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Sunday, November 27, 2005

"The Cosmology of the Wider World" by Jeffrey Ford

the_cosmology_of_the_wider_world 最初、このギャグマンガみたいな表紙を見たときは、今までのフォードの作品の雰囲気からすると全然合わない気がして「げー、なんでまたこんな……」と思ったのですが、読み始めてみるとこれがなんとぴったりなんですよね。涙やら涎やら汗やらを、原稿と一緒にまき散らしてジタバタしているミノタウロス。見るからにぶざまで滑稽で笑っちゃいますが、実は本人はマジメに悩んでいるんです。そもそも外見と内面のギャップこそが彼の抱える問題なので、姿だけで彼を判断してしまった人は、反省してこの本を読んだほうがいいかもしれませんね。

異種間交合の産物であるギリシャ神話のミノタウロスと違って、主人公ベリウスの場合、花を摘んでいるとき牛に追いかけられた母親の恐怖が、胎児形成の際に多大な影響を及ぼしたためこんな姿になってしまったということで、遺伝学的には人間(のはず)。本当なら彼は人間として普通の人生を歩めるはずだったんです。初めて手にした本がダンテ『神曲』の「地獄編」で、それを辞書を引きながらも完読してしまうほどの知能を持っているにも係わらず、容貌の違いだけで奇異な目で見られたり、偏見を持たれたりするのはさぞかしつらいことだと思います。ただ違いがあることは厳然たる事実で、人によって避けたり、憐憫を持ったり、ありのままを受け入れたり……。そんな周囲の反応が複雑に絡み合って、ベリウスに悲劇をもたらす結果となります。

醜い姿が起因となった偶発的な出来事によって、結局どうにも行き場が無くなったベリウスは、人間の住む「狭い世界」を飛び出して、動物たちが仲良く暮らす「広い世界」に居を定めます。実は物語はここから始まるのですが、仲間の動物たちに囲まれていても、彼には何かが足りないんですね。そしてフラストレーションが溜まった彼の嘆き悲しむ声が、森中にとどろき渡ります。これがスゴイんですが、それを聞いた動物たちの反応がまた泣かせるんですよね~。いかに彼が愛されているかが、ひしひしと伝わってきます。そして、人間でもなく、牛でもない中途半端な存在の彼に欠けているのは、同じミノタウロスのお相手だと考えた仲間の動物たちは、知恵を絞って彼にメスのミノタウロスを贈ろうと考えつきます。

動物たちが無謀にも、しかし熱意を込めて、生命を持つメスのミノタウロスを作り出そうとする過程に、人間界にいたときのベリウスの記憶が断片的に挟み込まれて行くのですが、彼の過去を徐々に知って読者の気持ちが一番高まったところで、最後の場面に突入するので、そのインパクトは絶大です。構成のうまさで、効果を最大限に引きだすことに成功しています。

これは、動物たちが知恵を出し合って仲間を救おうとする友情の物語であり、また人間でも牛でもないベリウスの帰属の物語で、寓話的なところを含め、どことなくイソップ物語を思わせたりもするのですが、子供だましのお伽噺にならなかったのは、作者がベリウスに変な憐れみをかけず、あくまでも中立的な視点で書いているからだと思います。そして現実的な結末には、とても納得させられます。人によっては多分、あの最後に不満があるかもしれませんが、私はあれで満足でした。

こんな表紙(失礼)ではありますが、フォードの紡ぎ出す物語は相変わらず繊細で美しく、ひとつひとつの言葉の選択や表現にも細やかな配慮が窺え、豊かな、そして幾分啓蒙的で哲学的な内容を持つ、かわいいトラジコメディに仕上がっています。巻頭には、息子デレクへの簡単なメッセージが添えられているのですが、確かにこれは父から息子への愛情溢れるとてもいい贈り物といえますね。大人にも高学年の子供にも受け入れられる、慈しみを持って語られる現代的な寓話でしょうか。

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Comments

なんか quark さんはイマイチだったようですが、私はすっごく気に入ってしまいました。ま、ちゃんとしたレヴューは a nanny mouse さんが書いてくださると思うので、とりあえずおしゃべり用として感想をアップしておきます。

2冊も在庫してるアマゾンはエライ!

Posted by: Lilith | Sunday, November 27, 2005 20:07

結末にうるさいと定評のある(笑)quarkですが、本作に関しては結末を含めて後半にいくほど良くなっていった印象あります。多分、世界の設定に納得がいかなかったんでしょう。まさにコスモロジーが気に入らなかったわけで……。

あの表紙絵には不備があるんですよ。
ベリウスの足は、蹄がある牛の足じゃなくて、人間の足じゃなくちゃいけません。
そんなことばっかり気にしてるから、小説の面白さがわからなくなるのかも。

Posted by: quark | Sunday, November 27, 2005 20:39

え、人間風の脚の先に蹄がついていませんでした?(=表紙絵のとおり)

Posted by: Lilith | Sunday, November 27, 2005 20:48

うっ、そう言われると、もう自信ない……。

human footって書いてたような気がするけど、human legだったのかも。

Posted by: quark | Sunday, November 27, 2005 22:17

表紙の絵は執筆中のフォードの姿を描いたリアリズムかと思ってました。なんだ、違うのか。

お二人の感想が食い違うというのはなかなか楽しみですね~ 読んだらこそっと感想付け加えておきます。

Posted by: a nanny mouse | Sunday, November 27, 2005 22:27

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