う~ん、書いてから4年もたつと、ずいぶん状況が変わってしまってますね^^; いえまあ、書き直す元気はありませんので、いかにわたしの予想が当てにならないかの証明として、ちょっと細部を直すだけでそのまま載せます。
イギリスの児童書、というより、世界の児童書の流れを変えてしまった話題作といえば、いわずと知れたJ・K・ローリングの《ハリー・ポッター》と、フィリップ・プルマンの《ライラの冒険》の二つのシリーズである。いや、前者のヒューゴー賞受賞や、後者がブッカー賞のロングリストに児童書としては初めて名を連ねたことなどを考えると、もはや子供向きといった狭い範疇にとどまらず、大人の読者をも対象にした新しいジャンルが生まれつつあるととらえるべきなのかもしれない。
その影響で、イギリスの児童書界は、ポスト・ハリー・ポッター、あるいは第二のプルマン探しで、いささか加熱状態であるようだ。現時点でのハリーのライバル・ナンバー・ワンは、アイルランドの作家オウエン・コルファーの描くハードなアクションが売りものの Artemis Fowl で、すでに映画化も決定している。また、映画「グラディエーター」の脚本に加わっていたウィリアム・ニコルスンは、独特な背景世界の構築が見事な The Wind Singer で、プルマンと並び称される地位を確立している。
そんななかで、この冬一番の注目作は、児童向けの歴史や伝記のシリーズの挿画を手がけてきたイラストレーター、フィリップ・リーヴの、ジュヴナイルSFデビュー作『モータル・エンジン』だろう。なにしろ初回印刷分はほとんど店頭に並ぶこともなく、11月16日の発売日を待たずしてほぼ全数がコレクター市場に消えていったといういわくつきの作品である。
物語は、干上がった北海の海床を舞台に、逃げ惑う小さな炭坑町を襲撃し貪り食らうロンドンから幕を開ける。この時代、それぞれの都市は機動性を身につけ、文字通り他の町を飲み込むことで資源の確保を図っているのである。巨大なキャタピラをギシギシと鳴らし、捕獲した町をバリバリと噛み砕く、ブリューゲル描くところのバベルの塔にも似た威容を誇るロンドンの頂部には、セント・ポール寺院の丸屋根が燦然と輝いていた。
市の舵取りは、絶対君主の市長のもと、エンジニア、ナビゲータ、商人、歴史家の四つのギルドが行っていた。残骸のなかから古代の技術を発掘する歴史家は、都市の存続に不可欠だったのである。見習い歴史家トムの不運は、ギルドの長ヴァレンタインを襲撃者の手から救ったときに始まった。追い詰めた犯人がダストシュートに飲み込まれるのを呆然と見守るトムは、なぜかヴァレンタインの手によって、自らもその中に突き落とされてしまうのである。
走り去るロンドンから放り出されたトムが、傍らの襲撃者に見出したのは、深く刻まれた刀傷により醜く引きつった、同年代とおぼしき少女の顔だった。ヘスターと名乗るその少女は、ヴァレンタインに両親を惨殺され、母の発見した古代の兵器「メデューサ」を奪われ、自らも殺されかけたのだという。半信半疑のトムと、両親の敵討ちを果そうとするヘスターの、ロンドンを目指した奇妙な二人三脚が始まった。
二人の行く手には、奴隷都市や海賊都市、あるいは宙に浮かぶ浮遊都市といった、生存競争に馴化した機動都市の群れが立ちはだかる。さらには、ロンドンが刺客として放ったメカニカル・ゾンビ、シュライク(!)がヘスターの命を付け狙う。
一方、機動都市と対立する陣営は、中央アジアに巨大な塀を築き、伝統的な定住生活を営んでいた。気球をあやつり、いくつもの機動都市を破壊してきた凄腕の女性工作員「風花」に救われた二人は、生存競争とはまた別の生き方があることに気づかされる。だが、平和な中央アジアにも、「メデューサ」を手にしたロンドンの脅威が迫りつつあった…
定番のヴィクトリア朝風のスチームパンクとは一味違った、ポスト・ホロコーストの奇妙なローテク世界である。それにしても、いくら行儀の悪いファンタジイが流行だとはいえ、ここまで突っ走ってしまった児童書というのはそうそうないのではないだろうか。次から次へと繰り出されるハイ・スピードのアクション・シーンに加え、主要な登場人物がほとんど死んでしまうという容赦のないストーリー展開は、どうも日本のコミックやアニメのメンタリティに近いものがあるように思える。とはいえ、何もかもなくした主人公が、物語の最後で生き残っていさえすれば、それをハッピー・エンドだとうそぶく、いかにもイギリスらしい作品であることも確かである。(2001/12/7)
ひとつ付け加えると、長さの関係で褒めっぱなしで終わってしまっていますが、この作品、じつは文章が非常に子供っぽいんですよね。内容的にはそんじょそこらのYAものとは比較にならないほどしっかりしているし、大人が読んでも感心するほどの設定とストーリーなんですが、なぜか文章が小学生向きじゃないかと思われるほどシンプルで、そのギャップがなんとも不可解です。それも上手いから簡潔に書いているなんていうものではなくて、まああんまり上手くない人が子供向けを意識するとこうなってしまうんですかね。続編3冊はまだ読んでないんですが、少しは上達したのかな。いやまあ自分のことは棚の一番高いところに上げておきますが。
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