Les Cités Obscures: Les Murailles de Samaris
なにやらグラフィック・ノヴェルみたいな表紙ですが、え~、グラフィック・ノヴェルです。ベルギーのSchuiten & Peeters のコンビによる BD(バンド・デシネ)ですね。作画担当のシュイテンと脚本のペータース(オランダ系の名前なんで適当にドイツ語読みしてます^^;)は、1988年に発表された第1作のこの作品以来、現在までほぼ10冊ほど Les Cités Obscures のシリーズを描き続けています。
舞台となるのは、現実の都市を模してはいても、微妙に肌合いの異なる架空の都市の数々。蒸気機関車が走りプロペラ機が飛んでいるどこか懐かしい光景なんですが、20世紀前半のイメージなので、産業革命期を扱ったスチームパンクよりは洗練されてます。改変世界もの、とわざわざいうよりは、ジュール・ヴェルヌあたりから延長してきた「懐かしい未来」という形容がぴったりきそうですね。
登場人物があんまり美形じゃなく、風采のあがらない中年男が主人公の場合が多いのが特徴的ですが、大抵の場合ファム・ファタールに導かれ、都市をめぐる陰謀に巻き込まれるという、オーウェルの『1984年』を思わせるお決まりのパターン。とはいえ、このシリーズ、ストーリーなんかどっちでもいいんです。作品の醍醐味は、全編を埋め尽くすありえざる都市の光景と、精緻な建築物の数々にあります。昔の都市計画者や建築家のスケッチブックを眺めている感じですね。
この第1作でも、主人公の住む Xhystos は流麗な曲線によるアール・ヌーヴォーで描かれ、主人公が訪れる砂漠の中の城塞都市 Samaris は、直線中心のルネサンスとギリシャを組み合わせたようなタッチ(まあかなりアール・デコが入ってますが)で対比を見せています。登場人物の服装も建物に合わせてクラシコを基調にしたものですが、この世界の女性の衣服は非常に破れやすいようで、腕をつかんだだけで胸がはだけたり、かなり便利にできてます。色っぽいおねーさんが脈絡もなく突然裸になるのは理解に苦しみますけど、きっとこの世界の風習なんでしょう^^)
都市の秘密を知ってしまった主人公の右往左往は、遥か昔に初期から中期にかけての手塚治虫が描いてたようなプロットで、現在の日本のマンガと比べるとプリミティヴとでもいえそうな出来なんですが、ノスタルジックな背景と組み合わせると、逆に強みになっているようにも思えます。そういえば、『ベルヴィル・ランデブー』も、昔のニューヨークをモデルにした架空の都市ベルヴィルの物語でしたけど、かなりメンタリティは近いですね。それどころか、あの印象的なデフォルメされた船の絵は、ごく似たものが Les Cités Obscures の1冊に出てきますので、直接の影響を受けているのかもしれません。
このシリーズ、英語版も何冊か出ているんですが、絶版になっている場合が多く、なかなか手に入りません。あんまり得意でもないフランス語で(文字を一切使わない会話のみの授業しか受けたことないんですよね)、わからない単語を飛ばして読むと、まあ90%ぐらいわからないことになるんですが(笑)、ストーリーはシンプルですので、眺めて楽しむためだけでも手に入れる価値ありです。
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Comments
ちなみにオフィシャル・サイトはこちらです。
多分この絵を見たら買わずにいられないのでは^^)
Posted by: a nanny mouse | Sunday, August 14, 2005 at 21:41
このシリーズは3冊しか持っていませんが、ほんとうに緻密で美しい建築物を見るだけでも価値ありですよね。それもオールカラー!
"The Invisible Frontier" も、主人公は全然かっこよくなくて、そこに美形でやり手のライバルやら、美女やらが現れてと、もう(漫画の)教科書通りの展開なんですが、熟練技で安心して読ませてくれるんですよね。こっちは、美女のお尻に謎の地図の痣があるという、なんとも笑っちゃう設定でしたが、これもお決まりというかお約束というか、ま、許してあげましょうという気になります。
で、これもおもしろそうですが、フランス語では~~~。
と言いつつ、ベルヴィルは安いオリジナルフランス語版を注文してしまいました(ほとんどセリフがないそうなので)。
Posted by: Lilith | Sunday, August 14, 2005 at 22:53
上に「美形」とか「美女」とか書きましたが、日本人感覚だと決してそうじゃないんですが、描いてる本人はそのつもり……だと思うんです。
Posted by: Lilith | Sunday, August 14, 2005 at 22:57
なんか一部の作品は最初から最後までモノクロでした。やっぱりカラーがないとごちゃごちゃしていまひとつですね。この作品は全編カラーですけど。
そうそう、ベルヴィルはほとんどセリフがなくて、誘拐されちゃうシャンピオン(英語ではチャンピオンですね^^)はまったくしゃべらないし、ベルヴィルの3姉妹も歌を歌う以外はへにゃへにゃしてるだけだし、ケンケン(じゃないってば)は吠えるだけですね。字幕なしでまったく問題ないです。
Posted by: a nanny mouse | Monday, August 15, 2005 at 23:54