« The Golems of Gotham, by Thane Rosenbaum | Main | "The Dedalus Book of Finnish Fantasy" by Johanna Sinisalo et al. »

Monday, October 17, 2005

Evening's Empire, by David Herter

これも怪しい話なんですが、作品の雰囲気が晩秋のイメージなんですよね。かなり好みの作品です。

作者のハーターはヤナーチェクの大ファンということで、チェコにヤナーチェクの研究に行ったりしてるので、なかなか次作が出ませんね~。までも、その甲斐あってか、来年出る予定のヤナーチェクのピアノ曲集のタイトルを冠した On the Overgrown Path は、奇妙な殺人事件に巻き込まれたヤナーチェクを主人公にしたミステリふうのファンタジイだとか。う~ん、楽しみですね。SFとオペラの関係について書いたこのエッセイも、あまり知られていないオペラを紹介していて、この人、どちらが本職なんでしょう?

Evening's Empireハイ・ファンタジイと児童書ファンタジイばかりがもてはやされる中で、大人向けの正統派のファンタジイを書く新人作家の登場は貴重である。とはいえ、最初からベテラン勢の作品に伍した傑作をものするような新人は、そうそう現われるものではない。幸運なことに、2002年は、二人の実力派の若手の力作が相前後した。奇しくも、ティム・パワーズとジェイムズ・ブレイロックを彷彿とさせる作風が好対照を見せている。

ひとりは、19世紀のニューヨークを舞台にアステカの神の復活を描いた A Scattering of Jades で長編デビューのアレクサンダー・C・アーヴァイン。エキゾチックな神話と時代の裏面史の取り合わせが、パワーズの『アヌビスの門』を思い起こさせる。いっぽう、エキセントリックな登場人物と奇抜な設定を得意とするブレイロックを連想させるのが、今回紹介するデイヴィッド・ハーターである。

じつは、ハーターのデビューは 2000年の Ceres Storm に遡る。こちらはナノテクで大きく変貌した太陽系を舞台に、支配者のクローンとして育てられた主人公の自分探しの旅を核とした、スペース・オペラの3部作の第1作であった。ジーン・ウルフやポール・マコーリイの遠未来ものの系譜に連なる異質な世界描写が、時として無機質な手触りを見せ、正直なところあまり楽しめなかったが、続編のつもりで手に取った本書は、意外にも、繊細な描写に満ちたシリーズ外のファンタジイだった。

現代音楽の作曲家であるラッセル・ケントは、ヴェルヌの『海底二万マイル』を題材としたオペラの作曲に専念すべく、オレゴンの海辺の寒村イーヴニングに赴く。じつはこの村は、二年前に滞在したときに、最愛の妻を事故で失った思い出の地でもあった。詮索好きなインフォメーションの老嬢も、ペンションを経営する若き未亡人ミーガンも、同情とともにラッセルの再訪を歓迎してくれる。だが、夜な夜な夢に現われる妻の姿と、晩秋の村に漂う陰鬱な雰囲気に、作業は遅々として捗らない。

気分転換にと散歩に出たラッセルは、村の主だった住人と顔見知りになる。古本屋の店主の紹介で、アマチュア考古学者カーヴァーや、村の創始者ジョセフ・イーヴニングが遺した館の管理人親子と飲み友達になったラッセルは、反チーズ連合への参加をうながされる。じつは、創始者イーヴニングの時代から、唯一の特産物であるチーズを製造する工場長が、この村の運営を取り仕切ってきたのである。反チーズ連合は、工場長の独裁を潔しとしないものたちの集まりだった。

いっぽう、二年前に妻が足をすべらせた崖を訪れたラッセルは、そこで奇妙な容器を拾う。カーヴァーによれば、イーヴニングの海岸には、しばしば太古の遺物が打ち上げられるという。だが、苦労してこじ開けた容器の中から現われたのは、得体の知れぬ小動物の骨だった。尋常ならざる村の姿に徐々に眼を開かれていくラッセルが、遠巻きに付け狙う二人組の男の存在に気づいたのはちょうどそのころだった。

ある日、地元の音楽教師が、奇妙なパターンの写った写真を彼の元に持参した。古代の楽譜ではないかというのである。色彩が音として聞こえるという共感覚の持ち主であるラッセルは、チーズ工場の地下で撮影したという不鮮明な写真から、奇妙な音楽を感じ取った。だが、是非実物を見てみたいと意気込むラッセルに、大きなチーズの塊に相手の顔を彫刻しながら受け答えする工場長は、頑として応じない。地下には、イーヴニングが植民して以来の、この村の存在理由が隠されていたのである。

閉鎖的なカルトの支配する村に紛れ込んだ旅人の受難の物語である。ただし、ストーリーはホラーに向かうことなく、ミーガンとのロマンスや、ネモ船長に心酔するオペラの脚本家の来訪を交え、最後には村を挙げての大活劇へとなだれ込む。少々、というより、かなりトンデモな設定が、奇想天外なヴェルヌのロマンスに対するオマージュとなっているところが微笑ましい。

ごくおだやかな幕開けから、村の雰囲気や住民の振る舞いに微細な不協和音を忍ばせ、徐々に異様さを盛上げていく作者の手綱さばきには揺るぎがない。シリアスな対立とコミカルなやりとりをほどよくブレンドし、古風な仕掛けをうまく現代に溶け込ませる絶妙なバランス感覚も、繊細さの要求されるモダン・ファンタジイにまさにうってつけといえる。次作以降はSFに戻るという作者だが、早期にファンタジイ第2作を期待したいところである。(2002/12/10)

|

« The Golems of Gotham, by Thane Rosenbaum | Main | "The Dedalus Book of Finnish Fantasy" by Johanna Sinisalo et al. »

Comments

あ、こんなところに Jades が……。気付いてませんでした。

私はこれ、地下の世界に行ってからどうなるかを楽しみにしてたのに、あっと言う間にあんな風に終わっちゃったので、イマイチでしたけど。

Posted by: Lilith | Monday, October 17, 2005 22:59

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference Evening's Empire, by David Herter:

« The Golems of Gotham, by Thane Rosenbaum | Main | "The Dedalus Book of Finnish Fantasy" by Johanna Sinisalo et al. »