"Towing Jehovah" by James Morrow
世界幻想文学大賞受賞作、怒りの(?)未訳本の話題に便乗して、ジェイムズ・モロウの Towing Jehovah を簡単にご紹介しましょう。
これって、1995年に世界幻想文学大賞を受賞したのに、ぜんぜん翻訳が出る気配がないんですよね~。なぜでしょう? 人口に占めるクリスチャンの割合が1%未満の日本で、ローマ・カトリックを痛烈に批判したこの作品が正しく理解されるか疑問符はつきますが、それでもすごくいい作品なので是非とも翻訳を出して欲しいです。
ニーチェの「神は死んだ」は概念的なものでしたが、実際に全長2マイルもある神様の死体が海にぽっかり浮いているのがこの作品。死因は不明ですが、そんなこと究明する時間的余裕はありません。神の不在を世間に知られては大変なことになるし、第一このままでは腐敗が進んで海洋汚染につながる懸念が。そこで(ぜんぜん天使っぽくない)大天使ラファエルが主人公ヴァン・ホーンのもとを訪れ、神の亡骸を秘密裏に北極の墓所までタンカーで牽引する仕事を依頼します。過去にタンカーのオイル漏れ事故を起し、それを悩み続ける元船長は、迷ったあげくそれを引き受けることにします。
こうして再び海に乗り出し、無事責務を果たすというのがメインプロットなのですが、その間のドタバタ劇に、シニカルな合理主義者モロウの本領が発揮されています。道徳的規範の拠り所の「神」を失ったと知って右往左往する船員たちに対し、同船した教会関係者たちの意外に冷静な態度などがいい例ですね。また、航行自体も順調にはいかず、遭難しているところを救助されたダーウィニストの女性、第2次世界大戦ごっこの同好会、途中で方針を変えたヴァティカンなどの邪魔が入って、結構トンデモなスラップスティックになっています。主題の重さとは裏腹に気軽に楽しめる本です。
「神を殺すなんて不道徳な」と憤慨する人もいるでしょうが、モロウが殺したのは、ローマ教会が長い歴史の中、虚飾で飾り立てて巨大化させた張りぼての神様(または教会組織)の象徴なんですよね。最後に子供に「神様っているの?」って聞かれたときの父親の反応に、モロウの宗教観がよく現れていると思います。航海日誌という物語形式にして、ちょっとしたエクスキューズとしているところは賢いですね~。作者が望んでいるのは教会との対立ではないんです。
ほかに「贖罪」や「父と子の対立と和解」というテーマも盛り込まれていて、内容的にはけっこう深いのですが、ほんとうに楽しく読めるんです(人によっては、悪のりしすぎとか、グロテスクと感じる部分があると思いますが)。モロウの他の作品にも言えますが、最後がすごく暖かい雰囲気で終わるところも気に入っています。
もし翻訳を出すとしたら、タイトルはそのまま『神の曳航』でしょうか。「栄光」を失った神を、引きずり回しちゃうということで、ぴったりかと。
| Permalink
|

Comments
う、Lilith さんが危険な状態に^^; もっとやっちゃってください(笑)
現代版ガリバー旅行記のノリですね。わたしは Only Begotten Daughter のほうが好きなんですけど。あの作品はほんとうに翻訳されて欲しいです。あれでお客を集めてこの3部作に引きずり込むのが正解かと。
Posted by: a nanny mouse | Friday, August 05, 2005 at 01:12
私も "Only Begotten Daughter" 大好きですが、内容的には絶対こっちの方が上の気がします。入りやすいのはやっぱり Daughter のほうでしょうね~。その内、第2弾、行きます(かえって逆効果だったりして)。
Posted by: Lilith | Friday, August 05, 2005 at 22:06