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Thursday, October 20, 2005

Veniss Underground, by Jeff VanderMeer

Veniss Undergroundヴァンダーミアの長編第1作がレギュラーのペーパーバックで大手から再登場しましたので、紹介しておきましょう。ハロウィン向きでもありますし。

架空の都市アンバーグリスを舞台にしたシュールな連作短編集 City of Saints and Madmen (2001) で一躍脚光を浴びたジェフ・ヴァンダーミーアは、トールキン・クローンのハイ・ファンタジイの氾濫で硬直化したジャンルに、本来のファンタジイが持つ活力を取り戻そうと試みる新世代の作家の代表選手である。そのオピニオン・リーダーとしての位置付けは、チャイナ・ミエヴィルと並ぶものといえよう。

両者の共通点は、19世紀以来の幻想小説の伝統を踏まえながらも、広く文学全般に目を向け、ゲットー化したジャンルを文学の本流に押し戻すことが自身の責務だと捉えているところにある。とはいえ、自らをジャンル内に位置付け、そこから外に打って出ようという、どちらかといえば伝統志向のミエヴィルに対し、ヴァンダーミーアは、ボルヘスやナボコフ、アンジェラ・カーターという、ジャンルに縛られない作家に視点を定め、スタイル上の実験にも意欲的に取り組みながら、より広い土俵での勝負を意識している。彼はまたアンソロジストとして、あるいは自ら運営する出版社を通して、新しい才能の紹介を積極的に行っており、このところの小出版社の活況を支える世話役の一人でもある。

ヴァンダーミーアの初の長編『ヴェニス・アンダーグラウンド』は、ポスト・ホロコースト的な遠未来の地方都市ヴェニスで幕を開ける。長年に亙るAIの独裁から解放された人々は、その代償として、都市ごとに分断された政体を持つに至った。環境破壊が極度に進み、人間以外の生物はほとんど姿を消し、過去の技術も衰退の一途にある。人々は崩れ行く都市の空隙をホログラムで補って生活していた。

売れないホロ・アーティスト、ニコラスの一人称による第1部は、彼がミーアキャットを求めて「クィンの上海サーカス」を訪れた経緯を語る。ウェルズのモロー博士を想起させるクィンは、バイオエンジニアリングの第一人者として、絶滅した生物のみならず、架空の生物も気の向くままに作り出すカリスマ的な「生命の芸術家」だった。彼の手になるミーアキャットは、カンガルーとゴリラの遺伝子をブレンドした、家政婦兼用心棒の役を器用にこなす知的生物である。だが、ニコラスはこの訪問を境にふっつりと消息を絶ってしまう。

ニコラスと同じ人工子宮から生まれた双子の姉、ニコラを二人称とした第2部は、プログラマとして街の秩序を維持しながら、弟の行方を探す彼女の日常を追う。ある時、象の頭をした警備員ガネーシャが、ニコラの元に1匹のミーアキャットを連れてきた。クィンからのプレゼントだという。弟の失踪とクィンとの関連を疑うニコラは、手掛かりを求めて手元に置くことにする。だが、夜中に家を抜け出したミーアキャットを尾行したニコラは、彼らが街の乗っ取りを画策する現場を目撃する。

三人称視点の第3部は、クィンの下働きのシャドラックが、若返りの手術を受けたばかりだという顧客の老嬢の目と手に、かつての恋人ニコラの印を発見するシーンで始まる。臓器バンクの記録によれば、ニコラが収容されたのはわずか2日前。まだ生存している可能性はある。彼女のアパートに駆けつけたシャドラックは、暗殺者仕様のミーアキャットに襲われる。かろうじてこれを倒した彼は、切り落とされてもなお減らず口の止まない首を抱えて、クィンの本拠であるヴェニスの地下へと下る。

街の地下には三十層に亙って無秩序な闇の世界が広がっていた。臓器バンクの、高々と積み上げられた死体の山から、まだ息のあるニコラを掘り出すシャドラックの姿には、オルフェオの冥界行が重なる。さらにクィンを追って最下層へと至るシャドラックは、ダンテの「地獄編」、あるいはヒエロニムス・ボッシュの絵画さながらの世界へと足を踏み入れる。SF、ホラー、ファンタジイを経てグロテスクな美を追求してきた物語は、オズの魔法使い的なクィンとの対決に至って、さらにシュールなイメージの奔流へとなだれ込む。たしかに新しいファンタジイの一つの方向がここにある。

ウェブ上で作家がジャンルの将来について議論する場面を目にすることが多くなった。超弩級のマッコウクジラを思わせるミエヴィルと、しなやかなダイオウイカのヴァンダーミーアの一騎打ちは、中でも一番スリリングなものだ。いや、新世代のファンタジイの大海には、まだまだ未知の巨大生物が潜んでいるのかもしれない。(2003/7/11)

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Comments

これってドイツ語とチェコ語とロシア語で出版されるというのに、日本語の翻訳は出ないんでしょうかね? 結構好きだったので、日本語版が出たらまた買っちゃうんですけど。

それにしてもチェコはニュー・ウィアード系の翻訳、がんばってますね。"The Etched City" も来年チェコ語で出るんだわ。

Posted by: Lilith | Thursday, October 20, 2005 at 22:03

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