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Monday, August 29, 2005

The Girl in the Glass, by Jeffrey Ford

The Girl in the Glassフォードから ARC を送っていただいたので、もっと早く紹介を書かなければいけなかったんですが、どうやら発売されたみたいですね。当初ハードカバーということだったのに、トレード・ペーパーバックになってしまったのは残念ですけど、そのぶんお手ごろな値段になってます^^)

作品の舞台は大恐慌時代のニューヨーク州ロング・アイランド。降霊術師のシェルに拾われたメキシコ移民の孤児ディエゴは、ヒンズーの賢者の扮装をして、ときには器用に女形もこなす役者崩れの大男アントニーとともに、シェルの金持ち相手の降霊術の片棒を担いでいます。

ところが、ある降霊術の席で、シェルがガラス窓に少女を幻視したことから、3人は奇妙な事件に巻き込まれます。数日後の新聞でその姿が誘拐された少女のものであることを知ったシェルは、商売抜きに事件の解決を申し出るのでした。

にわか探偵の3人の前に現われるのは、少女の居場所を探し当てられるという女心霊術師や、クー・クラックス・クランとの関係が取りざたされる学者、不気味なアルビノの巨人といういずれも怪しい面々。物語はディエゴの同郷の少女との初恋も交え、見世物小屋のフリークスを総動員しての、黒幕との対決になだれ込みます。背後には、恐慌による移民の排斥に端を発し、後にナチスにより頂点に達した、優生学の台頭があったのでした。

The Portrait of Mrs. Charbuque でも見られたように、フォードの筆は、時代背景を隅々まで行き亙らせた大きなキャンバスに、時代の仇花のような奇妙な風俗を巧みに描き込みます。同時に、アメリカの秘史ともいえるような移民排斥や優生学の流れにも光を当て、社会的な視点を備えた歴史小説としての側面もゆるがせにしません。

とはいえ、この作品の面白さは、降霊術師という胡散臭い連中が、陰謀に巻き込まれ大捕り物をやってしまうという、パルプ小説的な楽しさにあるんですよね。文学的な高級パルプ小説(<自己矛盾^^;)を書かせたら、いまのフォードの右に出る作家はなかなかいないんじゃないでしょうか。ま、他の作品に比べると少々奥行きは浅いかな~という印象はありますが、個性豊かな登場人物の魅力がそれを補って余りあるといえます。

これまで多かれ少なかれファンタジイと呼べるような作品を書いてきたフォードですが、じつはこの作品では、ファンタジイをほのめかすような描写はあるものの、ベースは現実的なアクション・アドベンチャーに徹しています。まあ、荒唐無稽な陰謀に奇矯な登場人物とくれば、それだけでリアリズムからはかなりはみ出ることにはなるんですが。と同時に、冒頭と末尾に主人公の少年ディエゴの老年の姿を描き、表紙にも登場する蝶のモチーフを象徴的に使いながら、ノスタルジックな回想という枠組みを施し、そこにも心温まる仕掛けを忍ばせた構成は、多分に幻想的な手触りをもたらします。

SF評論の第一人者であるジョン・クルートが、このところ equipoise という用語を使って、現実的な枠組みにもかかわらず幻想的な印象を与える小説のメカニズムを説明しようと試みていますが、たしかにこの作品にも、描写力に秀でた作家だけがなしうる独特の空気が漂っているようです。

とまあ、幻想小説に引っ張るような書き方をしてしまいましたが、形式的にはミステリやB級スリラー、アクション・アドベンチャーに近いんですよね。謎解きの構成は緩いんですけど、癖のあるキャラクタを勢ぞろいさせたアクションものということでは、アンドリュー・ヴァックスのバークの初期のころのイメージに通じるところがあります。さらにいえば、パルプ色を前面に押し出したジョージ・C・チェスブロの荒唐無稽なモンゴのシリーズにより近いんですが、う~ん、こっちはあまり知られてませんね(むちゃくちゃ面白いのに)。このあたりの影響を受けているのかどうか、本人に確認してみるべきかも。

ということで、ファンタジイ好きのみならず、ノリのいいアクション中心の怪しいミステリ好きにもお薦めですよん^^)

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Comments

equipoise は英語ではやっぱりエキポイズですね^^;

Posted by: a nanny mouse | Tuesday, August 30, 2005 21:35

こんにちは、ジェフリー・フォードの未訳もずいぶんとたまったみたいですね。観相官シリーズの残り二冊、The Portrait of Mrs. Charbuque、それから本書ですか。
日本語で読める日が訪れてくれることを願うばかりです。

Posted by: nego10 | Friday, September 02, 2005 20:29

いらっしゃいませ^^)

Charbuque は出る予定のようですけど、他はまだ耳にしないですね。ただ評価の高い短編をたくさん書いてますので、ひょっとしたら短編集のほうが可能性あるかも。

Posted by: a nanny mouse | Friday, September 02, 2005 21:05

読みました。すご~~~~くよかったです。

胡散臭い降霊術を執り行うとはいえ、この3人がとてもまともで魅力的。脇役たちのキャラクタも愛らしくて、これだけでも楽しく読めてしまうのですが、殺人事件が次々と起こってその背景に時代的な闇の部分が係わってくるので、テンポのいいコミカルなストーリー展開とは裏腹に、内容的にはとても深い物語と言えるんじゃないでしょうか。

優生学を根拠とする人種差別というと、ナチス・ドイツの専売特許みたいに思えますが、この小説の舞台になっている1932年(ヒトラーが首相になる前年)のアメリカでも、そのような思想が台頭しつつあったんですね。そんな思想を金銭面で支援した有力者の名前が会話の中に出てくるのですが、最後にさりげなく加わっている "moneymen like Prescott Bush" って、ブッシュ大統領の祖父ですよね。歴史的過去の物語ではあるのですが、優生思想とか、移民排斥というのは、形を変えて生きている現代的なテーマでもあります。

そうは言ってもやはりフォード。いかにも彼らしいのは「蝶」ですよね~。そして最後の終わり方がまたとてもいいんです。これはめちゃくちゃオススメです。

Posted by: Lilith | Sunday, December 11, 2005 21:16

お~、お気に召しましたか^^)

あるミステリの書評家が、今年のベスト5の一冊としてこの作品をあげ、フォードもいたく喜んでましたが、ともかく広く読まれて欲しい作品ですよね。

Posted by: a nanny mouse | Monday, December 12, 2005 20:36

とにかく楽しくて怪しくて、最後にほろっとさせられて、物語の世界の中にすっかり引き込まれてしまいました。一見フォードっぽくなさそうでいて、そこかしこにフォードっぽさが出ているんですよね。すっかりファンです。私の今年のベストかも(と言いつつ、アレをまだ読んでいないばちあたりな私)

Posted by: Lilith | Monday, December 12, 2005 21:57

なんか突然カバーが変わったと思ったら、"Edgar Award Winner" のマークが入ったんですね。せっかくきれいなカバーなので、シールだといいんですけど、やっぱり印刷でしょうか。ま、売れるにこしたことはないですけど。

Posted by: a nanny mouse | Saturday, June 17, 2006 23:53

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