The New Policeman, by Kate Thompson
児童書とはいえ、アイルランドを舞台にしてこのタイトルでは、quark さんの目を引きそうですが、やっぱり内容的には関係なさそうです^^) までも、もちろんフラン・オブライエンの『第三の警官』を意識したタイトルでしょうけど。ちょっとズレた現実感の希薄な描写と、メランコリックな雰囲気は、通じるところがあるといえばそうかもしれませんね。作者のケイト・トムスンはヨークシャー出身ということですが、ゴールウェイ在住で、アイルランドで作家活動をしているようです。
さて、肝心の、突然ぽっと現われた新任警官ですが、パブに入り浸ってはフィドルをかき鳴らしているだけで、う~む、最後までそれだけというのはかなり大胆な設定かも。までも、主人公は15才のフィドルの名手の少年なので、メインのストーリーのほうはちゃんと進みます。
神父を殺したのではないかと噂される、笛作りの名手を祖父に持つ主人公は、最近、毎日時間がないと嘆いばかりいる母親の誕生日に、時間を送ろうと決心します。詮索好きな隣人にそそのかされた少年は、町の片隅に残る塚の地下室から、最近ではほとんど人の行き来のないティル・ナ・ノグへと足を踏み入れる羽目に。ところが、永遠の若さを保証する、時が止まった世界であるはずの妖精郷では、わずかながらとはいえ、時間が流れているのでした。
そう、この世界からティル・ナ・ノグに時間が流出していたんですね。ということで、時間の漏れ出している裂け目を探す少年は、ティル・ナ・ノグで出会った奇妙な面々と、祖父の代から続く因縁に立ち向かうことになります。ふ~む、ミヒャエル・エンデの『モモ』みたいな話ですね。いやでも、緊迫感とはほど遠い、この力の抜けたのんびりした展開は、なかなか得難いかも。ごく短い章立てで、各章の末尾には、内容に関連したアイルランドのトラッド・ミュージックの楽譜が添えられているんですが、楽譜の読めないわたしとしては、CDの付録が欲しかったですね(笑)
で、新任の警官はどうしたかというと……あれ? どうしちゃったんだろう? な~んにもしないで消えちゃいましたね。やっぱりフラン・オブライエンの世界かも。
P.S. quark さん作成の作中の曲 The New Policeman の midi ファイルをどうぞ^^)
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Comments
amazon.uk のシノプシス見ると、最後の最後に謎の警官の正体が明かされるとか書いてあって興味を引くのですが、あれ? 消えちゃうだけなんですか~?
Posted by: Lilith | Monday, August 01, 2005 21:06
う~ん、まあ、近似値的な表現ですけど。
でもなんにもしないのは本当です。かなり大胆な書き方ですね。
Posted by: a nanny mouse | Monday, August 01, 2005 23:55
quark さん作成の midi ファイルをアップロードしてリンク入れました。
Posted by: a nanny mouse | Tuesday, August 30, 2005 00:02
実際は、この倍速で演奏することがわかりました。詳しくは、閑古鳥掲示板Pocket Universeにて。
多分、この本に載ってる曲の半分以上は、ネット上で公開されてて、聴けるんじゃないかと思います。
Posted by: quark | Wednesday, August 31, 2005 22:30
あ、ぜんぜん違う曲じゃないですか^^) わたしも遊んでみます。
Posted by: a nanny mouse | Thursday, September 01, 2005 00:02
読みました。すごいよかったです。
「児童書読むなんて、ハリー・ポッター以来だなあ」、なんて思ってたんですけど、この本は全然子供向けって感じじゃありませんね。いや違うな、子供騙しな部分が全然ないんですね。お子様にYAにも読ませたい、大人も楽しめる小説だと思います。
a nanny mouseさんはトリッキーな作品っぽく紹介されてますけど(確かに雰囲気はそうなんですけど)、いやいやどうして、伏線をきっちり張って、ひとつひとつ丁寧に回収していく、手堅いプロットの作品。
肝心のNew Policeman の正体はというと……う~ん、大体の正体はかなり最初の方でわかっちゃうんですけど、むしろ別のAの正体がBってほうが問題で……って、ここじゃ書けません!! ま、でもある種の叙述トリックを使ってたりもして、きっちりと騙してくれますよ。
しかしまあ、この小説の最上の部分は演奏シーンでしょう。添付されてるアイリッシュ・トラッド・ミュージックを聴きながら、素晴らしい演奏シーン読んでると、ほんとに幸せな気分になりました。
Posted by: quark | Friday, September 02, 2005 20:11
う、厳しい quark さんのことですから、評価がどうなるか心配してました^^; ううむ、よかったよかった。
たしかに楽譜が盛りだくさん、というより、楽譜集に物語が付いているような作りですので、音楽を聞きながら読むというのが正しい楽しみ方ですね。作者のアイデアの源泉もそこにあるわけですし。
midi とか abc を発掘してくださったおかげでむちゃくちゃ楽しめました。
Posted by: a nanny mouse | Friday, September 02, 2005 21:15
アイリッシュ・トラッド+パブ+妖精+警官(NYの警官はアイルランド系が多い)って、アイルランドの特産物で固めたってカンジですね。表紙もグリーンだ~。音楽と一緒に楽しめるというのもよさそう。曲のタイトルとかも内容に関係しているのでしょうか?
Posted by: Lilith | Friday, September 02, 2005 22:07
章ごとに内容に沿ったタイトルの曲が選ばれてます。選ぶの楽しかったでしょうね。
quark さん、MIDI とか ABC で The New Policeman を何倍にも楽しもうということで、新しいエントリでガイドをまとめませんか^^)
Posted by: a nanny mouse | Saturday, September 03, 2005 21:03
めでたく Guardian children's fiction prize を受賞したようです(詳細はこちら)。いやあ、よかったよかった。
Posted by: quark | Friday, September 30, 2005 19:16
よしっ、これでハイパーリンクはバッチリだ!!
と、思ったらこんなところで振られていたのに、まったく気づいてませんでした。すみません。もう、一月前になっちゃうんですね。
ガイドの方は、う~ん……努力目標ということにさせてください。
Posted by: quark | Friday, September 30, 2005 19:21
お~、めでたいですね。
早速トップページに復活させました。
いやでも、かなりのほほんの作品なんで、あんまり受賞の可能性ないかと思ってたんですが、見事に外れました^^;
Posted by: a nanny mouse | Friday, September 30, 2005 20:08
わ~い、おめでとうございます! とりあえず積んであるので、優先順位を繰り上げて読ませていただきます。
9月3日の投稿は、私もいま始めて気が付きました。よろしくお願いしま~す♪
Posted by: Lilith | Friday, September 30, 2005 20:57
読みました! 最初は、お母さんの誕生日に「時間」をプレゼントしようとした少年が、妖精の国に行っちゃうなんて、ちょっと子供っぽそうと思っていたのですが、アイルランドの民話や音楽をとても上手く、それも全然古くさくなく現代的に使ったお話で、とても楽しめました。友人や家族との関係など、児童書としてのポイントはちゃんとおさえているし、それプラスアイルランドの伝統文化を現代っ子(+大人)に魅力的に伝えているところが◎ですね。米国文化や合理化一辺倒の現代社会のなかで、こういうローカルなものを大切にする精神は貴重だと思います。
ええぇ~っ、もう10月??? と驚いている私の周りでも時間がどっかに漏れてるのかも。10月になっても真夏日で季節感が全然無いせいもありますが。
The White Donkey、The Puka とか、トムスン自身の曲もありましたね~。話に合わせて曲を選んだというよりは、曲のタイトルをあれこれ頭に浮かべながら話を作ったというカンジでしょうか。オーディオブックで出すことになれば当然音楽付?
で、オークションで登場人物の名前に選ばれても、こういう役はイヤかも。
Posted by: Lilith | Sunday, October 02, 2005 19:37
お~、なんかみんなこの作品には納得ですね。ことさら大袈裟にしていない自然体なところが勝因でしょうか。までも、ちゃんとした演奏(できれば生で)聞いてみたいですね。
Posted by: a nanny mouse | Sunday, October 02, 2005 23:25
ひとつだけケチつけさせてもらえば、あちら側で「時間という概念がない」というなら分るのですが、「時間が止まってる」というのは、感覚的によく分りませんでした。たとえば3曲演奏したら、3曲分だけ時間が経過してるわけで、1曲目の自分は3曲目の自分の過去ですよねぇ? 時計も機械的なものなので、こちら側の時間と同期しそうです。ま、チェンジリングのうまい説明にしてたので、許してあげてもいいんですけど。
Posted by: Lilith | Monday, October 03, 2005 21:21
う、そういうややこしいことを考える人が『アインシュタインの夢』とか読んだら、きっと論文書いちゃいますよ。いやまあ、お薦めですけど。
Posted by: a nanny mouse | Monday, October 03, 2005 23:23
あれ? 『アインシュタインの夢』は読んだって、以前ご報告した記憶が……。ああいう、もやもやしてわけ分かんないのは全然ヘーキなんです。
Posted by: Lilith | Tuesday, October 04, 2005 21:49
う、目だけじゃなくて記憶のほうもぼやけてきたかな^^;
Posted by: a nanny mouse | Wednesday, October 05, 2005 23:14
おお~、ウィットブレッドの児童書部門も取りましたね~。おめでと!(ま、当然と言えば当然の結果ですが)
しかし賞の名前にもなってるウィットブレッドPLC(イギリスでホテルとかレストランとかレジャー関係の経営をしている)は、スポンサー降りる意向のようですね。2007年からスポンサーやってくれるとこを探してるらしいです。
Posted by: Lilith | Sunday, January 08, 2006 19:22
ウィットブレッドの大賞はだめだったみたいですけど、この記事によれば、受賞したマティスの評伝と僅差の2位だったみたいですね。ううむ、そこまで評価されるとは夢にも思ってませんでした。もう現代の古典といってもいいのかも。引っ込み思案な作者っていうのもなかなか微笑ましいです。
Posted by: a nanny mouse | Wednesday, January 25, 2006 23:43
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『時間のない国で』〈上・下〉
ケイト・トンプソン著/渡辺庸子訳(創元ブックランド)
時間がなくなってる! ガーディアン賞、ウィットブレッド賞受賞作
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といことで、11月発売だそうです。翻訳出るの早いですね~。
まだお読みでない方、オススメですよ~~~。
Posted by: Lilith | Friday, September 15, 2006 21:43
おお~、創元もちゃんとしたSF以外ならいろいろなものがじゃんじゃん出るんですね。
Posted by: a nanny mouse | Friday, September 15, 2006 22:25
邦訳されたものを読みました! おもしろかったぁ。
こんなにも牧歌的なお話だったのですね。あらためてこちらのもりあがりを読んで、midi も聞いてみました。確かに音楽があるとより楽しめるかも。邦題は『時間のない国で』ですが、"The New Policeman"の方が、チャーミングな感じがします。
読んではじめて、コメントの意味がわかったところもあり、物語とこちらと二度楽しめました。オークションで名前という商品もなるほどなぁ。
Posted by: 1day1book | Tuesday, December 19, 2006 15:16
あ、またファンがひとり誕生ですね^^)
戦うファンタジイばかりが増えていくなかで、こののほほんな展開は貴重ですよね。ネットを探すとかなりの曲の midi が見つかりますので、それもまた楽しいですよ。
そういえばケイト・トンプスン、今年も新作が出てましたけど、そちらはあんまり話題にならなかったですね。買ってはあるんですが……。
Posted by: a nanny mouse | Tuesday, December 19, 2006 22:40
アイリッシュ・トラッドの midi ガイドへのリンクがどこにもなかったですね。こちらのポストからこの作品に掲載されているトラッド・ミュージックがいろいろ探せます。
Posted by: a nanny mouse | Thursday, December 21, 2006 23:19