙々とこなしているんですよね。重荷を降ろしてみたらどうなるんでしょう?
他人の指示に無条件に従うことの気軽さ、束縛されず自由に自分の未来を築くことの重さ。そんなことが、いくつかのエピソードを通して伝わってくる物語でした。
ここでは、アトラスは海神ポセイドンと大地の子とされているのですが、冒頭の「無限の海」と「境界を持つ大地」の関係の描写がとてもよかったです。その後に語られる自由と束縛の物語を巻頭で暗示してもいるのですね。
ところで本の見返しにある、ボディビルの人がポーズ取ってるみたいなイラストは、もしかして荷を降ろしてすっきりしているアトラスでしょうか?(かなりヘンです)
この作品も『永遠を背負う男』のタイトルで邦訳が出ています。
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Comments
こないだ読んだラファティの『宇宙舟歌』が、『ユリシーズ』の本家取りだったんですが、そこに出てくるアトラス像も印象的でした。
量子力学における「観測者」の役割を一手に引き受けているのがアトラスという設定で、彼が観測をやめてしまうと事物が存在をやめてしまうのです。万物をかくあるべくあらしめるためには、一瞬たりとも絶やさず観測を続ける必要があるということで……
いやあ、ラファティならではの神話の換骨奪胎ぶりに感心した次第でした。
Posted by: quark | Sunday, February 05, 2006 at 15:10
「ギリシャ神話ネタ」ということで、『宇宙舟歌』もそのうち買う予定にはしているんですよね。quark さんが感心されたということであれば、早速注文しなくては。
しかし、オデュッセイアでアトラス? あれ?
Posted by: Lilith | Sunday, February 05, 2006 at 19:30
そりゃまあ永遠に天を支え続けてるんですから、オデュッセイアの時代にもいたんじゃないでしょうか^^)
Posted by: a nanny mouse | Monday, February 06, 2006 at 02:06
えーっ、ラファティに向かってそんな瑕疵担保責任を問うんですか?
途中で死んだはずの人物が、後から何の説明もなく登場してくるってのに……。
Posted by: quark | Monday, February 06, 2006 at 23:18