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Thursday, August 25, 2005

The Golden Age, by John C. Wright

The Golden Age黄金時代といえば、タイトルもそのものズバリのこの作品も、ものすごい宇宙船で宇宙に飛び出す話。とはいえ、SF最盛期のころのワクワク感を甦らせながらも、こちらは最先端のスペースオペラです。1巻目が出たときに書いたレヴュウですが、その後みごとな3部作として完結しています。

ここ数年、本格的な新人作家の登場ということではいささか影の薄かったアメリカSF界に、久々に超弩級の新人が現われた。なにしろ、引き合いに出されているのがヴァンスにヴォークト、ゼラズニイ、はたまたコードウェイナー・スミスにジーン・ウルフときては、いやがうえにも期待は高まる。94年からアシモフ誌を中心に数編の短編を発表しているという作者は、厳密にいえば全くの新人というわけではないが、長編はこれが第一作目。VR、AI、ナノテクの向こう側に作者が構築した遠未来の太陽系の姿は、たしかに評判にたがわぬスケールの大きさを見せる。

遥か昔に電子化を遂げた人類は、人類と対等の立場にあるAIとともに、太陽系全体に広がるネットワーク上で不死を実現していた。主な記憶及び演算は、地球の核に据えられたロジック・クリスタルと、太陽から汲み上げた核融合の残滓を使って、地球を起点に網状に築かれたダイソン球により処理されている。

有史以来のさまざまな思想を信奉する個々の意識は、神話や歴史上の人物、あるいは文学作品の登場人物をテンプレートとして自らを形作り、肉体に固執するものから集合意識を形成するものまで、種々の形態が並存していた。人類とAIは重層的に重なり合い、すべてを飲み込むアースマインドを基底とした階層的なプログラムの一部として存在するに過ぎなかったが、規模による序列はなく、だれもが他者の意思を尊重するユートピアが維持されていた。

さて、ここ地球では、新しい千年紀を迎えるにあたり、未来をどう形作るかのコンセンサスを得るための公会議が開かれていた。主催者であるヘリオンの嫡子、ファエトンは、息抜きにハーレクィンの姿に身をやつし、マスカレードの催される庭園へともぐりこむ。だが、そこで囁かれていたのは、身に覚えのないファエトン自身の犯した大逆罪のこと。優秀なエンジニアとして、木星の太陽化に携わり、辺境の海王星の植民にも尽力した彼の経歴には、一点の曇りもないはずだった。

訝しく思い、自らの過去を思い返してみたファエトンは、海王星時代の記憶が、250年分まるまると抜け落ちていることに気づく。どうも犯罪に関わる記憶を封印することと引き換えに、処分を免れたものらしい。空飛ぶペンギンの姿をとり、常にファエトンに付き従う執事AIは、過去を詮索すれば何もかも失うことになると忠告する。だが、どうしても納得できないファエトンは、自分の記憶の封印を切らずに、いかにして真相に迫るかに腐心する。

妻ダフネが自分に対する陰謀に荷担したのではと疑うファエトンは、その記憶を探り、妻の意外な姿を知り悲しみを深める。コピーとして存在する父ヘリオンも、じつは太陽内部での作業中に事故で亡くなっており、その莫大な遺産が宙に浮いたまま、ファエトン自身は無一文であることが明らかになる。そして、ウィルスによる暗殺の企てをしのぎ、ついに自らの記憶というパンドラの箱を開いたファエトンは、全太陽系を前にして被告席に立たされる……。

じつは、この作品は二部作(一説によると三部作)の前半部分にあたり、文字通り主人公のクリフハンギングのシーンで終わっている。従い、現時点で早手回しの評価をするのは適切ではないかもしれない。だが、本格的なスペース・オペラを予感させる続巻を待たずとも、この前半部だけでも、ここ数年における最高の本格SFたる資格を十分に備えている。神話を想起させる大きな物語に、SFとしての大胆なヴィジョン、古代ギリシャやローマ、あるいはヴィクトリア朝を模した大時代的な背景に、煌くようなゴージャスな文章。どこをとっても第一級の手応えなのだ。

このところ、最先端の理論・仮説を駆使して、推進力のある冒険ものに仕立てた、ハードSF的なスペース・オペラが増えている。ヴァーナー・ヴィンジを頂点に、ウィル・マッカーシイやトニー・ダニエルといった中堅どころがアメリカでの代表格だが、いずれもE・E・スミスからスターリングまでの伝統を踏まえ、SFの黄金時代のスケールと煌き、ストレートな面白さを最新の材料で再現しようと試みている。その最前線に踊り出たこの作品の、そのものずばりのタイトルは、作中のメタファーであるギリシャの黄金時代を示すと同時に、21世紀にSFの黄金時代を再構築しようという意欲の表れでもあるだろう。(2002/10/21)

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