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Sunday, November 20, 2005

Salt, by Adam Roberts

アダム・ロバーツがパロディ専門の作家だと思われてしまうとかわいそうですので、2000年に出版されたデビュー長編を紹介しておきましょう。なんかテロリストと原理主義者の戦いなんて、発表された時点よりも今のほうが切実なテーマになっているような気がしますね。本職はれっきとした英米文学の教師で、そちらの方面の研究書も出してます。

Salt一面の塩に覆われた惑星での、イデオロギーのぶつかり合いを描いたSFなんて、一体どこが面白いのかと思うのだが、抜群の筆力を持った作家の手にかかると、これが宝石に変わるのである。デビュー作とは思えないほどに磨き上げられた作者の筆によって、微妙な陰影を施されたシンプルなプロットは、叙事詩的な高みにまで登りつめる。

閉鎖的になった地球を離れ、十二組の宗教集団が新天地を目指す。恒星間飛行の推進力は、楕円軌道から解き放たれた彗星である。それぞれの集団を乗せた十二機のロケットは、ケーブルで彗星にぶら下がり、目的地へと牽引されていった。だが、事前調査では地球型の惑星だと思われていた植民先は、一面が塩化ナトリウムの結晶で覆われた不毛の地であった。

十二組の集団のなかには、航行中から歯車の噛み合わなかった、両極端ともいえる二つのグループがあった。原理主義のセナールと、宗教集団を擬して一団に紛れ込んだ無政府主義者の集まりアルスである。セナールは一同のリーダー、バーレイのもと、階級制度に基づいた管理社会を築いていく。一方、アルスは、個人の意志を絶対なものと考え、電子的なクジによる作業割り当てに従い、リーダーを持たない自由社会を目指した。ストーリーは、バーレイと、アルスの一員ペーチャの視点から交互に語られていく。

個々のイデオロギーはさておき、一致協力して開拓にあたるべきだと考えるバーレイは、周辺の植民都市にも働きかけ、鉄道や道路、風を遮る土手や水を供給する運河など、社会基盤の整備を進める。遠隔地に植民したアルスにも、当然のこととして交流を迫る。だが、総意を求めないアルスは、判断は個々人の意志によるものとして、一向に反応を示さない。特に、航行中の業務割り当てによりセナールと交渉に当たったことのあるペーチャは、バーレイからはアルスの代表者と見なされて、繰り返しアプローチを受けるが、何等行動を取ることはなかった。

そして、父系社会のセナールが、航行中にセナールの男がアルスの女性に産ませた子供たちの親権を主張し始めたとき、緊張は最高潮に達した。次第にエスカレートしていく角突き合いは、工業力を背景としたセナールによるアルスの空爆へと発展し、ついに業を煮やしたペーチャは、全力をあげてのゲリラ戦へと突入する。

微視的に見れば、小さな誤解の積み重ねによる破局の構図である。巨視的には、自己の正当性のみに基づいた異文化の衝突のアレゴリーであるといえるかもしれない。作者の筆は、どちらかの社会に肩入れすることもなく、淡々と双方の思想と、他者を理解しようとする発想の欠如を語っていく。語り手の立場の違いにより、同じ出来事が全く違う意味合いを見せる構成は、スリリングでさえある。また、最初は純粋な理想主義者だったバーレイが、次第に自己正当化の凝り固まりである狂信者に変わっていく過程と、無気力に見えたペーチャが、冷徹なテロリストに変貌を遂げる様子は、多分にブラック・ユーモアを含み、よく練られた小説を読む醍醐味を味わわせてくれる。

設定や構成には、『デューン』や『所有せざる人々』が影響を与えているそうだが、新天地でのイデオロギーのぶつかり合いということでは、『JEM』や『レッド・マーズ』を思わせるところもあり、また作中のワン・シーンには、『闇の左手』を想起させる部分もある。とはいえ、押さえた筆致による政治的なモチーフとアレゴリーは、多分にイギリスSFの伝統を感じさせる。アイデア豊富な重厚なスペース・オペラの対極に位置する、ミニマリズムSFの秀作とでもいえようか。(2001/8/11)

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Comments

ようやくパロディ以外のアダム・ロバーツを読みました。こういう作品があるのに、パロディだけ読んで笑ってるなんて、我ながらひどい奴だと深く反省。で、意気揚々と書き込みにお邪魔したんですが…なんと~、レヴュウが素晴らしすぎて何も付け足す事がなかった…^^; とりあえず足跡だけ残していきます~。

Posted by: bumpkin | Monday, February 13, 2006 23:09

あ~、なんかコメントくださいよ。それだけじゃ面白かったのかどうかもわからない~。

なんか渋くて好みのタイプじゃないはずの作品なんですが、二人の悪役によるトラジコミカルな展開が、なぜか読ませるんですよね。なんか 9/11 を予言したような話で、もっと評価されてもいいはずなんですけど。

Posted by: a nanny mouse | Monday, February 13, 2006 23:32

そういえば、なんかこんな立派なSFの研究書も出しちゃいましたね。

Posted by: a nanny mouse | Monday, February 13, 2006 23:37

げ、事故正当化だって^^; こっそり直しておこう。

Posted by: a nanny mouse | Monday, February 13, 2006 23:38

もちろん、面白かったにきまってます。イデオロギーに凝り固まった人物の語りを並べながら、双方の利点と欠点を客観的に(かつブラックな笑いをこめて)把握させていく手際が見事でした~。自己正当化の海を漂ううちに読者だけが相互理解を深めていって、どちらがどうというんじゃなく、辿り着く先はイデオロギーという概念(?)自体への懐疑だったりする。うまくいえないんですけど、こういう作品には妙な安心感がありますね。またふたりとも憎めない人物でしたし、ほんとに読ませる話でした。この勢いでSFの研究書も…といきたいとこですが…。

あ、事故正当化には以前から気付いてたんですが、ものがロバーツのレヴュウだけに、アクシデントも正当化しちゃう連中だ、ってジョークかと^^)

Posted by: bumpkin | Wednesday, February 15, 2006 00:11

> こういう作品には妙な安心感がありますね。

あ、たしかに、安っぽい価値観の押し売りをするような作品も結構ありますもんね。ロバーツは他の作品もヘンテコでいいんですよ。作風からいって、なかなか大傑作にはなりにくいんですけど、こっちの思ってもみない方向に引っ張られていく作品っていうのは得がたいですね。ということで、「奇想のロバーツ」というイメージで印象付けようとしてるんですが、どこかで翻訳してやろうという出版社はありませんかね。

Posted by: a nanny mouse | Sunday, February 19, 2006 00:42

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