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Monday, September 19, 2005

"The Etched City" by K. J. Bishop

the_etched_city オーストラリア特集ということで、期待の新人K・J・ビショップの話題のデビュー作です。

 まずは表紙の絵をご覧いただきたい。こちら側に背を向けて立つ黒ずくめの男。これが本書の主人公グウィンだ。ツバ広帽と長髪の間に覗く横顔は凛々しく、剣を握りしめ、ロングコートの裾をなびかせる姿は映画のワンシーンのように決まっている。その彼にまとわりつくようにして闊歩するのは、黒マスクを付けた魅惑的なスフィンクス。ギリシャ神話にあるように、彼女は謎をかけて旅人を餌食にしようというのか。スフィンクスはまた、男を破滅に導くファム・ファタールでもあった。

 さて、ダンディズムと退廃の香りが濃く漂うこのイラストだが、実はアーティストでもある作者自身の手になるものだ。一九世紀末芸術の旗手、ビアズリーのイエローブックを連想させるデザインからは、エロティック、グロテスク、芸術至上主義といった言葉が思い浮かぶ。「銅版画に彫られた街」とも、「心に深く刻み込まれた街」とも取れる印象的な書名とこの表紙絵によって、読者はページを開く前から物語の中の世界へと巧みに誘い込まれる。

 革命に破れ、旧敵に追われながら、廃墟と化したコッパーカントリーの砂漠を駱駝に乗って突き進むのは、傭兵グウィン、そして軍医として戦いに参加したロールだ。逆境にあっても、アウトロー、グウィンの物言いや態度はあくまでもクールで、伊達男振りを示すエピソードにも事欠かない。一方、諦観をも感じさせる冷徹さを持つ女医ロールは、いずれどこかに定住して開業し、人々の役に立つことを夢見ている。彼女は、奇形の胎児の死体をコレクションするという、変わった趣味の持ち主でもある。

 片や色白で背高、他方は浅黒く小柄と、性格も容姿も対照的なかつての同志二人が、最終的に逗留地として選んだのは砂漠の果て、河に沿って発展した熱帯性気候の街アシャモイルだった。ここで彼らは全く別の道を歩む。街で人身売買を牛耳るマフィアのボスに雇われたグウィンは、やくざな仕事に手を染め、ちんぴら仲間と盛り場に入り浸る。ロールは、貧民窟にある診療所で、劣悪な労働条件の下ただ一人の医師として働き始める。

 物語の中核を成すのは、アシャモイルの街で次々と起こる不思議な出来事だ。画廊で見つけた『スフィンクスとバジリスクの対話』と題されたエッチングに強く惹かれ、憑かれたように制作者のベス・コンスタンツィンを捜し始めるグウィン。やっとのことで彼女のアトリエをつきとめるのだが、なぜかベスは彼の来訪を予期していた。当然の成り行きのようにしてすぐに愛し合うこの二人に、版画のスフィンクスと蛇に似た伝説の動物バジリスクの姿が重なる。つかみどころのない彼女が語るのは一風変わった世界観で、グウィンはベスに夢中になりながらも、何か割り切れない気持ちに苛まれる。

 この恋人同士の関係を中心にして、独房の中でミノタウロスの夢を見て苦悩する男、ワニの身体を持って生まれた新生児、臍から蓮の花を咲かせている芸人、ロボトミー手術で犯罪人を従順な人間として再生する医師と、次から次へと怪しげな者どもが登場し、白昼夢を思わせる摩訶不思議な世界が繰り広げられていく。この作者の強みはその描写力にある。まるでグラフィック・ノヴェルを読んでいるように、ありありと情景を思い浮かべることができるのだ。幻想味あふれるシーンでは、その描写に一層輝きが増す。

 暗喩的表現に満ちたこの作品の中で、グウィンが魅せられた版画はひときわ大きな役割を担っている。タイトルとは裏腹に、対話をしているようには見えないというスフィンクスとバジリスク。謎を解けない者を喰う前者と、一睨みで相手を殺す後者の関係が、ベスとグウィンの行く末にも多大な影響を及ぼしていく。

 一見、取留めのない挿話の連続に思えるプロットだが、その中で登場人物たちは道徳心を問われ、人生の不条理について考え、友情と忠誠心を天秤にかけ、宗教について意見を戦わせる。現実の世界においても直面するそれらの問いに「正解」は用意されていない。スフィンクスが謎をかけている相手、それは私たち読者なのかもしれない。

 K・J・ビショップは本作品で、新人ファンタジイ作家に授与されるクロフォード賞を、そして本国オーストラリアではディトマー賞を長篇部門と新人部門で受賞した。幸先のよいスタートをきった彼女の、今後の活躍が大いに期待される。(2004.04.30)

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Comments

う~ん、オーストラリア特集とかいわれても後が続かないぞ^^; けっこう積んではあるんですけど、なかなかそこまで手が回らないんですよね。

いやでもこの作品、デビュー長編でありながら、去年のワールド・ファンタジイ・アワードの候補にもなりましたよね。微妙にシンボリックでメタフィクショナルなあたりや、グロテスクな美が、行き過ぎていないところでバランスをとってるのがなかなかでした……とかいいながら、わたしはもう少し突っ走ってしまってもいいんじゃないかとは思ったんですが。

う~ん、新作はまだかな~。

Posted by: a nanny mouse | Monday, September 19, 2005 at 21:59

ビショップのアシャモイル、ヴァンダーミアのアンバーグリス、ミエヴィルのニュー・クロブゾン、フォードのウェル・ビルト・シティは、最近の4大 obscure cities でしょうか^^)

Posted by: a nanny mouse | Monday, September 19, 2005 at 22:04

あと、国際ホラーギルド賞(International Horror Guild Awards)のファースト・ノヴェル部門にもノミネートされてましたよね。

デビュー作がこれほど評判いいと、2作目はかなりプレッシャーかも。

Posted by: Lilith | Monday, September 19, 2005 at 22:32

グロテスクだけど抑えているところが、ビアズリーなんですってば。

Posted by: Lilith | Monday, September 19, 2005 at 22:39

いやでも半鰐人には活躍して欲しかったですけど^^)

Posted by: a nanny mouse | Monday, September 19, 2005 at 22:45

わに・かいじゅー!

Posted by: Lilith | Tuesday, September 20, 2005 at 21:37

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