Friday, September 30, 2005
Borges and the Eternal Orangutans, by Luis Fernando Verissimo
なんかタイトルとカバーでばかり本を選んでいるような気がしないでもないですが、もともとわたしは judge a book by its cover を半ば信条としてますので、こういう本が出てくると、う~む、どうしても手を出したくなりますね。いやまあ quark さんがほっとかないだろうと思いますけど(笑)。
16世紀のオカルティズムとオランウータンを散りばめたミステリのパロディだそうですが、殺人が起きたポーの研究会の場にはボルヘスが居合わせて素人探偵をしちゃうのだとか。容疑者にはネクロノミコンから抜け出してきた悪霊も含まれてるみたいです。なんかA・S・バイヤットやイアン・ペアズのファンなら絶対気に入るとか書いてありますね。
作者のルイス・フェルナンド・ベリッシモはブラジル作家だそうですが、寡聞にして初めて聞く名前です。The Club of Angels もグルメ倶楽部を舞台にしたミステリだそうですが、こっちもやっぱりヘン。
Thursday, September 29, 2005
"Haussmann, or the Distinction" by Paul LaFarge
以前、"The Artist of the Missing" が紹介されていた Paul LaFarge ですが、彼の長編第2作 "Haussmann, or the Distinction" が届きましたので、とりえあえずご紹介を。
皇帝ナポレオン三世の指示により、19世紀半ばにパリ市街の近代化をなしとげたオスマン男爵が主人公……のはずなんですが、50ページ過ぎても登場しませんねぇ。
汚物にまみれた川に捨てられ、貧しいランプ点灯人に拾われた Madeleine には、貴族の隠し胤ではないかという噂がつきまといます。修道院に入っても噂はつきまとい、やがて本物の貴族の娘 Naserie と知り合ったことから、噂は現実の装いを帯びていくのですが……まあ、このあたりはサッカレーの『虚栄の市』を思わせる風俗小説風に書かれてます。
この Madeleine がやがて demi-monde で活躍をはじめ、Haussmann と知り合うことになるわけですが、そこにあやしげな解体業者が絡んでくることから、事態は容易ならぬものになっていくようです。死を目前に控えたオスマン男爵が「全てをなかったことにしたい」と言ったのは何故なのか? 気になりますねぇ。
表紙の色が冴えないのは理由があります。実はこの小説、LaFarge の創作ではなく、1920年代にパリの無名作家によって書かれた小説の英訳版なんです(お約束ですが)。このオリジナル版の dull-green cloth を模したのがこの表紙ってわけ。さりげなく置かれている写真は、もちろん御用記録写真家マルヴィルによるものです。
"The Mysteries" by Lisa Tuttle
なんとなくこのハードカバーの表紙が、ずーっと気になっているのですが、この手のは実際手に取ってみないと分らないんですよね。12月に出るペーパーバックのほうは、色がちょっと違うみたいだし……と、相変わらず表紙に悩まされてる私です。
で、この "The Mysteries" ですが、イギリスで人々が忽然と消えてしまう事件がおき、行方不明者の捜索を専門とする、ロンドン在住のアメリカ人私立探偵イアンが謎を追うという物語なのですが、そもそも彼がそれに関わり始めたのも、父親と恋人が同様に失踪しているからなんですね。ところが家族から捜査依頼のあったある美女が、ミダーという名の男に連れ去られたことが分ってからは、思わぬ展開に……。というのもミダーとは、アイルランド神話の妖精王の名前なんです。
Sidhe(シー)というのは、ゲール語で妖精を意味するそうです。ケルトの妖精物語+ミステリーで、けっこうおもしろそうな気がしますが、どうでしょうか。
これはリサ・タトルの10年ぶりに近い新作だそうで、前作 "The Pillow Friend" も同じ系統の(だけど全然よくない)表紙のペーパーバックで、"The Mysteries" のペーパーバックと同時発売されます。
Wednesday, September 28, 2005
Novel, by George Singleton
このジョージ・シングルトンっていう作家、以前 The Half-Mammals of Dixie という短編集を買って……結局積読にしてあるんですけど、長編が出たというので懲りずにまた買ってしまいました^^; だって、"Novel" なんていうむちゃくちゃ大胆なタイトルだし、カバーには伝説の角の生えたウサギ Jackalope が鎮座ましましてるんですから、これはほっとくわけにいかないでしょう。しかし、Novel というタイトルの本にわざわざ "A Novel" の副題を入れるところが、バカ正直にアメリカ的ですね^^)
ストーリーのほうは、ヘビのトレーナー Novel が、自伝を書こうとジタバタしているうちに、米南部の田舎町 Gruel の隠された秘密を掘りだしてしまう話だとか。そう、Novel とは主人公の名前だったんですね。ちなみに、弟は James で、妹は Joyce なんだとか。と~ってもありきたりな名前^^) 登場人物がみんなヘンということらしいので、カール・ハイアセンみたいなドタバタを期待しているんですけど、はてさてどうなりますやら。
Tuesday, September 27, 2005
"Darkwerks: The Art of Brom" by Brom
この前 "The Plucker" をご紹介したブロムのイラスト集、"Darkwerks" を買ってしまいました。
ぎゃ~~~、かっこいい~~~、もろに私好みです~~~~~♪
いや、もう上手いんです、かっこいいんです、アヤシイんです。オールカラーで128ページのこれは超オススメ、お買い得です!!!
先週アマゾンをチェックしたときには「3~5週間以内に発送」だったのですが、今見てみたら8~9日になってました。折角米国から取り寄せたのに~(安かったし、5日で届いたので文句はありませんが)。
2ページだけ、子供の頃描いた絵が載っているのですが、5~6歳までは絶対私のほうが勝っていると思うんですよね。う~ん、どこで差がついてしまったのでしょうか。ちなみに小学校にあがる前の何年かは日本に住んでいて、アニメ漬けになったのがよかったみたいです。私も子供の頃はアニメばかり見てたんですけどね。
Monday, September 26, 2005
Parable of the Talents, by Octavia E. Butler
バトラーの1998年のネビュラ賞受賞作を紹介しておきましょう。
日本での紹介は長編一作に数編の短編と、評価の割にまだまだこれからだが、80年代以降つねに話題作を提供してきたオクテイヴィア・E・バトラーが、代表作となるシリーズを書き継いでいる。
ネビュラ賞の候補になった前作の『種蒔く人の寓話』Parable of the Sower (1993) は、黒人牧師の娘として生まれた思春期の少女ローレン・オラミナの日記の形で、殺伐とした近未来のカリフォルニアでの主人公の受難と、独自の信仰「アースシード」の形成を語る。
経済の疲弊が進み、アメリカは暴力、貧困、人種間の対立が支配する無法地帯と化していた。だが、母親が妊娠時に服用した薬品の影響で、他人の痛みを自分の痛みとして感じる擬似エンパスに生まれついたローレンは、未来への希望と他者への共感、自己実現を核とした信仰を育む。その教義は「神は変化」であり、目指すところは「星々に地の種を広げ、繁栄すること」であった。
暴徒の襲撃で家族と家を失ったローレンは、一握りの隣人とともに、全土を覆う混乱の中放浪の旅を余儀なくされる。信仰を拠りどころに、同様の境遇の放浪者を加えつつ、一行が荒野に一戸を構える医師と出会い、「どんぐり」という共同体を形成するところで前作は終わる。
『タラントの寓話』Parable of the Talents (1998) には、年配の医師の妻、そして母となったローレンが登場する。小さな共同体が徐々に規模を増すにつれて、暗い影もその濃さを増した。死んだはずの弟に奴隷市で再会したのもつかのま、ローレンの信仰になじめない弟は共同体を去る。右傾化が進み、厳格な規律に活路を求めたアメリカは、ついには狂信的キリスト教原理主義者を大統領に抱いた。
排他的理想主義にとって「どんぐり」は恰好の攻撃の的だった。原理主義者の私設軍の襲撃で、数人の仲間と夫を失ったローレンを迎えたのは、再教育という名の監禁と拷問。子供を引き離し、電気ショックで律し、原理主義者の蹂躙は次第にエスカレートする。「どんぐり」は人間の弱さと強さをあらわにする強制収容所と化した。
あるきっかけで反撃に転じ、圧政のくびきを逃れたローレンだが、以前の共同体は跡形もない。奪われた子供を追って野に出たローレンは、原理主義者の中に居場所を見出した弟に遭遇し、娘探しを懇請する。だが、決して悪意はないが相容れぬ弟は協力を拒む。失意のローレンは、各地を巡るうち、人々に「アースシード」を説くことに自分の本分を見出す。原理主義者の勢力の衰退のなか、素朴に希望を模索する教義は、徐々に人々の中に浸透していった。
『タラントの寓話』は、ローレンの手記と、それを編纂した娘のラーキンのコメントで構成されている。厳格な原理主義者の養父母に育てられ、後に叔父に親近感を抱くようになったラーキンは、母の業績を認めつつも、最後まである種の反発を抱きつづける。これは娘が母を理解しようと逡巡するプロセスの物語でもあったのだ。
バトラーが近未来に仮託して語る物語は、寓話とは名ばかりで、その主張は実にストレートである。弱者が虐げられてきた過去に対する悲憤と、精神的にはそう変化のない現在に対する強い批判がそのまま提示されている。デビュー当初からの立脚点が、黒人女性というSF作家としてはまれな背景にあるため、黒人や女性の解放の歴史との呼応を色濃く感じるが、結果はより一般化されたヴィジョンとなっている。
とはいえ、一方的な主張に少々辟易すると同時に、居心地の悪さを感じてしまうのも事実だ。変化・協調を体現する女性の主人公に対し、権威・体制維持を支持する男性陣を配しているのは、いささか図式的に過ぎる感がある。また、近年の実社会での経験から、カルトの形成のイメージに素直に承服できないこちら側の事情もある。ただ、そんなあたりを、作者は主人公の娘を語り手に設定して、第三の視点を対峙させることで和らげているようでもある。あるいは、この視点を続編の形で発展させることを作者は意図しているのだろうか。
まれに見るパワフルな作品である。好きになる必要はないのかもしれない。(2000/11/9)
Sunday, September 25, 2005
Fledgling, by Octavia E. Butler
オクタヴィア・バトラーのなんと7年ぶりの長編は、ず~っと密かに生き続けてきたヴァンパイアの一族の物語だそうです。
黒人女性のSF作家といういささか特異な位置付けながら、生物学・社会学を背景にしたけっしてファンタジイに流れない作風で、黒人の置かれてきた歴史的状況を巧みに取り入れ、しかもアクション主導のSF本来の面白さもないがしろにしない厚みのある物語は、バトラーならではのものですね。
とくに少女の主人公を描かせると抜群に上手いんですが、今回は53才のヴァンパイア少女(笑)が主人公だそうです。いえいえ、寿命が700年なんで、まだまだ若造ということらしいです。普通とはかなり違うヴァンパイア像が楽しめそう。
Saturday, September 24, 2005
"Attack of the Jazz Giants and Other Stories" by Gregory Frost
いやに威勢のいいタイトルですが、どんな話が出てくるのかさっぱり分りませんね。表紙を見ると窓からげっそり顔のエドガー・アラン・ポーが覗いてたりして、ますます気になります。というわけで、グレゴリー・フロストの短編集 "Attack of the Jazz Giants and Other Stories" を読んでみました。
巻頭を飾るのは、レストランでの優雅な食事風景から始まる The Girlfriends of Dorian Gray。美食家の主人公はとんでもない大食漢なのに、スレンダーな体型をキープしているという妖怪みたいな男。デートのたびにこってりした食事につき合わされる相手は、太らないはずがありません。そんなこんなで常に女性に去られてしまう彼ですが、ある日「当方痩せ型で料理上手」というパートナー募集の広告が目にとまり、これだとばかりに飛びつきます。ところが彼女の手料理を食べて太り始めている自分に気づき愕然、逃げようとするのですがとき既に遅く、食欲に溺れる彼は彼女の術策に完全にはまってしまいます。日常的によくある食にまつわる悲喜劇が、料理好きの作者によってホラー風味を加えて上手く調理された一作。おいしいものに目がない読者には悪夢のような物語です。
次に来るのが、全く雰囲気の違う硬派な作品 Madonna of the Maquiladora。メキシコの保税輸出加工区マキラドーラで働かされている人々の間で、聖母マリアが現れたという噂が広まります。その真相を、主人公であるよそ者のジャーナリストが暴こうとする物語なのですが、現地に寝泊まりして取材をする過程で彼が経験することは、私たちにとってもいろいろ考えさせられる問題です。雇用対策や経済発展という美名のもと後進国を搾取する先進国、巧妙な人心操作術、ジャーナリズム活動の限界、そして信仰とは……。めずらしく二人称で書かれているのも、読者に問題提起しているようで効果的に響きます。この作品が、ネビュラ賞、ヒューゴ賞、スタージョン賞、ティプトリー賞の最終選考まで残ったというのは大いに頷けます。
フロストは、社会問題をファンタジー的手法で扱わせるととても上手い作家だと思います。現実感が薄らぐことによって、問題の深刻さは軽減されてしまいますが、逆に象徴性が増してインパクトが強くなるんですよね。父親が身体から落としていく白い粉を息子が収集していく Collecting Dust は家庭崩壊を題材にした物語ですが、ゲームの中の世界と現実が混在したようなラストは、えもいわれぬ不思議な虚無感を残します。また、浮浪者版『マッチ売りの少女』と言えそうな The Bus では、貧困層の犠牲の上に成り立っている金持ち社会という構図を、夢幻的なストーリーの中で鋭くえぐり出しています。表題作の Attack of the Jazz Giants は、奴隷制は廃止されたものの、黒人はまだ家畜のように扱われていた時代に、差別主義者に天罰が下るという破天荒な物語。「そんな馬鹿な~」の展開ですが、ジャズ好きの作者ならではの痛快さが魅力。社会問題というわけではありませんが、キリスト博物館を建てた男がある真理に到達する Touring Jesusworld は、実在の人としてのイエスには関心を持たず、それぞれが心の中に持つイメージを崇める人々を皮肉った作品で、ファンタジーのオブラートに包まれていなければ、熱心な信者に怒られてしまいそうです。
そんな作者が真骨頂を発揮するのは、なんといってもスラップスティックです。宇宙船内の限られた環境の中での愛憎を描いた A Day in the Life of Justin Argento Morrel、地球へ密航するはずの二人組がリカヴァリーという全然違う星に着いてしまう、ビング・クロスビー&ボブ・ホープの珍道中を思わせるドタバタ喜劇 The Road to Recovery、自分の作り出した小説の世界でエドガー・アラン・ポーが混乱憔悴する In the Sunken Museum、憧れの美女の憎たらしい子供二人を預かったものの、うっかり魚に変身させてしまって処理に困る How Meersh the Bedeviler Lost His Toes など、シュールでお馬鹿な物語も満載。
さらには、奇病にとりつかれた十代の姉弟と神童モーツアルトの対比が哀れな Divertimento、何十年ぶりかに会ったのに三十そこそこにしか見えない同級生の不老の秘密を探る Some Things Are Better Left、売春婦が語る憎悪を体現した妖怪の物語 Lizavet、呪われた懐中時計を切り裂きジャック事件を起した原因とし、関係者の強迫観念を描いた From Hell Again など、心理的要素の強いホラー的な作品もお手の物という感じです。
というわけで、いろいろなタイプの完成度の高い作品を読めて、とても満足の1冊でした。一番古い作品が1981年のものなので作家としては中堅クラスだと思いますが、日本で紹介された気配がないのはなぜでしょう?
作者のサイトはこちら。挨拶文の最初の一行は思わず笑ってしまいますね。
A Princess of Roumania, by Paul Park
う~む、傑作だとは聞いていましたが、年間ベスト級の作品だったとは。流行りのハイ・ファンタジイではあるんですが、ちゃちいところが全くないんですよ。少女が主人公なんで、一部でジュヴナイルという声も聞かれますが、そりゃまあ高校生ぐらいなら十分楽しめるでしょうけど、この職人芸の見事さからいって、正しく評価できるのは大人の読者ですね。
幼くして里親に引取られルーマニアからマサチューセッツへとやってきたミランダは、屈託なく育った典型的なアメリカの少女だった。ときおり、今の自分が本当の自分ではないんじゃないかと夢見る、ごく普通の高校生である。とはいえ、故郷を思い出させるのは、叔母から渡されたといういくつかの古い貨幣と装身具、そしてまだ読むことのできないルーマニア語で書かれた『歴史概論』という本だけだった。だが、15才の夏、ミランダの世界は一変する。
親友のアンドロメダがヨーロッパ旅行に行ってしまい、時間をもてあますミランダは、今まで口もきいたことがなかったクラスメートの少年ピーターと知り合いになる。片手の手首から先がないピーターは、学校でも孤立した存在だった。だが、新学期が始まり、アンドロメダが戻ってくると、またピーターとの仲は疎遠になりそうだった。数人の東欧からの新入生がやってきて、街に騒動が持ち上がるまでは。
新入生のリーダー格の少年は、英語もままならないながら、なぜかミランダの出自にまつわる秘密を知っているようだった。そして、彼女の持つ『歴史概論』を狙っていた。ピーターとアンドロメダに守られ、ミランダは少年と対決するが、『歴史概論』は奪われ、彼女の目の前で火にくべられてしまう。
ところ変わってこちらはルーマニアの首都ブカレスト。いや、ルーマニアといってもおなじみの Rumania ではなく、ほんとうの世界にある Roumania である。失脚し自殺したチャウシェスク男爵の未亡人ニコラは、ミランダの居場所を聞き出そうと、ミランダの叔母エジプトを拷問にかけていた。王家の血を引く亡き英雄の娘ミランダを手に入れ、また権力の座に返り咲こうというのである。
庶民の出ながら歌姫として名を馳せたニコラは、年老いた男爵に見初められ若くして玉の輿に乗るも、いまは年金さえ差し押さえられ、不憫な息子の先行きを愁う困窮の身。だが、夫の残したご禁制の錬金術を独学で身につけたニコラは、異世界のアメリカに手下を送り込んだり、自らの分身を操り自在に当局の監視の目をくぐり抜けるほどの腕前を誇っていた。
さて、一方のミランダの叔母、エジプトだが、こちらは正統派の呪術師で、ミランダの父が悪巧みにより処刑され、母がドイツの手によって幽閉されたことから、自ら『歴史概論』を書き上げ、本の中の世界にミランダを匿っていたのだった。つまりは、この世界はミランダを保護するために作られたものだったのだ。20世紀に起きた二つの大戦も、ミランダにマサチューセッツでの平和な子供時代を提供するためだった。
ほんとうの世界では地球は静止し、すべての天体は地球の周りを回っていた。キリスト王を信奉するものはごく一部で、ブカレスト市内でも、クレオパトラ神殿やヴィーナス宮がより多くの信者を集めている。イギリスは洪水のため水没し、生き残った人々は、ニューイングランドに渡り食人種と化していた。そして、我らがルーマニアは、人望の薄い女帝と将軍の元、大国ドイツの影に怯えていたのだった。
エジプトが機が熟したと判断したのか、それともチャウシェスク男爵夫人の計略が功を奏したのか、『歴史概論』が燃え尽きると同時に、ミランダは未開の地である本当のアメリカ大陸へと姿を現す。護衛役であるピーターとアンドロメダも、意外な姿となって付き従った。ジプシーの老婆に助けられ、男爵夫人の追っ手を逃れ、食人族イギリス人をかわし、マンモスと対峙し、地獄廻りを果したミランダは、それぞれの魂が動物のトーテムの姿を取って現われるこの世界で、祖国ルーマニアを救う White Tyger としての一歩を踏み出すのだった。
うむむ、ファンタジイの常套を微妙にずらしながら、見事にオリジナルなアイデアに擦り替えてますね。けっして長い作品ではないものの、アイデア満載で、並みのドア・ストッパー数冊分の工夫が凝らされています。ミランダを主人公にした少年少女の冒険ものがメインではあるんですけど、全体の半分は悪役チャウシェスク男爵夫人のピカレスクに費やされていて、純情な少女と老練な悪女との対比が見事です。いやでもこの男爵夫人、悪どい事ばかりするくせに、もっと悪どいドイツの大使に相当にやりこめられたりして、なんとも魅力的な屈折したキャラクタです。
ここで目につくのがフィリップ・プルマンの「ライラの冒険」との類似点。多重世界にレトロな技術、異教の神々に動物のトーテム、異世界の冒険に地獄廻り、少女の主人公に目的達成のためには手段を選ばない悪女が敵役ときては、比較するなというほうが無理なんですけど、さすがベテランのポール・パーク、直接影響を受けたというよりは、もっと面白さの根源から掘り出してきたという感じですね。プルマンの前にはジョーン・エイキンのダイドー・トワイトがいたわけですし、さらに遡れば、C・S・ルイスのナルニアやフランク・ボームのオズ、ジョン・メイスフィールド、マクドナルドからモリス、民話・伝説・神話の世界へと至り、かたやアンソニー・ホープやライダー・ハガードからスティーヴンスン、オデュッセイアやイーリアスへと辿る冒険小説の系譜もあるわけです。
ちなみに、プルマンのかなり気紛れなアイデアの使い方に対し、プロットに様々なアイデアを有機的に溶け込ませたポール・パークの手際は、さすがに一日の長があるといえるでしょう。そう、プルマンより上手いんです。
さて、ファンタジイの要素を離れて、この作品で特に魅力的なのが、第1次世界大戦前の東欧の雰囲気を見事に捉えているところでしょう。現代という設定にはなっていますけど、まだ錬金術が幅を利かせるこの世界の技術レベルは、19世紀末から20世紀にかけてのものです。ドイツに怯える小国ルーマニアの命運とくれば、これはまさにルリタニアものの常套ではないですか。歴史改変ものということでは、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を思い起こさせますし、重要な小道具としての本の使い方や「改変技術」ものということでは、ニール・スティーヴンスンの『ダイヤモンド・エイジ』に通じるところもあります。
さらにいえば、魅力的な悪役に等分に登場の機会を与えるピカレスクの部分や、東欧を舞台にしたルリタニア的な雰囲気は、ティム・パワーズの Declare や Drawing of the Dark に非常に近いものを感じさせますし、歴史にちょっと捻りを加え魔法を滑り込ませたということでは、スザンナ・クラークの Jonathan Strange & Mr Norrell にも匹敵するものといえます。あ、いや、この強烈な個性の悪役は、ジョージ・R・R・マーティンの《氷と炎の歌》の住人ですね。
ううむ、歴代のファンタジイのチャンピオン・クラスの作品を引き合いに出してしまいましたが、それに引けを取らないほど見事な作品なんですよね。来年の世界幻想文学大賞はむちゃくちゃ激戦区なんですが(ジョン・クロウリーの Lord Byron's Novel、ハル・ダンカンの Vellum、ニール・ゲイマンの Anansi Boys、イアン・R・マクラウドの The House of Storms なんかが控えてます)、それでもこの作品が受賞する可能性は高いんじゃないでしょうか(<他の作品読んでないのにこんなこといっていいんだろうか^^;)。
一部で2部作という噂もありましたが、The Tourmaline、The White Tyger と続く3部作になるようです。第2部では錬金術師ヨハネス・ケプラーの頭から出てきたという魔法の石トルマリンの正体がわかるみたいですね。ううむ、待ち遠しいぞ。ということで、今年最高のハイ・ファンタジイを読みたい人は、マーティンの『カラスの宴会』(笑)をほっといてでもこちらを読みましょうね。
ちなみにポール・パークのインタヴュウがこちらで読めます。
Friday, September 23, 2005
Talking Squids in Outer Space
イカっていうのは宇宙空間で動き回るのに最適の構造をしているそうで、イカがパイロットの宇宙船というのはよく見かけるんですが、なんと Talking Squids in Outer Space というそのものズバリのサイトが出来てました^^) スティーヴン・バクスターにケン・マクラウド、アーサー・C・クラークにチャールズ・シェフィールド、ピーター・ワッツの作品なんかが並んでますね。
下手人はヴォンダ・N・マッキンタイアでした。どうも Starfarers のシリーズに出てくるみたいです。これはやはりマーガレット・アトウッドの2年前の問題発言に反応したんでしょうね。よしよし^^)
ううむ、Church of the Flying Spaghetti Monster なんていうリンクもありました。こちらはブッシュのインテリジェント・デザインを皮肉ったものですね。
Thursday, September 22, 2005
Operation Red Jericho, by Joshua Mowll
何の気なしに買った児童書なんですが、これが内容以前に装丁でのお遊びの極みで、大喜びしてました^^)
作者が85年前に起こった事件の秘密文書を入手したという設定で、ドシエというか手帳のような造本なんですよね。表紙は角を落とした赤い布張りに付箋を貼り付けたデザインで、ゴムで止めるようになってます。
1920年に上海で起こった事件に巻き込まれた少年少女の冒険ということらしく、中には昔のパルプふうのカラーで印刷された絵や設計図、地図、写真や新聞の切抜きが、折込を多用して収められています。欄外には絵入りの注釈が百科事典風に入っていて(marginalia ですね^^)、ところどころに赤インクで "confidential" の判が。ふ~む、綱の結び方やモールス信号、ジャイロのメカニズムの図解と……昔の少年向きのサバイバル・ハンドブックですね^^)。しょぼい内容だったとしても、これは装丁だけで赦してしまおう。
Wednesday, September 21, 2005
"The Plucker : An Illustrated Novel" by Brom
ゴシック・ホラー系人気イラストレーターのブロムですが、最新作 "The Plucker" では、イラストだけでなくストーリーも本人が手がけています。
子供の成長によって忘れ去られてしまうことが、おもちゃにとっては最悪の事態。埃まみれになって、ベッドの下に押し込まれているジャックも、そんな不幸なおもちゃのひとつです。ところがある日、プラッカーという悪霊が彼らの世界に解き放たれてからは、ジャックは自分を捨てた子供トーマスを護るために悪戦苦闘することになります。
というわけで、話もおもしろそうだし、絵も好きだし、買ってしまいそうな私です。
The Plucker のサイトはこちら。
ブロムのサイトはこちら。
Fewture から、過去の作品のフィギュアがでています。
Franklin Mint からも。
Tuesday, September 20, 2005
"The Year's Best Australian Science Fiction And Fantasy" by Bill Congreve & Michelle Marquardt(editor)
オーストラリア作家の作品を読んでみたいけど、どれを選んだらいいのか分らない……。そんなSF&ファンタジー・ファンには、こちらの2005年版ベスト・アンソロジーがよさそうです。こちらで名前の出た、テリー・ダウリング、マーゴ・ラナガン、キャット・スパークスの作品も入っています。
◎作品リストです。
"The Meek" by Damien Broderick
"Flashmen" by Terry Dowling
"Singing My Sister Down" by Margo Lanagan
"The Dreaming City" by Ben Peek
"Sleeping Dragons" by Lynette Aspey
"No 3 Raw Place" by Deborah Biancotti
"Occam's Razing" by Brendan D. Carson
"Bones" by Rjurik Davidson
"The Tale of Enis Cash, Smallgoods Smokehand" by Brendan Duffy
"Birds of the Bushes and Scrubs" by Geoffrey Maloney
"Home by the Sea" by Cat Sparks
"Tripping Over the Light Fantastic" by Kim Westwood
出版社 Prime での紹介はこちら。
オーストラリアの出版社 MirrorDanse のほうに、もっと詳しい説明があります。
The Physical Descriptions of Ansible
「アンシブル」といえばアーシュラ・K・ル・グインが、ハイニッシュ宇宙もので超光速通信装置として登場させたアイデアですが、現在ではSF界の共有財産のひとつとして、オースン・スコット・カードやウィル・マッカーシイなども自作の中で使っていたりします。
今回ポール・パークが The Princess of Roumania の中で使用しているアンシブルは、なんと死者と通信してしまいます。やはりアンシブルも時代とともに発展し、新しい用途を開拓しているということなのでしょうか^^)
さて、気になるそのメカニズムですが、ポール・パークによればこんな形:
"She pressed the coordinates into the ansible, an iron box fifty centimeters long, ornately painted with a pattern of exploding stars. Typewriter keys protruded from one side, and her stained fingers played on them."
爆発する星の模様のついた、片側にタイプライタのキーが突き出ている50センチほどの鉄の箱だそうです。
で、ファンジン「アンシブル」の発行者でもある編集者/作家デイヴ・ラングフォードが、ほんとにそうなのかル・グインに確認したところ、
"I don't know where they get their ansibles from in Roumania, but the last model I'm familiar with is more like a large pocket handkerchief with holograms and sound effects. The Roumanian version sounds unnecessarily massive."
彼女のなじみのモデルは、大きなハンカチにホログラムとサウンド・エフェクトがついたようなデザインだそうです(<どんなんじゃい)。
しっかしまあプルマンの「ライラの冒険」にも量子ペアを使った通信機が出てきてビックリしましたけど、たぶんアンシブルもおんなじような原理なんでしょうね(といってわかったつもりになる)。
Monday, September 19, 2005
Australian Online Bookshop
オーストラリアにはアマゾンがないので、オーストラリアものを手に入れようとすると結構不便です。すぐに絶版というケースも多いですし。一般書では Dymocks なんかがありますが、SFや児童書も含めたファンタジイは、Australian Online Bookshop がお薦めですね。サイトのデザインはチープですけど、他では絶版になってるかなり以前の作品でも在庫してますし、小出版社の本も扱ってます(リストされてない本でも、入手可能なら手に入れてくれます)。そのうえ、ディスカウントもしてくれて、消費税もちゃんとカットしてくれます(他の書店では標準価格で消費税も込みだったりします)。運賃も economy air で頼めばかなり安く、1~2週間で到着します。店主の Bob Hoffman と直接やり取りするタイプの書店ですが、そのぶん話は速いし安全ですよん。ただしまあ、梱包はけっこう手抜きかも^^)
Daikaiju! Giant Monster Tales, edited by Robert Hood & Robin Pen
最近のオーストラリアのSF/ファンタジイのアンソロジイといえば、Cat Sparks の Agog! のシリーズが人気なんですが、今年は旦那さんの Robert Hood のアンソロジイ Daikaiju! が目玉みたいですね。ちなみにこちらにはイギリスやアメリカの作家も参加してるようです。内容は……たぶん想像どおりの代物だと思いますけど。ProjectPulp か Australian Online Bookshop で買えます。
"The Etched City" by K. J. Bishop
オーストラリア特集ということで、期待の新人K・J・ビショップの話題のデビュー作です。
まずは表紙の絵をご覧いただきたい。こちら側に背を向けて立つ黒ずくめの男。これが本書の主人公グウィンだ。ツバ広帽と長髪の間に覗く横顔は凛々しく、剣を握りしめ、ロングコートの裾をなびかせる姿は映画のワンシーンのように決まっている。その彼にまとわりつくようにして闊歩するのは、黒マスクを付けた魅惑的なスフィンクス。ギリシャ神話にあるように、彼女は謎をかけて旅人を餌食にしようというのか。スフィンクスはまた、男を破滅に導くファム・ファタールでもあった。
さて、ダンディズムと退廃の香りが濃く漂うこのイラストだが、実はアーティストでもある作者自身の手になるものだ。一九世紀末芸術の旗手、ビアズリーのイエローブックを連想させるデザインからは、エロティック、グロテスク、芸術至上主義といった言葉が思い浮かぶ。「銅版画に彫られた街」とも、「心に深く刻み込まれた街」とも取れる印象的な書名とこの表紙絵によって、読者はページを開く前から物語の中の世界へと巧みに誘い込まれる。
革命に破れ、旧敵に追われながら、廃墟と化したコッパーカントリーの砂漠を駱駝に乗って突き進むのは、傭兵グウィン、そして軍医として戦いに参加したロールだ。逆境にあっても、アウトロー、グウィンの物言いや態度はあくまでもクールで、伊達男振りを示すエピソードにも事欠かない。一方、諦観をも感じさせる冷徹さを持つ女医ロールは、いずれどこかに定住して開業し、人々の役に立つことを夢見ている。彼女は、奇形の胎児の死体をコレクションするという、変わった趣味の持ち主でもある。
片や色白で背高、他方は浅黒く小柄と、性格も容姿も対照的なかつての同志二人が、最終的に逗留地として選んだのは砂漠の果て、河に沿って発展した熱帯性気候の街アシャモイルだった。ここで彼らは全く別の道を歩む。街で人身売買を牛耳るマフィアのボスに雇われたグウィンは、やくざな仕事に手を染め、ちんぴら仲間と盛り場に入り浸る。ロールは、貧民窟にある診療所で、劣悪な労働条件の下ただ一人の医師として働き始める。
物語の中核を成すのは、アシャモイルの街で次々と起こる不思議な出来事だ。画廊で見つけた『スフィンクスとバジリスクの対話』と題されたエッチングに強く惹かれ、憑かれたように制作者のベス・コンスタンツィンを捜し始めるグウィン。やっとのことで彼女のアトリエをつきとめるのだが、なぜかベスは彼の来訪を予期していた。当然の成り行きのようにしてすぐに愛し合うこの二人に、版画のスフィンクスと蛇に似た伝説の動物バジリスクの姿が重なる。つかみどころのない彼女が語るのは一風変わった世界観で、グウィンはベスに夢中になりながらも、何か割り切れない気持ちに苛まれる。
この恋人同士の関係を中心にして、独房の中でミノタウロスの夢を見て苦悩する男、ワニの身体を持って生まれた新生児、臍から蓮の花を咲かせている芸人、ロボトミー手術で犯罪人を従順な人間として再生する医師と、次から次へと怪しげな者どもが登場し、白昼夢を思わせる摩訶不思議な世界が繰り広げられていく。この作者の強みはその描写力にある。まるでグラフィック・ノヴェルを読んでいるように、ありありと情景を思い浮かべることができるのだ。幻想味あふれるシーンでは、その描写に一層輝きが増す。
暗喩的表現に満ちたこの作品の中で、グウィンが魅せられた版画はひときわ大きな役割を担っている。タイトルとは裏腹に、対話をしているようには見えないというスフィンクスとバジリスク。謎を解けない者を喰う前者と、一睨みで相手を殺す後者の関係が、ベスとグウィンの行く末にも多大な影響を及ぼしていく。
一見、取留めのない挿話の連続に思えるプロットだが、その中で登場人物たちは道徳心を問われ、人生の不条理について考え、友情と忠誠心を天秤にかけ、宗教について意見を戦わせる。現実の世界においても直面するそれらの問いに「正解」は用意されていない。スフィンクスが謎をかけている相手、それは私たち読者なのかもしれない。
K・J・ビショップは本作品で、新人ファンタジイ作家に授与されるクロフォード賞を、そして本国オーストラリアではディトマー賞を長篇部門と新人部門で受賞した。幸先のよいスタートをきった彼女の、今後の活躍が大いに期待される。(2004.04.30)
Blackwater Days, by Terry Dowling
オーストラリアの話題が出たところで、オーストラリアの隠れた巨匠、テリイ・ダウリングの作品を紹介しましょう。この作品、わたしにとって、オール・タイム・ベストの1冊なんですよね。ちなみに、この傑作、残念ながら絶版でなかなか手に入りません。
連作ホラーのアイデアを暖めていたダウリングが、全体の枠組みのための着想を得たのは、シュールな画風でオーストラリアのSF界を彩るイラストレータ、ショーン・タンの Black Water に出会ったときだという。その絵画は、扉絵として本書の巻頭に据えられているが、灰色の煤煙と漆黒の廃液が支配する荒廃した地平の中央で、身を捩り無音の悲鳴を上げる肉塊のようなビルディングは、ムンクの「叫び」を容易に想起させる。そう、これは現代の都市における日常を、異なるスペクトルで見てしまったものたちの話なのだ。
物語は、ブラックウォーター精神病院の経営者、ダン・トラスデールの巻き込まれた七つの奇妙な事件という形をとる。ただし、作者の描き出す「奇妙さ」の源泉は決して一様ではなく、ストレートなホラーや伝統的なファンタジイの系譜の、超自然的な結末を持つものから、フリークを扱ったグロテスク奇譚や、シリアル・キラーを題材としたサイコ・サスペンスなど、現実的な恐怖までをカバーする。さらに、巻を追うに従って、起こる事件はメタフィクショナルな色彩を強め、連作としての作者の意図をより明確にしていく。
巻頭に置かれた "Downloading" は、ヒッチコックの「裏窓」よろしく、交通事故で自宅療養中の探偵ジェイが、裏窓の外に広がるベネット通りを見張るシーンから始まる。精神科医ダンによれば、その通りに出入りする人々の間で、精神分裂症の発生が異常に高いというのである。患者の一人が語る不明瞭な断片から、なんらかの原因がベネット通りにあることが推測された。通りの日常のリズムに馴染んだジェイは、あるとき不協和音を奏でる浮浪者に目を留める……。ホラーのアイデアによる幻想譚への転化が印象的である。
つづく二作では、作者は超自然の要素の表出を控え、心理的なアプローチをこころみる。廃屋の閉じられた窓の中ではためくカーテンに摂り憑かれた女性を描く "Beckoning Nightframe" では、他人には見えないカーテンのはためきを通して、幻想がそれを目にしている当人にとっては現実であることが示唆される。一方、"Basic Black" では、殺人犯のプロファイリングを依頼されたダンが、犠牲者を縛り上げておきながら、数時間後に惨殺するというシリアル・キラーの手口から、強盗と、その強盗の犯罪に寄生する殺人者の存在を考察する。結末のツイストも鮮やかなサイコ・サスペンスの一作である。
イヴ・タンギーの同名のシュールレアリズム絵画に触発された "The Saltimbanques" では、一転してダンの少年時代の出来事が語られる。友人三人と山歩きに出かけたダンは、巡業中の軽業師の一座のキャンプに紛れ込む。見栄えのしない一行の驚異的な演技の陰には、大地に秘められた力を追って彷徨う曲技団の、再生のためのある目論みが隠されていた。ブラッドベリを初めとするノスタルジックなサーカスものの傑作群に連なる作品といえよう。
"Jenny Come to Play" は、姉の訪問に怯える分裂症患者ジュリーの登場で幕を開ける。シャム双生児だった彼女は、双子のかたわれのジェニイを残し、フリークのコレクターだった亡き父の意志を継いで、暴君的に振舞う姉の元から逃げ出してきたというのだ。探偵ジェイとともに狂気の館に乗り込んだダンは、破滅的な愛の存在を目にすることとなる。
さて、この連作を結びつける糸として、作者はダンとともに、毎回事件に対し奇妙な洞察力を発揮する二人の分裂症患者を登場させているが、巻末の二編はこの二人にまつわる事件を扱っている。"Light from the Deep Pavilion" は、打ち捨てられた産業博の跡地を背景に、丹下健三のデザインした展示館が風水的に縁起が悪いとして、建物のどこかに二人の日本人の子供を隠してしまった中国人に、人間をダイアモンドとしてしか認識できないフィルが対峙する。コミカルな雰囲気の漂う一編である。一方、最後に置かれた "Blackwater Days" では、もう一人の患者ピーターが、一連の奇妙な箱を残して意識不明となってしまう。覗き穴のついた箱を調べたダンは、それぞれの箱の中に、これまでの事件のひとつひとつが象徴的に再現されていることを見出す。そして、一見空っぽと思えた最後の箱を覗いたダンは、初めてピーターの視線でこの世界を眺め、彼の恐怖を共有する。
シュールレアリズムに傾倒するという作者の、絵画的描写力によるそれぞれの短編の完成度の高さにも感心させられるが、多彩な作品をひとつの枠組みにまとめあげ、単なるシリーズ連作や枠物語の域を一歩抜け出て、作品そのものに自らを解説させるかのような構築は見事というほかはない。不可解な謎を提示し、納得のいく解決をこころみながらも、謎の解消には向かわず、より深く非日常の視点を読者に経験させるという、ファンタジイの根源的な力にあふれた傑作である。(2002/4/27)
Sunday, September 18, 2005
The Land of Oz
ジェフ・ヴァンダーミアがオーストラリアのコンヴェンションに出席するということで、ブログのほうでオーストラリア作家特集が組まれてます。オーストラリアの作家のインタヴュウといえば、ちょっと前にベン・ピークの43人斬りという労作があったんですけど、たしかにこのところ若手の作家が大活躍で、ホットになってますね。ちょっとまとめて読まなくちゃと常々思ってはいるんですが^^;
カバーのほうは、なかでもホットなマーゴ・ラナガンのジュヴナイルの短編集 Black Juice です。しかし、これがジュヴナイルとは……オーストラリアってかなり凄いのかも。
Saturday, September 17, 2005
Tim Kendall-Carpenter, Bookseller
いつもお世話になってる本屋の紹介をしておきましょう。
イギリスの一般文芸書は Tim Kendall-Carpenter にお願いすることが多いですかね。主流文学の新刊書のサイン本やバックリストが豊富です。コレクター向けの書籍商なので、安売りはありませんが、価格設定は非常に良心的です。とくに指定しないと 1st class だったり mailbag だったり、送料と到着時期はまちまちなんですが、すぐに返事をくれますのでこまめに問合せをいれるといいでしょう。わたしの場合、本が届かなかったり破損していたりという経験はありませんが、Rick Kleffel によれば、トラブルの場合の対応もバッチリだそうです。
サイトのほうでは新刊書の更新がけっこう遅いので、ABE で探したほうが確実かもしれません。なお、登録しておくとほぼ月1回新刊・近刊のリストが e-mail で送られてきますので、これでめぼしい作品のチェック/予約をしておくのがよろしいかと思います。花マル付きのお薦め書店です。
"The Every Boy" by Dana Adam Shapiro
表紙のクラゲが目を引きますね~。思わずチェックしてしまいました。
タイトルの The Every Boy とは、15歳で溺死してしまったヘンリー・エヴリー少年のこと。彼が遺した膨大な量の日記から、彼が日頃どんなことを考えていたのか、そして何故死んだのかが明らかになっていく物語のようです。
とにかくキャラクターが魅力的みたいです。お父さんはクラゲに、お母さんは蟻に凝っていたというから、普通とかなり違った環境に育ったようで、その息子のヘンリー君もかなりヘンっぽいです。思春期の少年の繊細な感性を見事に表わしているという点で、サリンジャーっぽいという声もあがっています。
この作品はデイナ・アダム・シャピロの作家としてのデビュー作です。というのも、この方、今年のサンダンス国際映画祭のドキュメンタリー部門観客賞を受賞した "Murderball"(murderball とは車椅子ラグビーのこと)の監督でもあるんです。"The Every Boy" もシャピロ自身の脚本・監督で映画化される予定だそうです。
著者が、映画とこの作品について語っているインタヴューはこちら。
Friday, September 16, 2005
Oh Pure and Radiant Heart, by Lydia Millet
たまたま今日届いた本なんですが、ほとんど知られてない作家のわりにはかなり評判がいいようです。1945年7月の世界初の原爆実験の場から突然21世紀へと飛ばされてしまったマンハッタン計画の中心人物、オッペンハイマー、フェルミ、シラードが、自分たちが作り出してしまった負の遺産に直面して、武装解除を推し進めるドタバタを通して、現代における核の問題を扱ったものとのこと。George Bush, Dark Prince of Love なんていう作品も書いている作者のことなので、相当に皮肉の利いた作品なんじゃないかと思いますが。
この出版社の Soft Scull Press というのもかなり曲者で、David Ohle の The Age of Sinatra なんていう怪しそうな作品を初め、見るからにあくの強いラインアップを並べています。面白いんでしょうかね~。
Thursday, September 15, 2005
"The Shadow at The Bottom of The World" by Thomas Ligotti
ブラム・ストーカー賞を長編・短編両部門で受賞経験のある、トーマス・リゴッティの短編集 "The Shadow at The Bottom of The World" が来月発売されます。新旧の作品の中から、著者自身がもっとも気に入っているものを選んでいるので、かなり充実度の高いコレクションといえます。
リゴッティの短編集は、"Songs of a Dead Dreamer"、"Grimscribe: His Life and Works"、"Noctuary" の3冊をひとつにまとめた "The Nightmare Factory" が出ていたのですが、すでに絶版状態になっていますので、今回の作品集は未読の人には待望の1冊ですね。
収録作品は次の通りです。
The Last Feast of Harlequin
Dr. Voke and Mr. Veech
Alice's Last Adventure
Vastarien
Dr. Locrian's Asylum
The Mystics of Muelenburg
The Spectacles in the Drawer
The Strange Design of Master Rignolo
The Shadow at the Bottom of the World
Nethescurial
The Cocoons
The Tsalal
The Bungalow House
Teatro Grottesco
The Red Tower
Purity
リゴッティのインタヴューはこちら。
ちなみに長篇は、2002年度のブラム・ストーカー賞を受賞した "My Work Is Not Yet Done: Three Tales of Corporate Horror" が出ているのですが、日本のアマゾンでは在庫切れになっていますので、どうしても欲しい人は Amazon.com で買いましょう。
Wednesday, September 14, 2005
Ten Sorry Tales, by Mick Jackson
デイヴィッド・ロバーツのいかにも期待を持たせる挿絵のわりには、正直なところ期待外れでした。10編もあればひとつぐらいは唸るような作品があっても不思議ではないんですけど、ベストの作品でもまあまあレベルですね。全般にフラットで、もう少しエスカレートして欲しいところで無難に結末をまるめてしまっている感じで、なんかもの足りなかったです。
設定からいけばエドワード・ゴーリイやティム・バートン、ロアルド・ダールあたりのグロテスク・ユーモアになってもよさそうな話もあるんですけど、そこまでの強烈な皮肉はないし、ファンタジイ的な展開もかなりクリシェで先が読めてしまうんですよね。作者が影響を受けたという『もじゃもじゃペーター』の楽しさからもほど遠いし。説教くさい寓話に落としていないあたりはまあ悪くないんですが、結果としてこれといったテーマもなく終わってしまう場合が多いです。15年間眠りつづけて結局一生を棒に振ってしまう少年の話や、海辺で魚の燻製を作って暮らす男に縁のない初老の姉妹が、海で溺れた男を助けたことから始まるままごとの世界など、身も蓋もないという以前の、笑う要素とてまるでない退屈な掌編でした。
それでも、いくつかの作品ではまあまあのエスカレーションを見せてくれます。屋根裏部屋で手漕ぎボートを作ってしまった男が洪水の折に出会った出来事や、骨董品屋で蝶の標本を修繕する道具を手に入れた少年の密かな趣味の顛末は、そこそこにシュールなイメージへと結実します。ただまあこれがケリー・リンクやジェフリイ・フォード、はたまたスティーヴン・ミルハウザーあたりだったら、似たような設定でどこまで話を広げてくれるかと考えると……なんでそこで静止画にしてしまうのかわからない~。
まあいちおう弁護しておけば、さすがに文章は味のある表現が豊富です。奇妙な情景を簡潔な文章で描き出す技はなかなかですね。ジャクスンの長編はまだ読んだことがないんですが、やっぱり長編型の作家なんでしょうか。どうも短編で話を発展させるとか、切れ味のいいスケッチを描き出すのが苦手な人なんじゃないかという印象を受けました。までも、けっこう評判いいみたいなんで、気に入らなかったのはわたしだけですかね。
Tuesday, September 13, 2005
"The Tree of Love" by Patrick Atangan
"Songs of Our Ancestors" という、アジアの民話を題材にしたグラフィック・ノヴェルのシリーズがあるのですが、10月に発売される3巻目はインドのラージプート(ヒンドゥー)とムガール(イスラム)の美術様式を取り入れて描かれた "The Tree of Love" です。インドの若い王子が花売り娘に恋をするのですが、彼女の魅力にはなにか隠された秘密があるようです。
中身はこちらで少しみることができます。
作者へのインタヴューはこちら。
このシリーズの1巻目は日本、2巻目は中国で、それぞれの伝統的な絵画手法を真似て描いているところが、なかなかおもしろいです。日本編 "The Yellow Jar" の Time のレヴューはこちら(一番下)です。
このあとは、韓国、フィリピンと続くようです。
Jonathan Strange & Mr Norrell, by Susanna Clarke (Boxed 3-Volume Set)
うむむ~、やっぱりあのカラス印のモノリスを持ち歩いて読むのはしんどいという声が上がったんでしょうね、ペーパーバックの3分冊箱入りが登場します。1024ページだって^^; まああのハリポタで味をしめた Bloomsbury が、色々な判を出してすでに持っている人にも買わせようという魂胆に違いないんですが。でも、英米それぞれの白黒バージョンに赤バージョン、箱入り限定版、英米の ARC と、つごう8冊も持っているわたしは買いません。ぜったいに買いませんとも。でもね~、赤白黒の3色に箱入りときては、すべての判のエッセンスをひとつにまとめたような作りですね。
ちなみに、このサイトでの作品の紹介はこちらです。
Monday, September 12, 2005
"Heavy Words Lightly Thrown: The Reason Behind The Rhyme" by Chris Roberts
マザーグースなどの民間伝承歌は、そのままでは意味をなさなくなってしまったものがほとんですが、その唄が作られた時代背景や歌詞の変遷を解説した本は、『マザーグース・コレクション100』『マザー・グースの誕生』『マザー・グースの唄―イギリスの伝承童謡』など、日本でもたくさん出版されています。で、私も何冊か持っているのですが、アマゾンのオススメに最近発売されたこの "Heavy Words Lightly Thrown" が出てきたので、ちょっとチェックしてみました。
作者はロンドン在住の司書兼ウォーキング・ツアーのガイドのクリス・ロバーツで、これもそんなマザー・グース解説本のひとつなのですが、「もとは大人によって歌われていた」40の有名な唄を集めたところがポイントのようです。それで、現代の子供が無邪気に歌っているのは「当時のゴシップなんだよ~」というオチが売りなんですね。
う~ん、特に目新しい指摘ではありませんね。こちらに作者のインタヴュー入りの記事があるのですが、例にあがっているハンプティ・ダンプティの由来とか、ヤンキー・ドゥードゥルのマカロニとか、ここにもちゃ~んと出てるんですよね。定説でも、ひとつの魅力的なテーマで集めるのであれば、それはそれでいいと思うんですけど。
というわけで、一瞬期待したばかりに大落胆の私でした(表紙はかわいいのにね~)。
Here Be Monsters, by Alan Snow
主人公の少年アーサーは、祖父とともに Ratbridge という町の地下に隠れて暮らす身で、時々食料の調達(こそ泥ともいう)に地上に出てきます。祖父の発明したゼンマイ仕掛けの翼を使っていつもはうまく立ち回るんですが、今回は恐いおばさんの反撃にあって墜落する羽目に。
ちょうどそのころ町では暗闇に紛れてご禁制のチーズ狩りが行われていました。か弱い二本足でヨタヨタ逃げ回るチーズを、獰猛な猟犬の群れが追い掛け回しています。背後には悪徳チーズ男爵のなれの果てであるスナッチャーに率いられたチーズ連盟の面々がいたのでした。
工業化による汚染によりこの町の野生のチーズは毒性を帯び、狩りは禁止され、チーズ連盟の本拠も荒れるにまかされていたんですが、そこを根城にしたスナッチャーは町の乗っ取りを狙って何かを画策しています。運悪く見つかってしまったアーサーは、なんとか逃げ延びますが、ゼンマイ仕掛の翼はスナッチャーの手に握られてしまいます。
運良く引退した法律家に救われたアーサーは、その友達のボックストロルやキャベツ・ヘッドと知り合いになり、翼を取り戻せないものかと頭を捻ります。ボックストロルというのは、引っ込み思案の地下の住人で、空き箱を身にまとい、機械仕掛けには目がないという愛すべき生き物。崇拝するキャベツを頭におし戴くキャベツ・ヘッドは、地上の栽培技術を視察にきた研究者でした。
いっぽう、町とその地下とはいくつものトンネルで結ばれ、自由に行き来できたんですが、スナッチャーはそのトンネルをふさぎ、地下の住民を捕らえてはチーズ連盟の本拠に幽閉しはじめます。さらには、裕福な町の奥様向けのペットとして、ミニチュアのボックストロルやキャベツ・ヘッドが流行の兆しをみせます。そしてとうとう、アーサーの友人たちもスナッチャーの魔の手に落ちてしまうのでした。
法律家や女発明家、そして元海賊船の船員とネズミが共同で始めた洗濯船の助けを借りて、アーサーはスナッチャーの悪巧みに挑みます。他にも賢いカラスやデュゴンの仲間の海牛、ウサギ穴に落ちてウサギに育てられたウサギ女たちなどなど、あんまりプロットに関係ないけどかわいいから許す!モンスターたちが満載です。スナッチャーの究極の秘密兵器も……う~ん、やっぱりかなりお馬鹿でかわいいんでは?
ということでスリル満点の冒険ものというよりは、とってものほほんの楽しい作品です。どのページを開いても、見開きのどこかに最低ひとつは挿絵が入っているという細かな配慮には、作者と編集者の児童書に対する愛情が感じられますね。児童書好きの人でもないとそれほど楽しめる本ではないかもしれませんが、わたしにとっては当たりでした。続編も出たら買ってしまうぞ^^)
アニメーションがかわいいオフィシャル・サイトはこちら。
Sunday, September 11, 2005
Captain Alatriste, by Arturo Pérez-Reverte
『呪のデュマ倶楽部』(『ナインスゲート』)でおなじみのアルトゥーロ・ペレス・レベルテの剣戟もの《アラトリステ隊長》のシリーズがついに英語でお目見えということで、かなり期待して読んだんですが、なにやらちょっと薄味の感じですね。お手軽なペーパーバックのアクション・アドベンチャーのシリーズのよう……というと語弊がありますが、どうも新聞か雑誌の連載ものを読んでいるような印象でした。
舞台は1620年代のマドリード。オランダとの激戦から辛くも生きて還ったディエゴ・アラトリステは、職にあぶれた剣士仲間と居酒屋にたむろする境遇だった。雇われ剣士として決闘の代役で日銭を稼ぐ身ながら、筋の通らぬことは肯じないもの静かな人情肌で、必要とあらば死をも厭わぬ誇り高き性格。
その彼が昔の知り合いの口利きで請け負った仕事は、マドリードにやってきた二人のイギリス人を追い剥ぎすること。少々手荒く扱ってもいいが、「殺し」はないという約束だった。だが、依頼主の手下とともに現場に向かったアラトリステは、話が大きく違うことに気付き、勇敢に立ち向かうお忍びのイギリス貴族を、逆に暗殺者の兇刃から救うことになる。
『三銃士』や『紅はこべ』、はたまた『ニ都物語』の世界ですね(時代はかなり違うのかもしれませんが、世界史音痴のわたしにはほとんど一緒^^;)。ということで、アラトリステは教皇庁が画策するスペインとイギリスの戦争を巡る陰謀に巻き込まれてしまいます。異端審問官と、その刺客の無気味に笑うイタリア人を敵に回して、はてさて、アラトリステの運命やいやに。いやまあ、シリーズは5冊あるそうなので、もちろん無事に切り抜けますけど。
物語の語り手はアラトリステの従者となったかつての戦友の息子ということで、なんとなくシャーロック・ホームズを語るワトスンのような二人三脚の雰囲気も感じられます。12~3才の少年という設定なので、時により大袈裟な描写や感情的な表現が混じり、ほどほどにユーモラスなんですが、スティーヴンスンの少年ものあたりを意識しているんでしょうか、速い展開の物語にうまくマッチしてますね。
ということで、手堅くまとまった大時代的な正統派の剣戟もので、ところどころに挟み込まれる当時の日常の光景も時代色を感じさせて決して悪くはないんですけど、なんせ短すぎます。2~3時間で読み終わってしまうような、小判のハードカバーにすきすきに印刷した 250ページ程度の作品なので、濃厚な陰謀ものには到底なりえないんですが、アクション主導でささっと最後まで一本調子で流れてしまった感じです。とはいえ、こういう作品は単発ではなくシリーズで楽しむものかもしれませんので、まあ続巻に期待しましょう。
イギリス版とアメリカ版がほぼ同時に発売されましたんで、レベルテの他の作品はアメリカ版のハードカバーで揃えてるんですけど(というか、イギリス版はおいそれと手が出ない値段になっている)、この作品は渋いカバーのイギリス版を買いました。ほんまもんの布で装丁してあるという最近では珍しい丁寧な作りなので、やっぱりこのシリーズは安っぽい表紙のアメリカ版よりイギリス版がお薦めです。
Saturday, September 10, 2005
"Edge of the Orison - In the Traces of John Clare's 'Journey Out Of Essex'" by Iain Sinclair
イアン・シンクレアの新作は、19世紀の英国の詩人ジョン・クレアを扱ったものです。
彼は貧しい小作農の息子で、教育もほとんど受けられなかったにもかかわらず、独学で詩を書くようになり、24歳のときに詩集を自費出版しています。それがキーツの作品を出していた出版社の目にとまり、3年後にはそこから詩集を出すまでになりました。ところがその後、彼は失恋によって精神に異常をきたすようになり、結局死ぬまでノーサンプトンの精神病院に収容されています。
シンクレアは、そんな彼の生涯をなぞり、クレアの作品の魅力を探っていきます。
田園詩人とも呼ばれるクレアの作品はこちらで少し読めますが、この中の "To Mary" が豪農の娘で初恋の女性メアリ・ジョイスを歌った詩です。
Friday, September 09, 2005
2005 Booker Shortlist
ショートリストが 9/8 に発表されました。受賞作は 10/10 に発表。
The Sea by John Banville
Arthur & George by Julian Barnes
A Long Long Way by Sebastian Barry
Never Let Me Go by Kazuo Ishiguro
The Accidental by Ali Smith
On Beauty by Zadie Smith
Thursday, September 08, 2005
"Two Hearts", by Peter S. Beagle
ということで、『最後のユニコーン』の続編というノヴェラ、読みました。本編のほうは最後に読んだのがン十年も前なので、そちらとの絡みというよりは、独立した作品としての印象なんですが、オーソドックスないい話ですね。
子供を襲っては喰らうグリフォンに手を焼いた村人は、王の助けを乞うが、立ち向かった騎士も軍隊も悉く返り討ちにあうありさま。親友を殺された少女スーズは、為すすべもない大人たちをよそに、王に直訴するために遠く離れた王宮へと向かう。森の中で出会った奇妙な二人連れ、とぼけた魔法使いのシュメンドリックと、女丈夫のモリー・グルーは、昔馴染みの王、リアの元へと同行を申しでる。だが、年老いたリア王は、耄碌して記憶も定かでない様子。ただ、「ユニコーン」という言葉を耳にしたときだけ、その目に意志の煌きが宿るのだった。
老いた王の最後の気高き戦いですね。災いを鎮めるというよりは、リアの最後のために戦いが設定されたという書き方です。同時に、主役の座は少女スーズへと手渡されることとなります。次作の Summerlong がその作品なのかよくわかりませんが、前書きによれば、物語はスーズを主人公とした長編へと引き継がれるのだとか。
九才の少女の語りという設定の文章は、ジュヴナイルを思わせるごくシンプルなものですが、さすが大ベテランの手によるものだけに、きちっとプロットを組み立てながら、情景描写からしなやかなユーモアまで細心の注意が払われ、安心して読める作品になっています。というより、ここまでくるとストーリーなんてどっちでもいいんですよね。引き込まれるような文章を味わってるだけで十分満足です。
決して斬新なところも、驚かせるようなアイデアもないんですが、行間の端々から滲み出すファンタジイらしさが、形だけのファンタジイが溢れる現在、ごく得がたいものになっています。そもそも現在のファンタジイ・ブームはビーグルから始まったわけですから、ほんものの光がここに宿ってて不思議でもなんでもないんですけど。正統派のファンタジイ好きには強くお薦めします。
"The Icarus Girl" by Helen Oyeyemi
『少女イカロス』だなんて、タイトルだけで思わず注文したくなってしまいますが、ギリシャ神話のような、ちょっと悲しい結末が待っているのでしょうか。
主人公は、イギリス人の父とナイジェリア人の母を持つ、英国在住の8歳の女の子。シェイクスピアと俳句が大好きというから、かなり知的ではありますが、学校ではたびたび癇癪をおこすし、いつもひとりぼっちという、ちょっとした問題児です。その彼女が夏休みに祖父母のいるナイジェリアを訪れ、彼女にしか見えないティリティリという不思議な少女に出会ったことから始まる、アイデンティティと帰属を模索する物語のようです。ナイジェリアのヨルバ族の神話を取り入れているというところが、なんだかおもしろそうなんですよね。
作者自身もナイジェリア生まれで、現在ケンブリッジで学ぶ20歳の大学生。この作品を書いたのは18歳のときだったということで、未熟な部分もいくらかあるようですが、将来がとても期待されています。
表紙の画像はハードカバーですが、同じ表紙のペーパーバックは来年2月発売です。今でているペーパーバックの表紙はあまり好きではありません。
ところで作者の名前の発音は「オイェイェミ」でいいんでしょうか?
Wednesday, September 07, 2005
"Willful Creatures" by Aimee Bender
いえいえ、フォードの "Giant Land" の表紙ではありません。あっちの鳥籠は木の枝でできてるんです。こっちはデビュー作『燃えるスカートの少女』が翻訳されている、エイミー・ベンダーの新しい短編集。15篇のシュールでファンタスティックな物語が詰まっているというから、とっても気になります。
父親の戦時中のトラウマの秘密を解くことのみを望む、鍵の形をした指を持つ少年がいるかと思えば、頭でっかち夫婦の子供はアイロン頭(!)で、そのせいで死んじゃうし……と、かなりヘンテコな話ばかり。でも、変なだけで終わらずに、かなり感情面に訴えてくるようなので、個人的にこれはかなり期待しちゃいますね~。
エイミー・ベンダーのインタヴューはこちらで読めます。
Tuesday, September 06, 2005
Babylon Babies, by Maurice G. Dantec
なにやらアヴァンギャルドそうなフランスSFの英訳本です。サラエヴォ出身の退役兵がロシアからカナダまで護衛を務める娘マリーは、あるアメリカのカルト集団の手で遺伝子操作により作り出された救世主の胎児を宿していた。ニューロマトリックス(笑)とリンクして宇宙と一体化してしまうディックやバロウズの影響がうかがえる話だとか。スティーヴ・エイレットとかジェフ・ヌーンみたいな作風なんでしょうか。いえ、マジにちょっと気になります。
Monday, September 05, 2005
"Le Vol du corbeau" by Jean-Pierre Gibrat
気になるBDがあるんですが、なにぶんフランス語が不自由なもので、買おうかどうしようか迷ってます。
ジャン・ピエール・ジブラ の "Le Vol du corbeau" がそれで、ドイツ占領下のパリの物語です。絵が丁寧で上手いし、オールカラーなので、読めなくても買っちゃいそうな気もします。でも、これって2巻まで出ているのですが、その前のシリーズ "Le Sursis" の続きで、こっちも2巻出ているんですよね。
英語版、待ってればそのうち出るでしょうか。
"Le Sursis" はこちら、"Le Vol du corbeau" はこちらで、中身を少し見ることができます。日本のアマゾンでは扱ってないんですよね。
あと、セリフ無しの "Sursis" がこちらに数ページありました(ちょっと重いです)。やっぱり欲しい……。
"Giant Land", by Jeffrey Ford
フォード新作短編が水曜日(アメリカ時間の9月7日?)までフォードのブログで読めます。それ以降は The Journal of Pulse-Pounding Narratives を買って読みましょう(ProjectPulp はチャップブックや雑誌を買うには送料が安くて速いのでお薦めです)。しかし、2号で廃刊だって^^;
"Giant Land" は、鳥籠に閉じ込められた記憶喪失の女性が、巨人の手を逃れて昔話ふうの世界を彷徨う話ですが、「ジャックと豆の木」やガリヴァーの巨人国の冒険を思わせるような設定に、焦点をずらした様々なエピソードが現われては消え、フォードのジュヴナイルの短編 "The Annals of Eelin-Ok" の大人版のような雰囲気ですね。ストーリーとしてはいまひとつかなという感じがしますが、奇妙なイメージがふんだんに楽しめます。
Sunday, September 04, 2005
Struwwelpeter, by Heinrich Hoffmann
『もじゃもじゃペーター』は一番代表的な絵のものがこことかここで見られるんですけど、他にも色々な版があるんですね。1999年版のこの本の裏表紙にはドクロのマークと、"Warning! This Children's Book Is Not For Children!" という注意書きが大きく書かれてますが、じつは Sarita Vendetta という画家が挿絵を描いたもので、たしかにこれは子供が見たら泣き出してしまうかも。かなりアブナイ、キモチワルイ絵です。
このペーパーバックにはヴェンデッタの版の他に、ホフマンの挿絵によるオリジナル版と(よく見かけるものはホフマンの絵ではないようです)、第2次大戦中にイギリスで出版されたパロディの Struwwelhitler(もじゃもじゃヒトラー)の3つの作品が収められていて、歴史的な背景に関連書の挿絵を添えた丁寧な解説もあり、ヴェンデッタの部分を飛ばして読んでもかなりお得な作りになってます。う~ん、ホフマンの挿絵っていうのが、ヘタクソなんですけどなかなか味があるいい絵なんですよね。
Saturday, September 03, 2005
Charles Fort
ブルー・バリエット『フェルメールの暗号』でも言及されているチャールズ・フォート(1874-1932)は、新聞や科学論文から掘り出した怪現象を集めた「世にも不思議な話」ふうのノンフィクションで有名な作家で、いわばトンデモ本や X-Files の元祖ともいえる人。日本ではまとまった翻訳がないせいかあまり聞かない名前ですが、説明のつかない不可解な出来事を指す "fortean" (フォーティアン)という形容詞がごく普通に使われるように、米英では知ってて当然の有名人です。現在でもフォートのファンは多く、雑誌 Fortean Times や、ウェブジン Fortean Bureau などが見られるほか、フォートにちなんだ怪しい話の創作ノンフィクションもさかんです。
ちなみに、かなりの著作がウェブで公開されているようで、代表作の Lo! もこちらで読めます。
"We shall pick up an existence by its frogs.
Wise men have tried other ways. They have tried to understand our state of being, by grasping at its stars, or its arts, or its economics. But, if there is an underlying oneness of all things, it does not matter where we begin, whether with stars, or laws of supply and demand, or frogs, or Napoleon Bonaparte. One measures a circle, beginning anywhere." - from Lo!
マジック・キングダムで落ちぶれて by コリイ・ドクトロウ
敢えて翻訳本を取り上げさせていただきたい。
ハヤカワ文庫SFから先日出たばかりの本書の中身については、ここでは語りません。
問題は帯です。
大きな写真付きで、「池澤春菜氏推薦!」とあります。
みなさんご存知ですか、池澤春菜? 知らない? そうでしょうとも。
彼女は声優さんです。
私が初めて彼女を知ったのは『忍ペンまん丸』という、いがらしみきお原作のアニメでした。
NHK教育に実写で登場してたのも知ってます。
白状しましょう。短い間でしたが、彼女のラジオ番組を聴いていた時期もあります。
そんなプチ声優おたくである私にとっても、ハヤカワSFの帯に彼女の推薦文が載るというのは意外中の意外でしかありませんでした。
WHY?
彼女が池澤夏樹の娘で、福永武彦の孫だからなのか?
あるいは、早川から萌え市場へのラブコールなのか?
あるいは、谷山浩子以来(?)のSF界公認アイドルとして認定したということなのか?
別に、池澤春菜が帯を書くこと自体に不満はないんですけど、ハヤカワSFの行く末に不安を感じずにはいられない今日この頃なのでした。
"The Three Incestuous Sisters : An Illustrated Novel" by Audrey Niffenegger
『タイムトラベラーズ・ワイフ』のオードリー・ニッフェネガーの新作は、絵を専門とする作者のイラストが主体の、ちょっと怪しげな物語 "The Three Incestuous Sisters" です。
両親を亡くし、孤立した海辺の家で仲良く暮らす三姉妹がいました。一番かわいいのはブロンドの三女、一番器用なのは赤毛の次女、一番頭がいいのは青い髪の長女。そこへ突然ハンサムな青年パリスが現れたから、さあ大変。三女はすぐに彼と恋に落ちて子を身籠もってしまいます。そしてふたりの姉は嫉妬とイジメの鬼に変身!という、何とも凄まじい姉妹愛(?)のお話のようです。
ギリシャ神話のパリスの審判と、シンデレラが混ざったようなカンジでしょうか。安らかに寝入っている彼女らが、どんなになっちゃうんでしょうね~。楽しみ♪(←イジワル)
Friday, September 02, 2005
Noisy Outlaws, Unfriendly Blobs, and Some Other Things That Aren't as Scary, Maybe, Depending on How You Feel About Lost Lands, Stray Cellphones, Creatures from the Sky, Parents Who Disappear in Peru, a Man Named Lars Farf, and One Other Story We Couldn't
Quite Finish, So Maybe You Could Help Us Out
う~ん、タイトルのとおり、couldn't quite finish でした^^;
いえ、遊んでいるわけではなくて、ホントにそういうタイトルのアンソロジイなんです。
例によってマクスウィーニイの出してる本なんですが、ニック・ホーンビイやジョン・シェスカ(The Stinky Cheese Man の人ですね)、ニール・ゲイマンなんかが、YA向けに書き下ろした作品集のようです。カバーにはレモニー・スニケットの未完のお話があるそうですが(読者が自分で結末を書く)、これって The Stinky Cheese Man のアイデアじゃないか。いやまあ面白そうだからいいんですけど。
Thursday, September 01, 2005
The History of Love, by Nicole Krauss
『2/3の不在』の邦訳があるニコール・クラウスですが、そちらのデビュー作は読んでないんですけど、この第2作はむちゃくちゃよかったですよ。わたしの今年のベスト本の1冊です。
ドイツ軍の侵攻で家族を失い、幼なじみの恋人を追ってアメリカにやってきたポーランドのユダヤ人。だが、恋人は彼の子供を連れて、既に他の人と結婚していた……というこのあたりの設定はよくある話。
けど、老いて死を間近にした主人公にとって、なにも成し得なかった誰でもない今の自分がなんとももどかしい。名の売れた作家になった実の息子にも、父と名乗るわけにもいかず遠巻きに見守るのみ。唯一の心の支えは、偶然アメリカで再開した幼なじみの親友だけだった。
いっぽう、亡き父の愛読書『愛の本』の登場人物から名前をもらった15歳の少女アルマは、ある人物の依頼により、母がチリで出版された『愛の本』の英訳に取り掛かったことから、作品の登場人物である「アルマ」の行方を追うことにする。
主人公が恋人の気を引こうとしてイディッシュ語で書いた The Book of Love が、いかにして他人の名前でチリで出版される羽目になったのかを追いながら、故郷を後にしたユダヤ人たちのそれぞれの人生を語り、作者、読者、翻訳家という、様々な立場からの「本」というものに対する思い入れを交えて、最後の出会いへと持っていく展開、すごくいいですね。ミステリとはいいませんが、作者が編み込んだ色々なレベルのアイデアが、ピタッと収斂し、静かな情感へと昇華されます。
スタイル的にも、老いた主人公によるお馬鹿な振る舞いのモノローグと、母親の再婚を画策するアルマの日記ふうの思春期をメインに、神の視点で原稿の行く末を追う部分、自分が世界を守る36人の1人だと信じている困った子ちゃんのアルマの弟の日記を挿入して、コミカルな中に悲しみと希望を滑り込ませる手際は見事です。文章がいいので、最初から引き込まれちゃいます。
なんかグレアム・ジョイスの、読んでるだけで幸福という感じと同質の作品でした。The Facts of Life が生の諸相を描いた作品だとすれば、同じように大胆なタイトルの The History of Love も、諸相とまでは行きませんけど、いくつかの愛のタイプをモチーフにしたといえるかも。大げさなタイトルを支えるだけの内容は十分にあります。
本にまつわる人間模様ということでは、サフォンの The Shadow of the Wind のようなところもありますし、Marius Brill の図書館の本が語り手となる Making Love (いやまあ、これはかなりヘンですけど^^;)のお遊びにも通じます。「本」という形式に特別な愛着をおぼえる人には見逃せない作品ですね。超お薦め。
作者はジョナサン・サフラン・フォアの奥さんということなんで、2作積読にしているフォアも読んでみましょうかね。
"The Sisters Grimm: The Fairy-Tale Detectives - Book #1" by Michael Buckley, Peter Ferguson (Illustrator)
最近なにかと話題(?)のグリム兄弟ですが、彼らは民話を収集した学者なんかじゃなくて、妖怪退治のいかさま師でもなくて、実は御伽の国の不思議な事件を扱う探偵だったんです!
彼らの直系の子孫のサブリーナとダフニーの姉妹は、両親を亡くしてミステリアスなおばあちゃんに引き取られます。ところがその町では摩訶不思議な事件が頻発していました。そこでグリム兄弟の血を引く姉妹の登場です。ふたりが事件の謎解きに挑戦します。
"The Sisters Grimm: The Fairy-Tale Detectives - Book #1" は、『ジャックと豆の木』を題材にした物語のようですが、10月には "The Sisters Grimm: The Unusual Suspects - Book #2" が出ます。こっちは表紙を見ても、元ネタが分りません~。このシリーズ、Nancy Drew meets Shrek とか書いてありますが、とにかくお馬鹿なスラップスティックが楽しめそうです。
著者インタヴューでは、とりあえずは3巻、でもまだまだアイディアがいっぱいあるので、8~9巻ぐらい楽勝で書けちゃうぞ~と言っていますね。スタンダップ・コメディアン出身というのが、なんとも期待させます。
イラストもなかなかですが、このピーター・ファーガソンって人、自己紹介とか見るとかなりひねくれ者っぽくて、これまたいいですね~。





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