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Wednesday, August 31, 2005

Index of August, 2005

  • 08/01 Tainaron, by Leena Krohn by a nanny mouse in reading
  • 08/01 The New Policeman, by Kate Thompson by a nanny mouse in reading
  • 08/01 Gil's All Fright Diner, by A. Lee Martinez by a nanny mouse in reading
  • 08/01 Tim Powers' Compendium by Lilith in buzz
  • 08/01 Strange Itineraries, by Tim Powers by a nanny mouse in one to watch
  • 08/02 Declare, by Tim Powers by a nanny mouse in review
  • 08/02 "Secret Lives" by Jeff VanderMeer by Lilith in one to watch
  • 08/02 Fantasy Magazine by Lilith in buzz
  • 08/03 Les Triplettes de Belleville by a nanny mouse in watch this
  • 08/04 世界幻想文学大賞 by quark in footnote
  • 08/04 "Towing Jehovah" by James Morrow by Lilith in reading
  • 08/05 Galveston, by Sean Stewart by a nanny mouse in review
  • 08/05 I, Coriander, by Sally Gardner by a nanny mouse in one to watch
  • 08/06 Color of Pomegranates/Legend of Suram Fortress/Achik Kerib by Sergei Parajanov by Lilith in watch this
  • 08/06 The Planets, by Dava Sobel by a nanny mouse in one to watch
  • 08/07 Edinburgh International Book Festival by Lilith in buzz
  • 08/07 Specimen Days, by Michael Cunningham by a nanny mouse in reading
  • 08/08 2005 Hugo Awards Winners by a nanny mouse in news
  • 08/09 The Shadow of the Wind, by Carlos Ruiz Zafon by a nanny mouse in one to watch
  • 08/09 "Only Begotten Daughter" by James Morrow by Lilith in reading
  • 08/10 100 Best Scottish Books of all Time by Lilith in buzz
  • 08/11 2005 Booker Longlist by a nanny mouse in news
  • 08/11 eBay Auctions: Your Name in an Upcoming Book by a nanny mouse in see here
  • 08/12 Bookwrap by Lilith in buzz
  • 08/13 The Horrific Sufferings of the Mind-Reading Monster Hercules Barefoot: His Wonderful Love and His Terrible Hatred, by Carl-Johan Vallgren by a nanny mouse in review
  • 08/13 "The Mysterious Flame of Queen Loana" by Umberto Eco by Lilith in reading; theme: sick lit
  • 08/14 2005 ASFA Chesley Awards Winners by Lilith in news
  • 08/14 Les Cites Obscures: Les Murailles de Samaris by a nanny mouse in reading
  • 08/15 "The Girlhood of Shakespeare's Heroines" by John Crowley by Lilith in one to watch
  • 08/15 A Feast for Crows, by George Martin by a nanny mouse in one to watch
  • 08/16 Divided Kingdom, by Rupert Thomson by a nanny mouse in reading
  • 08/16 Bold As Love, by Gwyneth Jones by a nanny mouse in review
  • 08/17 "The Brothers Grimm" directed by Terry Gilliam by Lilith in one to watch
  • 08/17 Who Wrote John Twelve Hawks? by a nanny mouse in buzz
  • 08/18 Graphic Novel: Neil Gaiman's "Neverwhere" Script by Mike Cary, Ill. by Glenn Fabry by Lilith in one to watch
  • 08/19 Zombie and Kelly Link by a nanny mouse in buzz
  • 08/20 The Traveler, by John Twelve Hawks by a nanny mouse in reading
  • 08/20 "ARC (advance reading copy)" by a nanny mouse in footnote
  • 08/20 "The Lambs of London" by Peter Ackroyd by Lilith in reading
  • 08/21 Lempriere's Dictionary - Mystery of Editions Solved! by a nanny mouse in footnote
  • 08/22 Jeff Ford Got a New Blog by a nanny mouse in see here
  • 08/22 The Portrait of Mrs. Charbuque, by Jeffrey Ford by a nanny mouse in review
  • 08/22 "Shakespeare: The Biography" by Peter Ackroyd by Lilith in one to watch
  • 08/23 "The Third Witch" by Rebecca Reisert by Lilith in review
  • 08/23 Ill Met by Moonlight, by Sarah A. Hoyt by a nanny mouse in reading
  • 08/24 Hello Cthulhu by a nanny mouse in see here
  • 08/25 Rocket Science, by Jay Lake by a nanny mouse in one to watch
  • 08/25 "The Chiaroscurist" by Hal Duncan by Lilith in reading
  • 08/25 The Golden Age, by John C. Wright by a nanny mouse in review
  • 08/26 The Power of Google Translation by a nanny mouse in scribble
  • 08/26 "Elizabeth I, The Last Dance" performed by Lindsay Kemp Company by Lilith in buzz
  • 08/27 Clare Dudman, Keeper of the Snails by a nanny mouse in see here
  • 08/28 The Highest Tide, by Jim Lynch by a nanny mouse in one to watch
  • 08/29 Pigtopia, by Kitty Fitzgerald by a nanny mouse in one to watch
  • 08/29 "The Narrows" by Alexander C. Irvine by Lilith in one to watch
  • 08/29 The Girl in the Glass, by Jeffrey Ford by a nanny mouse in reading
  • 08/30 "Two Hearts", a Coda to The Last Unicorn, by Peter S. Beagle by a nanny mouse in one to watch
  • 08/31 "Shalimar The Clown" by Salman Rushdie by Lilith in one to watch
  • 08/31 Here Be Monsters, by Alan Snow by a nanny mouse in one to watch
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    Here Be Monsters, by Alan Snow

    Here Be Monstersう~ん、わたしはこの手のひょっとしたらハズレ?の本に弱いんですよね^^; 児童書のイラストレータの初めてのお話だそうです。

    Ratbridge という町の乗っ取りを狙う悪党スナッチャーに誘拐されてきた少年アーサーが、ボックストロルやキャベツ頭(それなに?ってわたしに聞かないでください)、フラストレーションのたまった女性発明家や町のネズミ、海賊とともに、悪巧みに立ち向かう話だとか。

    センダックやクエンティン・ブレイクとまでは行きませんが、なかなかかわいい絵じゃないでしょうか(なんとなく2人を足して4で割ったみたいな気もしないでもないですが^^;)。表紙みたいな絵がたっぷり詰まっているんならそれだけでもいいでしょう。こっちの本のカバーなんてなかなかの傑作ですし。ひょっとしたら第1巻の相場が 1,000ドルぐらいになってる『崖の国物語』みたいになるかもしれませんしね~。

    P.S. オフィシャル・サイト発見

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    "Shalimar The Clown" by Salman Rushdie

    shalimar_the_clown 宗教間の対立による紛争や事件があとを絶ちませんが、サルマン・ラシュディが4年の歳月をかけて完成させたこの新作も、インドのカシミール地方が舞台です。とは言っても、これはラヴ・ストーリーであって、テロの物語ではないと著者は強調しています。

    カシミール地方は、インド併合から半世紀以上たった現在もインド・パキスタン間で帰属をめぐる紛争が続いていますが、ラシュディの祖父母の生まれ故郷でもあり、特に思い入れが深いとのこと。ヒンズー教徒とイスラム教徒の恋人同士のこの物語は、第2次世界大戦から現代まで、フランス、イギリス、アメリカ、そしてジハードのトレーニング・キャンプへと舞台を移して語られていくそうです。

    ブッカー賞候補にもなっているこの作品の抜粋は、Times Online だけで読むことができます。

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    Tuesday, August 30, 2005

    "Two Hearts", a Coda to The Last Unicorn, by Peter S. Beagle

    『最後のユニコーン』のなんと37年ぶりの続編--といってもコーダにあたるノヴェラだそうですが-- Two Hearts が発表されました。手に入れる方法は2つあります。

    1.Fantasy & Science Fiction, October/November Issue を買う:

    Fictionwise で電子版が購入できます(今日デリヴァーされました)。

    2.Conlan Press で The Last Unicorn のオーディオ版を買って、おまけの 3,000部限定サイン入りハードカバーをもらう:

    なんかヘンな売り方ですけど、要はかなり高いオーディオ版を売りたいんでしょう。3,000部ではほとんど限定版としての価値はありませんが、でもやっぱり *欲しい* ですよね^^) ただし、入手できるのはちょっと先のようです。

    さらにうれしいことに、Conlan Press では、来年2月に新作長編 Summerlong を出すとともに、ビーグルの代表作を揃いの限定版で出すことを予定しているそうです。

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    Monday, August 29, 2005

    The Girl in the Glass, by Jeffrey Ford

    The Girl in the Glassフォードから ARC を送っていただいたので、もっと早く紹介を書かなければいけなかったんですが、どうやら発売されたみたいですね。当初ハードカバーということだったのに、トレード・ペーパーバックになってしまったのは残念ですけど、そのぶんお手ごろな値段になってます^^)

    作品の舞台は大恐慌時代のニューヨーク州ロング・アイランド。降霊術師のシェルに拾われたメキシコ移民の孤児ディエゴは、ヒンズーの賢者の扮装をして、ときには器用に女形もこなす役者崩れの大男アントニーとともに、シェルの金持ち相手の降霊術の片棒を担いでいます。

    ところが、ある降霊術の席で、シェルがガラス窓に少女を幻視したことから、3人は奇妙な事件に巻き込まれます。数日後の新聞でその姿が誘拐された少女のものであることを知ったシェルは、商売抜きに事件の解決を申し出るのでした。

    にわか探偵の3人の前に現われるのは、少女の居場所を探し当てられるという女心霊術師や、クー・クラックス・クランとの関係が取りざたされる学者、不気味なアルビノの巨人といういずれも怪しい面々。物語はディエゴの同郷の少女との初恋も交え、見世物小屋のフリークスを総動員しての、黒幕との対決になだれ込みます。背後には、恐慌による移民の排斥に端を発し、後にナチスにより頂点に達した、優生学の台頭があったのでした。

    The Portrait of Mrs. Charbuque でも見られたように、フォードの筆は、時代背景を隅々まで行き亙らせた大きなキャンバスに、時代の仇花のような奇妙な風俗を巧みに描き込みます。同時に、アメリカの秘史ともいえるような移民排斥や優生学の流れにも光を当て、社会的な視点を備えた歴史小説としての側面もゆるがせにしません。

    とはいえ、この作品の面白さは、降霊術師という胡散臭い連中が、陰謀に巻き込まれ大捕り物をやってしまうという、パルプ小説的な楽しさにあるんですよね。文学的な高級パルプ小説(<自己矛盾^^;)を書かせたら、いまのフォードの右に出る作家はなかなかいないんじゃないでしょうか。ま、他の作品に比べると少々奥行きは浅いかな~という印象はありますが、個性豊かな登場人物の魅力がそれを補って余りあるといえます。

    これまで多かれ少なかれファンタジイと呼べるような作品を書いてきたフォードですが、じつはこの作品では、ファンタジイをほのめかすような描写はあるものの、ベースは現実的なアクション・アドベンチャーに徹しています。まあ、荒唐無稽な陰謀に奇矯な登場人物とくれば、それだけでリアリズムからはかなりはみ出ることにはなるんですが。と同時に、冒頭と末尾に主人公の少年ディエゴの老年の姿を描き、表紙にも登場する蝶のモチーフを象徴的に使いながら、ノスタルジックな回想という枠組みを施し、そこにも心温まる仕掛けを忍ばせた構成は、多分に幻想的な手触りをもたらします。

    SF評論の第一人者であるジョン・クルートが、このところ equipoise という用語を使って、現実的な枠組みにもかかわらず幻想的な印象を与える小説のメカニズムを説明しようと試みていますが、たしかにこの作品にも、描写力に秀でた作家だけがなしうる独特の空気が漂っているようです。

    とまあ、幻想小説に引っ張るような書き方をしてしまいましたが、形式的にはミステリやB級スリラー、アクション・アドベンチャーに近いんですよね。謎解きの構成は緩いんですけど、癖のあるキャラクタを勢ぞろいさせたアクションものということでは、アンドリュー・ヴァックスのバークの初期のころのイメージに通じるところがあります。さらにいえば、パルプ色を前面に押し出したジョージ・C・チェスブロの荒唐無稽なモンゴのシリーズにより近いんですが、う~ん、こっちはあまり知られてませんね(むちゃくちゃ面白いのに)。このあたりの影響を受けているのかどうか、本人に確認してみるべきかも。

    ということで、ファンタジイ好きのみならず、ノリのいいアクション中心の怪しいミステリ好きにもお薦めですよん^^)

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    "The Narrows" by Alexander C. Irvine

    the_narrows 新人が対象のクロフォード賞を、2003年に "A Scattering of Jades" で受賞したアーヴィンの新作が2作品、もうすぐ出版されますね。

    ひとつ目はノヴェラの "The Life of Riley"。自然災害で荒廃する近未来のアメリカで、政府は友好的なエイリアン「ベティー」を招き入れるのだが、彼らは陰でよからぬ企みを画策していた。「ベティー」に立ち向かう主人公ライリーの最後を、3人の視点から書いた物語。

    もうひとつは長篇の "The Narrows"。第二次世界大戦中デトロイトの工場で、ゴーレムを造ってヨーロッパに送り込み、ナチスを壊滅させようという政府の秘密プロジェクトがあった。それをデトロイトの赤い矮人伝説を絡めて描いた作品。

    赤い矮人伝説」というのは実際あるんですね。惨事の前触れのようです。

    1943年に実際にあった人種暴動にも関連してくるみたいです。

    "A Scattering of Jades" は好きだったので、これはふたつとも買っちゃいますね。

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    Pigtopia, by Kitty Fitzgerald

    Pigtopiaううむ、この表紙にこのタイトルでは買わずばなるまい(笑)

    母親に虐待された醜い少年がブタ小屋で暮らす話ということなんですが、アイリッシュ訛りの少年の語りが印象的なんだとか。ひょっとしたら当たりかも。

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    Sunday, August 28, 2005

    The Highest Tide, by Jim Lynch

    The Highest Tide レイチェル・カーソンを崇拝する13才の少年の磯での一夏を、ナチュラリストの視点で描いた作品だそうです。巨大なイカを発見して一躍注目を浴びた少年と、彼を取り巻く人々とのやり取りを、大潮の到来に絡めて語ったもののようですね。なにやら期待できそう。青を基調にしたシンプルな表紙も好きですね。

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    Saturday, August 27, 2005

    Clare Dudman, Keeper of the Snails

    98 Reasons for Beingクレア・ダドマンブログを始めてます。

    大陸移動説のウェーゲナーの生涯を描いた Wegener's Jigsaw (アメリカ版は One Day the Ice Will Reveal All Its Dead というもっと素晴らしいタイトルですけど)と、『もじゃもじゃペーター』の作者ハインリッヒ・ホフマン(じつは精神病院の普及に努めた立派な精神科医)を主人公にした 98 Reasons for Being というむちゃくちゃ素晴らしい小説の作者です。どちらも文学賞の候補に顔を出しておかしくない作品なんですが(というか、選ばれないのがおかしい)、まだまだあんまり知られてないですね。

    ブログでは読んでいる本の紹介とともに、カタツムリやナメクジに関するエッセイともお話ともつかないとぼけた文章が楽しめます。というか、この人の場合、描写力のある文章がなぜか自然と詩的な情緒を帯びてくるので、もうそれだけでたまらないんですよね。

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    Friday, August 26, 2005

    "Elizabeth I, The Last Dance" performed by Lindsay Kemp Company

    「夏の夜の夢」で、むかし見たリンゼイ・ケンプの舞台を思い出して、ちょっと検索してみたら……おおお、まだ健在でした。エリザベス1世に扮して、イタリアとスペインで公演してました。

    というわけで、スペイン語サイトがほとんどなので、写真をみて雰囲気を楽しみましょう。

    衣装をつけているところ(見たくなかった)

    エリザベス1世というより、2世に似ているような……

    ポスター。以前のメンバーの名もありますね。

    うう、カツラが取れそう!?

    ちょっと古い記事ですが「リンゼイ・ケンプって誰?」という方に

    怪しさがなくなって、随分まともになってしまったように見えるのがちょっと残念。

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    The Power of Google Translation

    なにやらうちのサイトがエリザベス・ベアジェイ・レイクにうけてます。

    こら~、google translation で遊ぶな~ スシなんてどこにも書いてないって^^;

    そりゃまあ日本人は形容詞と名詞の選び方が独特なので(ふつう使われない組み合わせを知らずにやってしまうらしい)、よくシュールな英文を書くといわれますが、今回のは google のでっち上げだぞ。「しまいますね」がなんで "stripe now the shank" になるんだ(<わたしでもこんなむちゃな直訳はしないぞ)^^;

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    Thursday, August 25, 2005

    The Golden Age, by John C. Wright

    The Golden Age黄金時代といえば、タイトルもそのものズバリのこの作品も、ものすごい宇宙船で宇宙に飛び出す話。とはいえ、SF最盛期のころのワクワク感を甦らせながらも、こちらは最先端のスペースオペラです。1巻目が出たときに書いたレヴュウですが、その後みごとな3部作として完結しています。

    ここ数年、本格的な新人作家の登場ということではいささか影の薄かったアメリカSF界に、久々に超弩級の新人が現われた。なにしろ、引き合いに出されているのがヴァンスにヴォークト、ゼラズニイ、はたまたコードウェイナー・スミスにジーン・ウルフときては、いやがうえにも期待は高まる。94年からアシモフ誌を中心に数編の短編を発表しているという作者は、厳密にいえば全くの新人というわけではないが、長編はこれが第一作目。VR、AI、ナノテクの向こう側に作者が構築した遠未来の太陽系の姿は、たしかに評判にたがわぬスケールの大きさを見せる。

    遥か昔に電子化を遂げた人類は、人類と対等の立場にあるAIとともに、太陽系全体に広がるネットワーク上で不死を実現していた。主な記憶及び演算は、地球の核に据えられたロジック・クリスタルと、太陽から汲み上げた核融合の残滓を使って、地球を起点に網状に築かれたダイソン球により処理されている。

    有史以来のさまざまな思想を信奉する個々の意識は、神話や歴史上の人物、あるいは文学作品の登場人物をテンプレートとして自らを形作り、肉体に固執するものから集合意識を形成するものまで、種々の形態が並存していた。人類とAIは重層的に重なり合い、すべてを飲み込むアースマインドを基底とした階層的なプログラムの一部として存在するに過ぎなかったが、規模による序列はなく、だれもが他者の意思を尊重するユートピアが維持されていた。

    さて、ここ地球では、新しい千年紀を迎えるにあたり、未来をどう形作るかのコンセンサスを得るための公会議が開かれていた。主催者であるヘリオンの嫡子、ファエトンは、息抜きにハーレクィンの姿に身をやつし、マスカレードの催される庭園へともぐりこむ。だが、そこで囁かれていたのは、身に覚えのないファエトン自身の犯した大逆罪のこと。優秀なエンジニアとして、木星の太陽化に携わり、辺境の海王星の植民にも尽力した彼の経歴には、一点の曇りもないはずだった。

    訝しく思い、自らの過去を思い返してみたファエトンは、海王星時代の記憶が、250年分まるまると抜け落ちていることに気づく。どうも犯罪に関わる記憶を封印することと引き換えに、処分を免れたものらしい。空飛ぶペンギンの姿をとり、常にファエトンに付き従う執事AIは、過去を詮索すれば何もかも失うことになると忠告する。だが、どうしても納得できないファエトンは、自分の記憶の封印を切らずに、いかにして真相に迫るかに腐心する。

    妻ダフネが自分に対する陰謀に荷担したのではと疑うファエトンは、その記憶を探り、妻の意外な姿を知り悲しみを深める。コピーとして存在する父ヘリオンも、じつは太陽内部での作業中に事故で亡くなっており、その莫大な遺産が宙に浮いたまま、ファエトン自身は無一文であることが明らかになる。そして、ウィルスによる暗殺の企てをしのぎ、ついに自らの記憶というパンドラの箱を開いたファエトンは、全太陽系を前にして被告席に立たされる……。

    じつは、この作品は二部作(一説によると三部作)の前半部分にあたり、文字通り主人公のクリフハンギングのシーンで終わっている。従い、現時点で早手回しの評価をするのは適切ではないかもしれない。だが、本格的なスペース・オペラを予感させる続巻を待たずとも、この前半部だけでも、ここ数年における最高の本格SFたる資格を十分に備えている。神話を想起させる大きな物語に、SFとしての大胆なヴィジョン、古代ギリシャやローマ、あるいはヴィクトリア朝を模した大時代的な背景に、煌くようなゴージャスな文章。どこをとっても第一級の手応えなのだ。

    このところ、最先端の理論・仮説を駆使して、推進力のある冒険ものに仕立てた、ハードSF的なスペース・オペラが増えている。ヴァーナー・ヴィンジを頂点に、ウィル・マッカーシイやトニー・ダニエルといった中堅どころがアメリカでの代表格だが、いずれもE・E・スミスからスターリングまでの伝統を踏まえ、SFの黄金時代のスケールと煌き、ストレートな面白さを最新の材料で再現しようと試みている。その最前線に踊り出たこの作品の、そのものずばりのタイトルは、作中のメタファーであるギリシャの黄金時代を示すと同時に、21世紀にSFの黄金時代を再構築しようという意欲の表れでもあるだろう。(2002/10/21)

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    "The Chiaroscurist" by Hal Duncan

    デビュー作 "Vellum" が話題のグラスゴー出身の作家アル・ダンカンの短篇 "The Chiaroscurist" が Electric Velocipede のサイトで読めます。

    教会の聖所の壁画を依頼されたキアロスクーロの画家が、それを完成させるまでの物語なのですが、居酒屋で神に似た雰囲気の老人に出会ったところから始まり、The First Day of Creation、The Measuring、The Separation of Light and Dark...と、天地創造から取った各場面のタイトルにそって物語が進んで行きます。そして最後は……ううう、この結末もいいですね~。

    キアロスクーロだけあって、作品中の明暗のコントラストがとてもいいです。この作品、とても気に入りました。

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    Rocket Science, by Jay Lake

    Rocket Scienceコリイ・ドクトロウもそうですけど、このところ気になる若手の短編の名手によるレトロなSFがなんとなく目につきますね(ほんというと若手なのかどうかよく知らないんですが、ともかくここ4~5年でよく目にするようになった作家たち)。リック・ボウズのタイム・パトロールものの From the Files of the Time Rangers や、ティム・プラットのメタフィクショナルなウェスタンだという The Strange Adventures of Rangergirl も気になるんですが、50年代のSF黄金時代の香りがぷんぷんするというジェイ・レイクのこの作品は、表紙を見てしまうとちょっと買わずにはいられないですね^^)

    ドイツ戦線から親友が持ち帰った機械は、じつはナチスが北極の氷から掘り出した宇宙船だったのです。ボーイングの技術者である主人公は、興味をかき立てられて調べ始めますが、この宇宙船に目をつけていたのは主人公だけではありませんでした。かくしてナチの残党やロシアのスパイ、シカゴのマフィアやアメリカの軍部に追われる羽目になった主人公は、ゴスペルを口ずさみ、人と話をする宇宙船に乗り込み逃げ回ることになります。

    ううむ、裏庭の宇宙船ものですね。まさかキノコの惑星へ行っちゃったりなんかしないでしょうけど、むちゃくちゃ面白そう。「絶頂期のクリフォード・シマックが生き返ってまた書いていることの次ぐらいに素晴らしい」(ポール・ディ・フィリポ)なんていわれると、わたしはよだれが垂れてしまいますね。あ、9月1日発売だったらもうすぐじゃないか。

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    Wednesday, August 24, 2005

    Hello Cthulhu

    ながらく休みに入ってたんですが、6月ぐらいから週刊で再開したみたいです^^) う、うれしい……。

    ごぞんじない方はこの最初のエピソードから行きましょうね。

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    Tuesday, August 23, 2005

    Ill Met by Moonlight, by Sarah A. Hoyt

    Ill Met by Moonlightシェイクスピアが続いたんで、かなり前に読んだ本なんですが、なんとも珍しいシェイクスピアその人が主人公のファンタジイを思い出してしまいました。そうはいっても設定が期待させるほど意欲的な作品ではないんですが……。

    ここでのウィル・シェイクスピアは、まだうだつの上がらない結婚したての学校の教師。ところが、妻と生まれたばかりの娘が、妖精王シルヴァヌスの虜になってしまったため、無力ながらも「夏の夜の夢」世界でジタバタする羽目に。この世界では縦横無尽、じゃない傍若無人に振舞う妖精のほうが、人間よりもはるかに力を持ってるんですよね。

    そこに現われたる黒ずくめの美女、じつはなにを隠そう、シルヴァヌスに王位を簒奪された、正統のオーベロンの後継ぎクイックシルヴァー(笑)の仮の姿なんですが、彼(女)は、シェイクスピアを操って王位奪還の画策を始めます。かくして妖精界の権力争いに巻き込まれた頼りないウィルの運命やいかに。シルヴァヌスに目移りした妻と子を無事に取り戻すことができるのでしょうか……。

    ううむ、設定は面白いし、気紛れな妖精の世界が妖しく描かれていれば、かなりいい作品になったんじゃないかという気はするんですが、どうもねえ、それっぽい登場人物を揃えた割りには、あんまりキャラが立ってないんですよね。まあまあの作品で終わっちゃいました。たぶんシェイクスピアの位置付けが、主役を張れるほどしっかりしてないのが原因のような。

    この作品、作者のデビュー長編で、All Night AwakeAny Man So Daring という続編が出て3部作が完結しているようです。続編ではキット・マーロウなんかも出てきて、シェイクスピアが劇作家への道を踏み出すあたりも描かれているようですが、デビュー作ほどには話題にならなかったようなので、あんまり期待できないのかも。

    までも、このカバーにつられて手を出す人もいそうな気がしますけど^^)

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    "The Third Witch" by Rebecca Reisert

    the_third_witch 『マクベス』の話題がでたので思い出しました。"The Third Witch" です。

     ときは11世紀、場所は乱世のスコットランド。当時は魔女狩りが盛んに行われていたという。そんな時代に生を受けた少女ジリーは、復讐のため少年の姿で城の料理場に潜り込む。憎き敵は領主マクベス。しかし、あと一歩というところで接近のチャンスを逃してしまう。彼女はいったん森の小屋に戻り、育ての親とも言えるネトルと老女ヘルガに加勢を求める。彼女らは、庭の薬草を煮出して作った煎じ薬と食物を交換しながら、森の中でひっそりと暮らしていた。

     3人が荒れ野で待ち伏せをしていると、反乱軍を破ったマクベスと僚友バンクォーが通りかかる。「マクベス様。王になられるお方」

     ここで物語は、シェイクスピアの『マクベス』一幕目と重なる。だが、マクベスを破滅に導く予言の主は3人の魔女ではなかったか? ではこの3人は魔女なのか? 復讐に燃えるジリーの過去にあったものは? そんな疑問を抱きながら、読者は『マクベス』の舞台の中で仇を討とうと悪戦苦闘するジリーを、はらはらどきどきしながら見守ることだろう。素直で一途な彼女を、応援せずにはいられない。

     本書では『マクベス』の登場人物が、さらなるエピソードで肉付けされ生き生きと描かれているので、原典を知らなくても十分楽しめる。予備知識があれば、あの場面、あのセリフがどう再現されているかに着目してもおもしろい。練りに練られたこの古典劇の翻案は、著者の脚本家としての経験を十二分に活かしたものだろう。(2003.01.11)

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    Monday, August 22, 2005

    "Shakespeare: The Biography" by Peter Ackroyd

    shakespeare T・S・エリオット、チャールズ・ディケンズ、ウィリアム・ブレイク、トーマス・モアと続いた、ピーター・アクロイドの伝記シリーズですが、新作はとうとう超大物! シェイクスピアの登場です。

    シノプシスを読むと「シェイクスピアは実は隠れカトリックだった」とか、「『マクベス』の魔女は実は老婆ではなく妖精で、少年によって演じられていた」などのトリヴィア・ネタも満載で楽しそうですが、まだまだ謎の多いシェイクスピアなので、そんなところが小説とは違って自由のきかない伝記でどう処理されているかも興味深いですね。

    偉大な作家の伝記に取り組む心境を、アクロイドが Times のインタヴューで語っています。

    それにしても9月発売の UK 版は高いですね。10月に出る US 版は千円以上安いです。でも、ページ数が80ページも違うんですけど~。ま、まさか……。

    ペーパーバックは1年待ちです。

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    The Portrait of Mrs. Charbuque, by Jeffrey Ford

    The Portrait of Mrs. Charbuqueかなり使いまわしのレヴュウですが、好きな作品なんでご容赦を^^;

    1998年度の世界幻想文学大賞受賞作 The Physiognomy (『白い果実』)に始まる「人相学」3部作では、顔つきや体形という肉体的属性が性格や思考、運命を決定するという、大時代的な似非科学が支配する中世ヨーロッパ風の異世界を背景に、殺生与奪の権限を持った「人相学者」の自己覚醒の旅をシュールに描いたフォードだが、シリーズを離れた今回の作品では、奇妙に対照的な状況を作り上げている。つい立の陰に隠れて決して姿を見せない女性の肖像画を、彼女の語る身の上話を頼りに描こうというのだ。

    好況に沸く19世紀末のニューヨーク、小市民たちの間では肖像画が流行を見せていた。一時は真摯に芸術家を目指したこともあるピアンボも、今ではそんな依頼を右から左へとこなしマスターと呼ばれるご身分である。だが、体裁だけの空虚な美への嫌悪感は日増しにつのる。とある依頼主の豪邸での肖像画完成披露の席上で、宴客の賞賛をよそに、モデルとなった夫人から侮蔑の言葉を耳打ちされたピアンボは、内心を見透かされた狼狽を隠せない。

    いたたまれず雑踏へと迷い出たピアンボに、両目が白く濁り、見るからに盲目と思われる男が声をかけた。「自己満足の臭い、肉豆と黴の芬々たる香気」からピアンボを嗅ぎ当てたと嘯く男は、シャルビュック夫人の使いと称し、法外な報酬を口にして、肖像画の製作を依頼する。ただし、夫人の姿を一目も見ずに、会話のみから姿かたちを推測し描くという、奇妙な条件付の申し出だった。胡散臭い話に一度は拒絶したものの、首尾よく肖像画を完成させれば、数年間は自分の描きたい絵に専念できるだけの金額が手に入る。挑戦意欲を掻き立てられたピアンボは、不可能とも思える課題に取り組むこととなる。

    だが、つい立を挟んで夫人が語りだした身の上話は、とても真実とは思えない荒唐無稽なものだった。雪の結晶を読んで未来を占うことで生計を立てていた夫人の父は、あるとき、全く同じ形をした一対の雪の結晶を発見する。首尾よく松脂に封じ込められた結晶は、幼い少女だった夫人にお守りとして与えられた。双子の結晶は少女の手の中で未来を語り始め、少女は、つい立の陰から託宣を告げる霊媒としての一歩を踏み出す。以来、彼女が人前に姿をさらすことはなくなったという。

    阿片に身を持ち崩し無為の日々を送る画家シェンツは、友人の苦境をみかねて、夫人の過去を探ることを持ちかける。夫人の父のかつての同僚を精神病院に訪ねた二人は、糞便占い師と称する老人から、全く同じ形をした一対の便についての昔話を聞かされる。だが、夫人の容姿に関する確たる手掛かりは得られず、美人とも、猿の姿をしているともいう矛盾だらけの風聞に、ピアンボの困惑は増すばかりだった。

    夫人の独り語りは続く。霊能者としての成功の日々、ロンドンへの公演旅行、新婚早々に海の藻屑へと消えた夫シャルビュックのこと……。彼女の信頼できない語りや、あからさまな性的挑発に翻弄されて、ピアンボの日常も次第に混乱の度合いを深める。永の愛人サマンサの嫉妬、そして、シャルビュックを名乗る謎の男の、妻から手を引けという脅迫。さらには、街のあちこちで、目から血を流して死に至るという奇病が流行し始め、治安維持のため警察はもみ消しに躍起となる。すべてはシャルビュック夫人に端を発するものだった。

    古風な怪奇ミステリの枠組みに、たがの外れたシェエラザードよろしくの気紛れなミューズを配し、19世紀末のニューヨークの繁栄と頽廃を写実的に描きながら、そのまま主人公の心象風景へと転化する手並みは鮮やかなもの。ゴシックというにはかなり明るい、風変わりなユーモアを交えた語り口は、時代の雰囲気を今に伝える、20世紀初頭の大衆作家イーディス・ウォートンの文体を模したものだという。五感を十全に刺激する作者の描写力は、音、臭い、手触りにまで遺憾なく発揮され、見えないものを追い求めるというこの作品のモチーフに相応しいものとなっている。

    超自然な要素が風聞あるいは話中話として不可知のまま留め置かれるため、幻想味豊かな一般小説としても十分通用する作品であるが、やはりホラー、ミステリ、ファンタジイ、歴史小説といった壁を取り払った、クロス・ジャンルの秀作と見るべきだろう。あるいは、ファンタジイの機能を小説の形で追及した、メタ・ファンタジイの傑作と位置付けるべきかもしれない。(2003/10/13)

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    Jeff Ford Got a New Blog

    The Girl in the Glass14theditch

    'nuff said.

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    Sunday, August 21, 2005

    Lempriere's Dictionary - Mystery of Editions Solved!

    Lempriere's Dictionary (UK)ローレンス・ノーフォーク (Lawrence Norfolk) の Lempriere's Dictionary には、オリジナルのイギリス版とアメリカ版の間に大きな差があるというのは聞いていたんですが、Michael Dirda の説明でどう違うのかやっとわかりました(両方持ってるんだから比べてみればいいんですけど^^;)。

    The worst example [of transatlantic publishing] I know is Lawrence Norfolk's Lempriere's Dictionary, where a fifth of the book was lopped off the first American edition. It was felt that these fantasy elements would get the book shelved as a genre novel rather than an innovative mainstream fiction. Norfolk, being young and produly pressured, went along with this, but years later did get his preferred and fuller text restored for American paperbacks.

    ジャンルの本とみなされるのを避けるために、ファンタジイ的な要素を中心に5分の1ほどカットされてたんですね。ただし、現在のアメリカ版のペーパーバックでは、作者の意図したオリジナルのテキストに戻されているとのこと。

    ううむ、たしか日本語版の『ジョン・ランプリエールの辞書』はアメリカ版を訳したもののはずでしたね。ということで、各版のネットから拾ったページ数を比較してみましょう(正確だとは限りませんが)。

    1. UK hardcover (1991): 529 pages
    2. UK paperback (1992): 627 pages
    3. US hardcover (1992): 422 pages
    4. US paperback (1993): 432 pages
    5. US paperback (2003): 529 pages
    6. JP hardcover (2000): 603 pages

    Lempriere's Dictionary (US)Dirda のいうオリジナルのテキストに戻されたアメリカ版が 5 の 2003年版だとすると、現在販売されているものでは、これと 2 のイギリス版のペーパーバックだけがフル・バージョンなんですね。日本語版の場合は翻訳のせいと、英米のハードカバーに比べ版型が小さいので、このページ数になっているんでしょう。

    ということで、Lempriere's Dictionary を本来の形で味わいたい人は、イギリス版新しいほうのアメリカ版のペーパーバックを手に入れましょう(たしかにオリジナル版はあっちこっちといろいろな寄り道をするので、長くてしんどいですけどね~)。ちなみにテッド・チャンはイギリス版を読めと念押ししています。

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    Saturday, August 20, 2005

    "The Lambs of London" by Peter Ackroyd

    the_lambs_of_london 伝記作家でもあるピーター・アクロイドは新作 "The Lambs of London" で、『シェイクスピア物語』を著したラム姉弟と、シェイクスピアの贋作で知られるウィリアム・ヘンリー・アイアランドの実話を自由な発想でひとつの物語にまとめあげ、18世紀末ロンドンを騒がせたふたつの事件を起すに至ったそれぞれの心模様を、鮮やかに描き出しています。

    メアリとチャールズは、子供の頃から共にシェイクスピアに親しんできたとても仲の良い姉弟。ところがある日突然メアリは発狂し、母親を殺害してしまいます。繊細な神経の持ち主だったメアリの心の中で、一体なにが起こったのか。

    一方、古書店を営む父を手伝う17歳の少年ウィリアムは、偶然出会った未亡人から亡夫のコレクションを自由に閲覧し、気に入ったものを無償で譲り受ける許可を得ます。その宝の山の中から彼は、今まで知られていなかったシェイクスピアの作品『ヴォーティガーン』を発見してしまいます。

    この実話の部分だけでもあまりにも奇異で、十分おもしろい小説になりそうですが、アクロイドは3人の間に接点を設けることによって、謎めいていた動機をひとつのテーマとして浮かび上がらせています。

    ひとつ念を押しておきたいのは、この本を『ヴォーティガーン』の作者探しという謎解きとしては読まないで欲しいということです。始めからすぐ分っちゃうので、それだと「駄作」の烙印を押されかねませんが、これは歴史的事実なので作者はそこに重点は置いてないと思うんです(むしろ周知の事実として書いている)。本物のシェイクスピアのあれやこれやがわさわさ出てくるわけないので、読んでていかにも胡散臭いんですよね。それなのに実際専門家たちもみんな信じちゃったというから驚きです。

    タイトルの The Lambs はもちろんラム姉弟のことですが、lamb は「無邪気」とか「騙されやすい人」という意味もあるので、ダブルミーニングかもしれませんね。

    メアリ・ラムの狂気については、次のような本も出版されています。ちなみに姉弟で本を書いたのは、メアリが精神病院から退院してからです。

    "The Devil Kissed Her: The Story of Mary Lamb" by Kathy Watson

    "Mad Mary Lamb: Lunacy and Murder in Literary London" by Susan Tyler Hitchcock

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    "ARC (advance reading copy)"

    出版前に作られる見本版のことで、advance reader's copy、advance reader's edition などと書かれている場合もあります(advanced は間違い)。他にも galley(ゲラ)、(uncorrected) proof、pre-publication copy などと呼ばれることもありますが、ほとんどの場合同じものを指すようです(galley については厳密にゲラを指して、unbound galley など区別して使われていることもありますが)。

    校正用のゲラという主旨もありますが、メインは書評家や本屋向けのプロモーションに使われます。完成品がハードカバーの場合でも、多くの場合トレード・ペーパーバックの形で提供されます(稀にハードカバーもあり)。これとは別に review copy と呼ばれるものもありますが、こちらは完成版に紹介用のパンフレットを挟んだもので、通常の本と全く同じもののようです。

    どれも非売品なんですが、大抵出版の3ヶ月ほど前にはかなりの数が古本屋に出回っており、話題作の場合にはかなりの高値になる場合もあります。とくに最近では、ARC 自身に限定番号を入れたり、特殊な装丁を施したり、箱入りにしたり、様々なノベルティとセットにしたりして、書評家や書店の目を引き、コレクター市場での加熱を煽るような動きが盛んになっています。

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    The Traveler, by John Twelve Hawks

    The Traveler去年の末ぐらいから思わせぶりなサイトのせいでネットのあちこちで話題になっていた作家がいたんですが、それがジョン・トウェルヴ・ホークス。なにやら大人向けのプルマンという触れ込みで、主人公によるでっち上げのブログを用意したり、作品にちなんだ中古の自動車パーツのサイトを作ったり。つまりは出版社が計画的にジャスパー・フォードみたいなプロモーションを仕掛けていたわけなんですよね。

    その実体が見えてきたのが、プロモーションの第2弾として今年の2月ごろに DVD と CD のついた豪華版の ARC が出回り始めた時で(いやまあ ARC 自身は普通のトレード・ペーパーバックの形式ですけど、付録にお金をかけてある)、その中では、出版社もその正体を知らない覆面作家で、社会の監視の目から逃れたところで生活しており(off the grid)、コンタクトは常に衛星電話で行われるという売りでした。ちなみに DVD の中身はといえば、出版にたずさわった人のくさ~いインタヴュウと、チープなイメージクリップの寄せ集めで、ヴォコーダを使ったトウェルヴ・ホークスの声が笑えます。

    ということで、ダン・ブラウンで当てた編集者の画策により、「作られたベストセラー」が6月に登場したわけなんですが、どうも出版社の期待ほどには売れなかったんじゃないですかね。NYタイムズのリストでも10位以内には顔を出さなかったようですし。

    作品はといえば、ダン・ブラウンと「マトリックス」を掛け合わせたような一般受け路線。「ハーレクイン」という歴史の影で暗躍してきた護衛集団の末裔である女剣士マヤが、異世界と行き来することで時の権力と常に対抗してきた「トラベラー」の生き残りであるマイケルとガブリエルのコリガン兄弟を助け、ハイテクによる全世界の監視強化を進める「ターブラ」と戦う近未来を舞台にしたアクションもの。「マトリックス」のサイバーパンク的な要素と、十字軍に端を発する秘密結社という伝奇的な部分を兼ね備えたファンタジイと形容するのが適切ですかね。他にもトラベラーの能力の覚醒を手助けする導師的な役割の「パスファインダー」とかも出てきて、「スターウォーズ」やら「キル・ビル」やら、どこかで見かけたような要素がいろいろ取り込まれてます。

    「ハーレクイン」の一人として活躍したサムライの血筋を引く男のエピソードや、「ターブラ」で働く日本人、あるいはマヤの格闘術などに日本的な要素が使われていて、決して奇異な描写でもないことから、作者はかなりの日本通のようです(なにかの武道の経験ぐらいあるのかも)。一方で、トラベラーが意識を飛ばす世界の描写や、管理社会を離れた荒野での生活の部分では、なにやらニュー・エイジの影響を感じさせます。

    で、肝心の作品の出来のほうはどうかといえば、スムーズな文章に卒のない話運びで、明らかにポッとでの新人ではなく、書きなれた作家の手によるものですね。『ダ・ヴィンチ・コード』よりははるかに上手いです(笑) ということで、サスペンスものとしてはまあまあの出来で、3部作という続巻への期待を持たせる程度には面白いんですが、一方で、それなりに色々な要素は盛り込んでいるものの、目新しいアイデアがまったくないんですよね。異世界の設定やアクション・シーンも、ゼラズニイのアンバーから借りてきたみたいな感じだし。ということで、ジャンルの読者よりはやっぱりベストセラー向きの作品でしょうか。まあありきたりの似非中世ファンタジイでなく、現代社会を舞台にしているという点では目先も新しく好感が持てますが。

    さて、作品以上に話題になっている作者の正体についてですが、作品を読めば新人ではないことは一目瞭然なので、色々な憶測が流れてます。「トウェルヴ・ホークス」というネイティヴ・アメリカンの名前から、匿名で書くこともあるクレイグ・ストリートじゃないかというのがいちばん有力なようですが、やはりネイティブ・アメリカンの血を引くウィリアム・サンダーズは疑われて侮辱するなと怒ったとか。ケイジ・ベイカーヴェラ・ナザリアンの名前が挙がっているのは、ゲイブ・シュイナードが作品とその販売戦略をポジティヴに誉めていたため、その知り合いの作家が引き合いに出されたものです。たしかにね~、このあたりの作家でしたら、安っぽい文章でありきたりの作品を書くのは返って苦労するでしょう。一方、ダン・ブラウンでしたら当然自分の名前で出したほうが売れるわけですし、正直ブラウンに書けるほど下手くそな文章でもないですから、これはありえないですね。

    作中の日本的要素を切り口にすると、ルポフやラストベーダー、F・ポール・ウィルスンあたりも候補になるかとは思いますが、このあたりのロートルをわざわざ出版社がプッシュするかというところがありますね。個人的には、空手の専門家で日本での生活の経験もあり、サイバーパンクとアクション・シーンを得意とし、匿名での作品の発表もしていて、イギリスに住むアメリカ人ということでヨーロッパのセンシビリティにも詳しいと思われる、トリシア・サリヴァンあたりが怪しいんじゃないかと思っているんですが。とはいえこのところ作品も順調に出版してるし、斬新なアイデアによる実験的な作品を志向している作家なので、彼女が書いたんだったら隠そうとしてもどこかに鋭い切り口が出てきてしまうんじゃないかという気はしますが。まあわたしの一票はサリヴァンに入れておきます。

    ちなみに、作者が人前に姿を見せないということで、プロモーションのツアーもなかったことから、サイン本がそこそこの高値を呼んでます。限定 777部の番号とサインに "JXIIH" (John Twelve Hawks のイニシャル) のスタンプの入ったものが200ドルぐらいでしょうか(限定版とはいえ、普通の本に手書きで番号を入れただけの手作りです)。少数ながら限定でないサイン本もあるようですが。このサインの筆跡から作者の正体を探るという手もありますね。まあ映画化されるのは間違いないでしょうから、出物を見つけたら押さえておいて損はないと思います^^)

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    Friday, August 19, 2005

    Zombie and Kelly Link

    Magic for Beginnersケリー・リンクの新作短編集 Magic for Beginners に対するニューヨーク・タイムズのレヴュウをきっかけに、パトリック・ニールスン・ヘイデンのブログで、ゾンビーは現実なのかメタファーなのかの議論が勃発しています。

    レヴュウの主旨は、Magic for Beginners は、ホラーとマジック・リアリズムとポストモダンの不条理のブレンドでありながら、そのどれとも違う、つかみどころのない作家だとしながら、"Some Zombie Contingency Plans" を例としてあげて、いったいゾンビーは現実なのかメタファーなのかわからないじゃないかと文句をいっています。とはいえ、結論としては、わからないながらも妙に惹かれてしまうとしていますが。

    これに噛み付いたのがヘイデンのブログにたむろするジャンルの面々。150を越えるコメントを消化するのはとてもじゃないが無理なんでいくつか拾ってみると、リンクがジャンルの作家だという暗黙の前提のもと、作品を離れたところで、ゾンビーは現実に決まってる、だからジャンルの読者じゃないやつはダメなんだ、という発言が主流を占め、結局いつものジャンル対メインストリームの論争に流れ、「わたしはジャンルがわかる」の大告白大会になってるようです。

    けどねえ、ゾンビーが現実なのかメタファーなのかは、この短編とは全く関係のないことなんですけど^^; まあ NYタイムズのレヴュウも、「よくわからないけど面白い」の域を出ていない無責任なものであるのがいけないんですが、ここでのゾンビーは、「森の中でゾンビーに出くわしたらどう対処するかを常に考えている」ような、主人公の性格付けに使われているだけなんです。

    これは最近訳出された別の短編 "The Great Divorce" (大いなる離婚) についてもいえることですが、幽霊が現実なのかメタファーなのかが問題なんじゃなく、直接コミュニケーションが取れない、いるのかいないのかわからない相手なのに、結婚したり、子供が出来たり、ついには離婚騒動に発展しちゃう状況の可笑しさが作品のポイントなんですよね。

    同時に、ゾンビーにしても幽霊にしても、リンクがジャンルを拠りどころにしているという、いわばジャンルのシンボル的な扱いではなく、ごく単純に、身近なポップ・カルチャーから拾い上げた素材と見なすのが自然でしょう。

    それじゃなぜ虎やライオンじゃなくてゾンビーなのか、すれ違い夫婦でなく幽霊なのかといえば、そのほうが面白いからですよね。短編集の表紙は、なぜかダ・ヴィンチの「白テンを抱く貴婦人」の焼き直しになってますが、こちらもそもそもなんで「白テン」なのかといえば、ラングドンあたりに言わせればごちゃごちゃ理由は出てくるんでしょうけど(笑)、ごくシンプルに、珍しいから画材になり、今でも人々の目を引くわけですよね。白テンの意味するものが人の目を引くわけではないし、白テンを抱いた婦人が実際にダ・ヴィンチの目の前にいたのかどうかも、どっちでもいいんです。

    ということで、リンクの作品を読む場合には、奇妙な前提は素材のまま受け止めて、そこから導き出された状況に目を向ければ、全体の構図が浮かび上がってきます。素材によって撒き散らされた一見気紛れに見えるイメージと、考え抜かれた精緻な構造との二重性が楽しいところですね。けどまあ、NYタイムズのレヴュウが指摘するように、ゾンビー対処法が、"Some Zombie Contingency Plans" の中で、全体の構図に直接寄与しているようには思えないですけど(陰画と陽画が反転するエッシャーの絵のようなホラーは、別の所で成立している)^^; こちらが読み取れてないのか、作者が書いてないのか、どちらか判断がつかないのがリンクの短編の唯一の欠点かも。

    はてさて、ゾンビーのいないところで熱心に鉄砲をぶっ放している人たちは、果たしてゾンビーに行き当たったんでしょうか。いやまあゾンビー以外のものがいろいろ出てくるので、それはそれで刺激的なんですけど。

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    Thursday, August 18, 2005

    Graphic Novel: Neil Gaiman's "Neverwhere" Script by Mike Cary, Ill. by Glenn Fabry

    neverwhere ロンドンの地下にあるもう一つの世界を描いた、ニール・ゲイマンのアーバン・ファンタジー "Neverwhere" が、ゲイマンの監督のもとグラフィック・ノヴェルになって蘇りました。この6月から配本開始、月1回発行で合計9巻になる予定です。

    DC Comics のサイトで4ページ(PDF)読めるんですが、なんか小説のほうの日本語版『ネバーウェア』の表紙の雰囲気と全然違いますね~(←英語版持ってるけど、読んでない人)。

    グレン・ファブリーの絵がなかなかいいので、US$2.99 なら気軽にお試し買いしようかと思ったら、アマゾンには出てませんでした。残念。

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    Wednesday, August 17, 2005

    Who Wrote John Twelve Hawks?

    なにかと話題のジョン・トウェルヴ・ホークスですが、ロンドンの地下鉄で向かいに座っている人のタブロイドを盗み見たという人の目撃談によれば、Metro という三文紙で、その正体をめぐる賭けが報じられていたとのこと。以下のオッズが含まれていた模様です。

    • Dan Brown 14-1
    • Kage Baker 18-1
    • Vera Nazarian 25-1
    • J.K. Rowling 100-1

    なにやら出所は想像がつきそうな感じ^^)

    あ、書く書くといっていながら延び延びになっている The Traveler の紹介は、ええと、まあそのうちに^^;

    いやまあ、ジョン・トウェルヴ・ホークスの筋書きを書いたのは、Doubleday の編集部でしょうけど。

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    "The Brothers Grimm" directed by Terry Gilliam

    the_brothers_grimm テリー・ギリアム監督の "The Brothers Grimm" が、8月26日から全米で一般公開されます。もちろんギリアム作品ですから「グリム兄弟」といっても、その生涯を忠実に再現した映画のわけありませんね。

    ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟は、村から村へと旅をしながら魔物を退治して、そのお礼にお金をもらっていました。が、実はそれは自作自演の芝居! 彼らはなんとペテン師だったんです(ひどい!)。ところがある村で、何人もの少女たちが謎の失踪をとげていると聞き、今度はほんとうに呪われた森に入って魔の力と対決するハメに。

    グリムと言えば、シンデレラ、赤頭巾、ヘンゼルとグレーテル……。そんなお馴染みの童話もしっかり盛り込まれているというから、どんな物語に生まれ変わっているのか考えるだけでもワクワクしちゃいますね。配役はヤーコプがヒース・レジャー、ヴィルヘルムがマット・デイモン、悪役で森を統べる「鏡の女王」はモニカ・ベルッチ。詳細はミラマックスのオフィシャルサイトギリアムのファンジン dreams でどうぞ。

    この作品、8月31日から9月10日まで開催される、ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門にも出品されているので、結果が気になりますね。日本での公開は秋頃のようです。

    しかし、アクロイドの "Dan Leno & the Limehouse Golem" を撮るという話はいったいどこへ消えてしまったのでしょう~。

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    Tuesday, August 16, 2005

    Bold As Love, by Gwyneth Jones

    Bold As Love話に出たついでにこちらも載せちゃいましょう。


    ロックが世界を変えると多くの若者が信じていた時代があった。ミュージシャンは英雄であり、神であった。その言動が、たんなる気まぐれやドラッグの幻覚に根ざすものであっても、人々はそれを支持した。ギネス・ジョーンズが、ドラゴンやエルフといったナンセンスを廃して、現実的なファンタジイを書こうと構想を練ったとき、ロック以上にふさわしい題材は考えられなかったという。そう、これは、かつての幻想が生き残っている世界で、ロック・ミュージシャンが国を率いる物語なのである。

    1986年、議会はイギリスの解体を決議し、連合王国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四つの国に分裂した。この混乱を乗り切るため、時の政府は、大衆への多大な影響力を持つロック・ミュージシャンを集め、政治を補佐するシンクタンクを組織する。だが、次第にこのカウンターカルチャー集団が勢力を増し、そのうちの一人ピグスタイ・リヴァーが、流血の内部抗争の末、主導権を握るころには、実質的な権力はミュージシャンたちの手に移っていた。

    この有象無象の集団の中に、主人公となる三人の男女がいた。カリスマティックなギタリスト、アックス、前衛的なテクノ・アーティストのセイジ、気まぐれなティーンエージャーの歌姫フィオである。セッションを通じて気心が知れるにつれ、アックスと愛人のフィオ、ガーディアンとしてのセイジという三角関係が形成されていく。同時に、集団の核としての三人の立場も明確になっていった。これを決定づけたのは、イスラム教徒たちの反乱の危機を、交渉にあたったアックスが、自らイスラム教徒に改宗するという思い切った手段によって、平和裏に切り抜けたことだった。

    一方、混迷を極める周囲の状況は、次から次へとこの新興政府に難題をつきつける。ピグスタイの幼児虐待がらみのスキャンダルという集団内部からの試練に、新種のウィルスによるインターネットの分断で深まるイングランドの孤立。隣国ウェールズの破壊工作や暗殺の企てもしのがなければならない。フィオたち三人は、乏しい経験となけなしの知恵をフルに絞って、今にも崩壊し、中世の暗黒時代に逆戻りしそうな母国の舵取りを試みる。大陸から大挙して押し寄せるボート・ピープルの前で、混乱を静めようとコンサートに臨むフィオの勇姿には、いつしか、かつてのエリザベス一世の面影が重なる。

    そう、この物語は、現在のイギリスの混迷を比喩的に描きながら、大英帝国の背負ってきた歴史と誇りを、もう一度辿り直そうという試みなのである。同時に、ここにはイギリスとは切っても切れない伝説の二重露出がある。主役の三人の関係には、象徴的にアーサーとグィネヴィアとランスロットの姿が重ね合わせられているのだ。

    こうしてみると、諸侯をまとめようと遠征に明け暮れる英雄を想起させる三人のコンサート・ツアーは、イギリス再生への意志の象徴にほかならない。作者は伝説の援用をもう一歩進めて、フィオには魔法の能力の萌芽を与え、アックスには先史時代の石斧を用意し、最終的には五部作になるという続巻への布石としている。

    さて、まれに見る重層的な力作であるが、やはり、イギリス人でなければ完全には味わい尽くせないのではないかという印象がつきまとう。背景に溶け込んだハイテクと、政治色の濃い社会の描写に、英国史の一場面のような出来事の数々、アーサー王伝説の自由な書き換えと、素材のレベルでは門外漢でも十分楽しめるが、細部に織り込まれた象徴が、すべて読み取れるとはいいがたいのだ。現時点ではアメリカ版が出版されていないところを見ても、イギリスという背景から切り離しては成り立ちにくい小説であるといえるだろう。

    また、肝心のロック小説という側面からみても、作者の描写から音が聞こえてこないという苛立ちが募る。ジミ・ヘンドリクスゆかりのタイトルを持ちながらも、ここにはパワフルなロックの音響はない。ローディーとしてコンサート・ツアーに付き添って、退屈なミュージシャンの日常ばかりを見せられたような印象なのだ。

    とはいえ、この思いもかけない要素の重ねあわせが、ファンタジイとして、小説として、みごとに結実していることは事実で、その点だけをとっても、奇跡というべきなのかもしれない。作者のセッションはまだ第一部が終わったばかりなのだし。(2002/07/09)

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    Divided Kingdom, by Rupert Thomson

    Divided Kingdomイギリスっていうのは、国が分裂しちゃう話が好きなんですかね。最近ではギネス・ジョーンズのファンタジイ Bold as Love のシリーズがそうでしたし、未読ですが、ジェイムズ・ラヴグローヴのSF、Untied Kindom("united" じゃなくて "untied")が、タイトルまでそのものズバリの作品でした。『終わりなき闇』『ソフト』の翻訳のあるルパート・トムスン(トムソン)の新作も、連合王国が4つに分けられた分割王国の話。

    とはいっても、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドというありきたりの分断ではなくて、シュタイナーなどによる4つの気質(four humours)、つまり、憂鬱質(melancholic)、粘液質(phlegm)、胆汁質(choleric)、多血質(sanguine)によって国民を分けた世界なんですね。現代社会にいざこざが絶えないのは、性格の異なる人々が交じり合って暮らしているからだというむちゃくちゃな理論によって、議会は王国の再構成を決議します(Bold as Love でもそうでしたけど、国会による分割決議っていうのはいかにもイギリスって感じ)。

    主人公は幼くして生みの親から引き離され、多血質の国の新しい父と姉の元に送られます。決して冷たい家族ではないものの、やはりここでも他の国に強制連行されてしまった妻の影が暗く尾を引いていました。ううむ、メランコリックに始まったこのあたりの主人公の少年期の描写は、なかなか期待を持たせるんですけど、大人になった主人公が政府の特使として他の国を訪れるあたりから、なにやらいまひとつの展開に。粘液質の首都アクアヴィルでテロに遭遇した主人公は、分かれた生みの親を探すことを決意して、違法に国境をすり抜けながら、各国を遍歴してまわることになるんですが、目的意識が希薄なために、物語の推進力がほとんどゼロの状態になってしまうんですよね。

    それでもまあ、トラベローグというか、クエストものにつきものの、奇妙な出来事との遭遇、おかしな人々との出会いはそれなりに楽しめます。地下の海でサーフィンに興じる人々や、自分がバターだと思い込んでいる男、言葉をなくし、テレパシーで交信しながら国境を自由に行き来する white people の群れといった、妙にシュールなイメージにはこと欠きません。あるいはまた、出会うたびに、前回出合ったことを忘れてしまう謎の女性の登場も。一応まあ、国家の陰謀もの的な結末が付録のようにつけられていますけど、個々のエピソードと、描写のうまさを味わう小説なんでしょうね。

    でまあ、4つの気質とそれぞれの国の人々との結びつけはそれなりにされていますが、決してあからさまに気質の違う人々を描き分けているわけでもありません。前提の必然性と合せ、気質と作品との関連はかなり薄い感じです。寓話、あるいは政治風刺として読むにはいまひとつ皮肉に欠け、SF、あるいは冒険ものとして楽しむにはスリルに乏しく、ラブ・ストーリー、あるいはゴースト・ストーリーとして味わうにはちょっと渋すぎて、それじゃジャンルの垣根を越えた小説としてトータルではどうかといえば……ううむ、わたしには高級すぎたようです(笑)。

    ハックスリーの『素晴らしき新世界』の影響は未読のためわかりませんが、オーウェルの『1984年』の管理社会における陰謀に、かなり渋くアレンジしたスウィフトの『ガリバー旅行記』を組み合わせたような、(アイルランドも含めた)いかにもイギリス的なディストピア小説でした。

    ちなみに、Divided Kingdom のプロモーションのサイトには、4つの気質のどれかに振り分けてくれるクイズがあります。ううむ、わたしは choleric だって^^; Tシャツにはこう書いてあるそうです:

    "I came I saw I lost my temper."

    はは。

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    Monday, August 15, 2005

    A Feast for Crows, by George Martin

    A Feast for Crows (US edition - 2005/11/01)A Feast for Crows (UK edition - 2005/10/17)5月末に完成宣言のあった tSoIaF (The Song of Ice and Fire) の第4巻 A Feast for Crows ですが、10月(UK)と11月(US)にプロモーションのツアーが組まれているということですので、こんどこそほんとうに出版されるみたいですね。オーダーしたのはいったい何年前のことだろう(amazon.co.uk のオーダーがまだ有効でした^^;)。

    じつはこの作品、第3巻の A Storm of Swords よりも長くなってしまったので、2巻に分けてその半分を先に出すことにしたんだとか。ただし、ストーリーを途中で分断するのに忍びないため、登場人物でわけたとのこと。つまり、A Feast of Crow には、主要登場人物の半分しか出てこないということですね。ううむ、わが分身のティリオンや、ブランとアーヤは果たして登場するのか、それとも次の A Dance with Dragons に先送りされるのか、気になるところではあります。

    ということで、マーティン先生、次の A Dance with Dragons は半分完成してるので喜べ、とかいってますが、どうなることやら。これで何年か前に4部作から5部作に切り替えたのに、自動的に6部作になったわけですね。まあまたそのうち増えるんでしょうけど、マーティンだから赦しちゃいましょう。

    ひとつ残念なのが、イギリス版の表紙が、ジム・バーンズの並べて飾っておきたくなるようなイラストから、どうしょうもないありきたりの絵に変わってしまったこと。3部作分しか契約してなかったんでしょうかね。いやまあアメリカ版は最初からずっとしょうもない絵なんでどっちでもいいんですけど。お、イギリス版の第1巻のサイン本は 1,500ドルぐらいになってますね。そのうち売ってやろう^^)

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    "The Girlhood of Shakespeare's Heroines" by John Crowley

    the_girlhood_of_shakespeares_heroines 6月に、長編 "Lord Byron's Novel: The Evening Land" が出たばかりのクロウリーですが、そのちょっと前に "The Girlhood of Shakespeare's Heroines" なんていうノヴェラも出てたんですね。

    インディアナ州のエイヴォンという町で、50年代後半の数年間だけ催されていたシェイクスピア・フェスティバルを、語り手の主人公が振り返るという物語。詳細は不明ですが、タイトルからしてちょっとおもしろそう。例によって「シェイクスピアは誰か」論争もあるとか。でも、500部限定サイン本とはいえ、92ページで US$35 は高いですね~。

    ところで、この作品は書き下ろしではなく、年2回発行されている Conjunctions という雑誌に既に掲載されたものなんです。出だしの部分はアーカイヴで読むことができます。

    ん? と言うことは、純粋に作品を読みたいのなら、2002年に発行された雑誌のほうを買っちゃったほうがよさそうですね。この号、Conjunctions: 39 のサブタイトルは The New Wave Fabulists で、詳細はこちら

    Conjunctions のサイト内を彷徨っていたら、Audio Vault にポール・オースター、ケリー・リンク、ジョン・クロウリー、ピーター・ストラウブらが、自著を読んでる(短い)音声ファイルを見つけました。ケリー・リンクはなんか普通の声なんですけど。

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    Sunday, August 14, 2005

    Les Cités Obscures: Les Murailles de Samaris

    Les Cités Obscures: Les Murailles de Samaris なにやらグラフィック・ノヴェルみたいな表紙ですが、え~、グラフィック・ノヴェルです。ベルギーのSchuiten & Peeters のコンビによる BD(バンド・デシネ)ですね。作画担当のシュイテンと脚本のペータース(オランダ系の名前なんで適当にドイツ語読みしてます^^;)は、1988年に発表された第1作のこの作品以来、現在までほぼ10冊ほど Les Cités Obscures のシリーズを描き続けています。

    舞台となるのは、現実の都市を模してはいても、微妙に肌合いの異なる架空の都市の数々。蒸気機関車が走りプロペラ機が飛んでいるどこか懐かしい光景なんですが、20世紀前半のイメージなので、産業革命期を扱ったスチームパンクよりは洗練されてます。改変世界もの、とわざわざいうよりは、ジュール・ヴェルヌあたりから延長してきた「懐かしい未来」という形容がぴったりきそうですね。

    登場人物があんまり美形じゃなく、風采のあがらない中年男が主人公の場合が多いのが特徴的ですが、大抵の場合ファム・ファタールに導かれ、都市をめぐる陰謀に巻き込まれるという、オーウェルの『1984年』を思わせるお決まりのパターン。とはいえ、このシリーズ、ストーリーなんかどっちでもいいんです。作品の醍醐味は、全編を埋め尽くすありえざる都市の光景と、精緻な建築物の数々にあります。昔の都市計画者や建築家のスケッチブックを眺めている感じですね。

    この第1作でも、主人公の住む Xhystos は流麗な曲線によるアール・ヌーヴォーで描かれ、主人公が訪れる砂漠の中の城塞都市 Samaris は、直線中心のルネサンスとギリシャを組み合わせたようなタッチ(まあかなりアール・デコが入ってますが)で対比を見せています。登場人物の服装も建物に合わせてクラシコを基調にしたものですが、この世界の女性の衣服は非常に破れやすいようで、腕をつかんだだけで胸がはだけたり、かなり便利にできてます。色っぽいおねーさんが脈絡もなく突然裸になるのは理解に苦しみますけど、きっとこの世界の風習なんでしょう^^)

    都市の秘密を知ってしまった主人公の右往左往は、遥か昔に初期から中期にかけての手塚治虫が描いてたようなプロットで、現在の日本のマンガと比べるとプリミティヴとでもいえそうな出来なんですが、ノスタルジックな背景と組み合わせると、逆に強みになっているようにも思えます。そういえば、『ベルヴィル・ランデブー』も、昔のニューヨークをモデルにした架空の都市ベルヴィルの物語でしたけど、かなりメンタリティは近いですね。それどころか、あの印象的なデフォルメされた船の絵は、ごく似たものが Les Cités Obscures の1冊に出てきますので、直接の影響を受けているのかもしれません。

    このシリーズ、英語版も何冊か出ているんですが、絶版になっている場合が多く、なかなか手に入りません。あんまり得意でもないフランス語で(文字を一切使わない会話のみの授業しか受けたことないんですよね)、わからない単語を飛ばして読むと、まあ90%ぐらいわからないことになるんですが(笑)、ストーリーはシンプルですので、眺めて楽しむためだけでも手に入れる価値ありです。

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    2005 ASFA Chesley Awards Winners

    asfa_chesley_awardsスペース・アートの大家チェスリー・ボーンステルの名を冠するこの賞は、1985年にASFA(The Association of Science Fiction & Fantasy Artists) によって設立され、毎年、SF/ファンタジー系の優れたアーティストに授与されます。今年も例年通りワールドコンで、8月5日に受賞者とその作品が発表されました。


    Best Cover Illustration Hardback: (3-way Tie)

    * Rick Berry, for "Queen of the Amazons" By Judith Tarr

    * Tony DiTerlizzi "The Wrath of Mulgarath: The Spiderwick Chronicles Book 5 " by Holly Black and Tony DiTerlizzi

    * Donato Giancola for "The Nameless Day" by Sara Douglas

    Best Cover Illustration for: Paperback Book

    * John Picacio for "Her Smoke Rose Up Forever" by James Tiptree Jr.

    Best Cover Illustration:Magazine

    * Omar Rayyan for Spider Magazine, October 2004

    Best Interior Illustration

    * Charles Vess for "Medicine Road" by Charles de Lint

    Best Color Work: Unpublished

    * Marc Fishman, "Water Nymph", oil

    Best Monochrome Work: Unpublished

    * Robert Elneskog, "The Halls of Valhalla" , pencil

    Best Three-Dimensional Art

    * Lawrence Northey, "ZF-Z4, The Duke an'Blinky", metal and glass

    Best Product Illustration

    * Dean Morrisey, "Celtic King" fine art print, Greenwich Workshop

    Best Gaming Related Ilustration

    * Mark Zug, cover for "Monte Cook's Arcana Unearthed"

    Best Art Director

    * Irene Gallo for Tor Books

    Award for Contribution to ASFA

    * Kat Angeli-production and printing of 2004 Chesley brochure

    Award for Artistic Acheivement

    * Omar Rayyan

    上の画像は、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短編集の表紙を描いて、ペーパーバック部門で受賞した、ジョン・ピカシオの作品です。

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    Saturday, August 13, 2005

    "The Mysterious Flame of Queen Loana" by Umberto Eco

    the_mysterious_flame_of_queen_loana このグラフィック・ノヴェルのような表紙の本が、『薔薇の名前』や『フーコーの振り子』などの作品を書いたウンベルト・エーコの新作だと言っても、俄には信じられないでしょう。でも、碩学のエーコはマンガや映画も大好きで、めちゃくちゃ詳しいんです。書籍データに「Illustrate 版」と書いてあるように、昔懐かしい(と言っても、エーコの世代にとってですが)イラストやポスター、写真が満載で、それらが物語りにうまく取り入れられています。

    主人公は記憶喪失になった六十歳の男。家族のことも、自分の名前も過去もすっかり忘れてしまったのに、昔読んだ小説やらマンガやらは鮮明に覚えているというから不思議。どうやら百科事典的な知識は残っているのに、感情が絡まる記憶となると全くの白紙状態になってしまったようです。そこで心理学者でもある妻の勧めもあって、むかし祖父母が住んでいたソラーラの大邸宅にしばらく滞在することにします。封印された部屋の扉をひとつひとつあけ、幼児期から少年時代までの思い出の品々と再会を果たしながら、彼は自分の過去を再構築しようとするのですが……。

    この作品をひと言で表わすと「当時の大衆文化で彩った、戦中派のノスタルジックな青春物語」でしょう。年齢を問わず、これを読みながらほろ苦い青春時代を思い起こす人も多いんじゃないでしょうか。ただそれだけでなく、過去を持たない主人公の目を通すことによって、戦時のイタリアの出来事を第三者的に冷静に分析することに成功しています。

    そしてこれは「記憶の物語」でもあります。記憶とは……

    過去の人生を成り立たせているもの
    突然簡単に失う可能性のあるもの
    ある刺激によって突如呼び覚まされるもの
    無意識のうちに性格や性向に影響を与えるもの

    「記憶」というものがどんなに不安定なものか、そして人間がいかにそれに依存しているか、当たり前のようでいて普段気にとめないそんなことに気づかせてくれる物語でもありました。

    でも、何より一番伝わってきたのは、エーコの大衆文化に対する愛ですね。

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    The Horrific Sufferings of the Mind-Reading Monster Hercules Barefoot: His Wonderful Love and His Terrible Hatred, by Carl-Johan Vallgren

    The Horrific Sufferings of the Mind-Reading Monster Hercules Barefootいえ、タイトルがマックス何文字打てるか実験をしてるわけではなくて、そういうタイトルの本なんです(いやでも、なんとかいけたみたいですね)。中身も面白いので、ちょっと前に書いた紹介を引っ張り出してみましょう。

    内容以前にまず寿限無なタイトルが印象的なのが、スウェーデンのカルル・ジョハン・ヴァルグレンの The Horrific Sufferings of the Mind-Reading Monster Hercules Barefoot: His Wonderful Love and His Terrible Hatred で、人の心を読み取れる怪物ヘラクレス・ベアフットの悲惨な受難に、その素晴らしき愛とものすごい憎悪を描いた作品である……と書いただけではタイトルそのままなので、もう少し付け加えよう。

    19世紀の初め、敬虔な欧州の田舎町の娼館で、時を同じくして二人の赤ん坊が生まれた。ひとりは健康な女の子だったが、もうひとりは背中が毛で覆われ、両手が萎縮し、鼻も耳もない顔の真中にぽつんと穴が開いただけの口をした化け物だったのである。ただし、人の心を読み、人に思念を送ることのできるヘラクレス少年は、娼婦たちに見守られてなんとか生き延びる。とはいえ、ものごころがついてからのヘラクレスの日常は、苦難の連続だった。精神病院での幽閉から修道僧に助け出され、足で弾くオルガンに天賦の才を見せたのもつかのま、ヴァチカンからは人の心を惑わす悪魔の烙印を押されてしまう。

    旅回りの異形のサーカス一座に紛れ、ヴァチカンを逃れたヘラクレスが、唯一心の励みにしてきたのは、幼い時に別れた少女、ヘンリエッタの行方を探すことだった。だが、教皇の刺客は、しだいにヘラクレスの周辺へと忍び寄る。19世紀のヨーロッパの状況を巧みに取り入れながら、押さえたユーモアを交え、奇妙な物語を淡々と語った作品である。ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』のグロテスクなユーモアや、サルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち』のマジック・リアリズムを思い起こさせるような部分もあるが、そこまでシリアスではなく、直接の寓意性や社会性は薄い。むしろパトリック・ジュースキントの『香水』に似た奇譚の味わいか。(2005/03/13)

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    Friday, August 12, 2005

    Bookwrap

    読者に直接語りかけたい――作家や出版社側のそんな思いを察知して生まれたのが、書籍の新しいマーケティング・ツール「ブックラップ」。作者による作品紹介ビデオ、著者情報、作品のシノプシス、抜粋、そして購入先のリンクまでを、ひとつの画面にコンパクトに収容できます。

    プロモーション・ツアーは対象が限られてしまうし、ラジオやテレビへの出演では一度流れたらおしまい。でもこれであれば、パソコンでいつでも視聴可能だし、気に入ってもらえればすぐ販売に結びつきます。受け手側にとっても、扱っているネット書店などで該当書籍のブックラップマークをワンクリックするだけで必要な情報を簡単に得ることができるので、とても便利。メディアプレイヤーがインストールされていれば、ビデオは自動的に再生されます。

    また、ブックラップ・セントラルで直接視聴することもできます。まだまだ作品数は少ないですが、すでにスザンナ・クラーク、ウンベルト・エーコ、ジム・クレイス、ニール・ゲイマン、コーネリア・フンケらが、自著について熱く語っています。こういうのを見ると、購買意欲も湧きますよね。今後も人気作家によるブックラップの活用は増えていくのではないでしょうか。

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    Thursday, August 11, 2005

    eBay Auctions: Your Name in an Upcoming Book

    16人の作家の新作に登場する権利が、9/1-9/25 にかけて eBay でオークションされます。やっぱりキング、グリシャム、ロバーツ、ゲイマン、スニケットあたりが高いんでしょうね。収益はすべて言論の自由を守るための活動に使われるとのこと。

    September 1-10: Michael Chabon, Amy Tan, Peter Straub, Andrew Sean Greer, Karen Joy Fowler

    September 8-18: Stephen King, Lemony Snicket, Dorothy Allison, Jonathan Lethem, Ayelet Waldman

    September 15-25: John Grisham, Nora Roberts, Neil Gaiman, Dave Eggers, Rick Moody, ZZ Packer

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    2005 Booker Longlist

    ロングリストが 8/10 に発表されました。ショートリストは 9/8、受賞作は 10/10 に決まります。詳細はマン・ブッカーのサイトで。

    The Harmony Silk Factory by Tash Aw

    The Sea by John Banville

    Arthur & George by Julian Barnes

    A Long Long Way by Sebastian Barry

    Slow Man by JM Coetzee

    In the Fold by Rachel Cusk

    Never Let Me Go by Kazuo Ishiguro

    All For Love by Dan Jacobson

    A Short History of Tractors in Ukrainian by Marina Lewycka

    Beyond Black by Hilary Mantel

    Saturday by Ian McEwan

    The People’s Act of Love by James Meek

    Shalimar The Clown by Salman Rushdie

    The Accidental by Ali Smith

    On Beauty by Zadie Smith

    This Thing Of Darkness by Harry Thompson

    This Is The Country by William Wall

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    Wednesday, August 10, 2005

    100 Best Scottish Books of all Time

    スコットランドの話題が続いたので、ついでにこんなのはいかがでしょう? 

    Scottish Book Trust が選んだスコットランドの本100冊の中から、あなたの好きな本に投票してくださいという企画。リスト以外の本でもOKだそうです。それぞれのタイトルに解説がついているので、これを読むだけでもおもしろそうです。どんな本がピックアップされているのか、ざざ~っと見てみると……

    コナン・ドイルやイアン・フレミングなんかは入ってて当然ですね。おお、マクドナルドの『リリス』やグレイの『ラナーク』もあります。意外なのは『アンダー・ザ・スキン』で仲間入りしている、オランダ生まれ、オーストラリア育ちのフェイバー。ま、10年以上スコットランドに住んでいるのでOKなのでしょう。

    文学だけでなく、アダム・スミスの『国富論』やレインの『ひき裂かれた自己』などもあって、多種多様。この100冊を比べて1冊選ぶというのも大変な話です。

    投票は集計され、結果は8月27日にエディンバラ国際ブックフェスティバルで発表されます。ハリー・ポッターが1位では当たり前すぎてつまらないので、「お~~っ!」と驚くようなスコットランド本を選んで欲しいですね。

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    Tuesday, August 09, 2005

    "Only Begotten Daughter" by James Morrow

    only_begotten_daughter 間があいてちょっとマヌケですが、世界幻想文学大賞怒りの未訳本第3弾(モロウその2)、いいでしょうか?(ダメと言われても、行っちゃいます)

    実力があるにもかかわらず、モロウが日本市場から閉め出しを食っている最大の原因は、宗教絡みの作品が多いことでしょう。この1991年の世界幻想文学大賞受賞作 "Only Begotten Daughter" もそのひとつです。とは言っても、そこはモロウ。キリストの生涯をなぞる形を取りながら、現実的で皮肉の利いた、楽しいスラップスティックに仕上げています。「宗教もの」で想像するような堅苦しさは全くなく、むしろハチャメチャでときにカゲキ、それでいてなるほどと思わせるところはさすがです。そして、それこそが彼の持ち味なのです。

    キリストの再臨を思わせる主人公ジュリーは、ユダヤ人の宗教的独身主義者マリー・カッツがボランティアで精子バンクに提供した精子から誕生。神が介入して聖母マリアが受胎したキリストの場合と全く逆です。その彼女が自分の存在意義と使命を考え、世の中の人々を助けようとするのがこの物語。でも新約聖書が伝えるキリストのようには行きません。盲人の目を治したり、水の上を歩いたりのお馴染みの奇跡も当然あるのですが、ヘンな悪魔や、狂信的で過激なネオ・キリスト教団などが出てきて、聖書とはずいぶん違った趣になっています。ところが、逆にそれがイエスの真の姿をあぶりだしているように見えるから不思議です。義兄にあたるイエスとの邂逅の場面もあるのですが、そこはひとつの見所でしょうね。

    この作品の一番の魅力はなんと言っても、悩み、迫害されてボロボロになりながらも、ひたむきに走り続けるジュリーの姿でしょう。あと、登場人物に美男美女が全然出てこないところとか、醜いはずの負傷の傷口を笑い飛ばしちゃう豪快さなんか、飾らない本音主義のモロウっぽさが出ていていいですね。

    というわけで、これも絶対翻訳出して欲しいですね~。

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    The Shadow of the Wind, by Carlos Ruiz Zafon

    The Shadow of the WindRichard & Judy Book Club のせいで、昨年のイギリスのベストセラーになったカルロス・ルイス・サフォンのスペイン語からの英訳本 The Shadow of the Wind が、illustrated edition として再登場。イギリス版のハードカバーの初版はいまやそこそこのレア・アイテムと化しているので、これで我慢するというのも手かも(いえ、もちろんわたしは予約してサイン本を手に入れた口ですけど、やっぱり買ってしまいそう^^;)。

    『ダ・ヴィンチ・コード』の図入り版の成功にあやかったものでしょうけど、「忘れ去られた本の墓場」の迷宮は是非とも写真で見てみたいですね。作品自身はお馬鹿な『ダ・ヴィンチ・コード』とは月とスッポンの大傑作です。ということで、ちょいと前に書いた紹介を。

    本国スペインやドイツで大ベストセラーとなり、発売から一年が経ったイギリスでも、やっとここにきて火がついたカルロス・ルイス・サフォンの The Shadow of the Wind は、本好きには垂涎のエピソードで始まる。亡き母の顔が思い出せないといって悲しむ少年を、古書店を営む父親が連れて行ったのは、限られた古本屋だけがその存在を知っている「忘れ去られた本の墓場」という、その名の通りの本の迷宮だった。どこまでも続く本の壁、うずたかく積まれた本の山。少年はその中から一冊だけ本を選ぶことが許される。手にしたのはジュリアン・キャラックスの『風の影』という、死神と取引した男の話だった。

    パリで客死したキャラックスは、もともと寡作の上に、出版社が火災にあい、在庫が焼失したために、その著作がほとんど市場に出回っていないという伝説的な作家だった。さらには、残りの本を、死神を思わせる風貌の男が、探し出しては焼き払っているという噂もあった。第二次大戦の戦火の残るバルセロナの街で、長じてキャラックスの生い立ちを追う少年のまわりにも、その妖しい影がつきまとうようになる……。なにやらアルトゥーロ・ペレス・レベルテの『呪のデュマ倶楽部』の向こうを張った、おどろおどろしいビブリオ・ミステリの雰囲気だが、実際は、メランコリックな少年の成長の物語に、エキセントリックな脇役を配した意外にコミカルな作品で、中心となるのは二重写しとなったキャラックスと少年のそれぞれのラヴ・ストーリーである。

    ゴシックな冒頭から本格派のミステリを期待すると肩透しを食らうかもしれない。ボルヘスやウンベルト・エーコが引き合いに出されているが、幻想もの、伝奇ものというよりは、明と暗のバランスの取れた、良質の歴史ものの趣である。特筆すべきは戦後のバルセロナという背景で、そのゆったりとした雰囲気にひたるだけでも一読の価値がある。大時代的なロマンスを彷彿とさせる、いい意味でのヨーロッパ的な大衆小説であるといえよう。(2005/03/13)

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    Monday, August 08, 2005

    2005 Hugo Awards Winners

    グラスゴーで行われていた第63回ワールドコン InterAction で、8月7日、今年のヒューゴー賞が発表されました。詳細はこちら

    NOVEL

    • Jonathan Strange & Mr Norrell, Susanna Clarke (Bloomsbury)

    NOVELLA

    • "The Concrete Jungle", Charles Stross (The Atrocity Archives, Golden Gryphon Press)

    NOVELETTE

    • "The Faery Handbag", Kelly Link (The Faery Reel, Viking)

    SHORT STORY

    • "Travels with My Cats", Mike Resnick (Asimov's Feb 2004)

    RELATED BOOK

    • The Cambridge Companion to Science Fiction, Edward James & Farah Mendlesohn, eds. (Cambridge University Press)

    DRAMATIC PRESENTATION: LONG FORM

    • The Incredibles (Walt Disney Pictures / Pixar Animation Studios; Written & Directed by Brad Bird)

    DRAMATIC PRESENTATION: SHORT FORM

    • Battlestar Galactica: "33" (NBC Universal Television / The Sci Fi Channel; Written by Ronald D. Moore; Directed by Michael Rymer)

    PROFESSIONAL EDITOR

    • Ellen Datlow

    PROFESSIONAL ARTIST

    • Jim Burns

    SEMIPROZINE

    • Ansible, David Langford, ed.

    FANZINE

    • Plokta, Alison Scott, Steve Davies & Mike Scott, eds.

    FAN WRITER

    • Dave Langford

    FAN ARTIST

    • Sue Mason

    WEB SITE

    • Sci Fiction, Ellen Datlow, ed.; Craig Engler, general manager

    John W. Campbell Award for Best New Writer [Not a Hugo]

    • Elizabeth Bear

    Special Interaction Committee Award [Not a Hugo]

    • David Pringle

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    Sunday, August 07, 2005

    Specimen Days, by Michael Cunningham

    Specimen Days歴史小説の19世紀、ポスト 9/11 のスリラー、SF的な 150年後の未来と、3つの時代のニューヨークを舞台にした連作風の長編ということで、デイヴィッド・ミッチェルの Cloud Atlas 再びを期待したんですが、ううむ、全体にメランコリックな雰囲気が漂い、ところどころ惹かれるシーンもあるんですが、トータルとしてみた場合、なんかインパクトが弱いですね。

    第1のパート "In the Machine" が語るのは、手仕事の機械化が進む19世紀半ばのニューヨーク。プレス機に押しつぶされて死んだ兄サイモンの跡を継いだホイットマンにかぶれる少年ルーカスは、機械に閉じ込められた兄の声を聞き、兄の元婚約者キャサリンを救うため思い切った行動に出ます。

    第2のパート "The Children's Crusade" では、現代を舞台に、ヘルプ・ラインを受け持つ刑事キャットが、ホイットマンを口にしながら自爆テロを繰り返す少年集団の謎に迫ります。キャットの恋人はサイモンで、亡くした息子の名前ルークは、保護したテロリストの少年に引き継がれるという設定。

    第3のパート "Like Beauty" は、外国人相手のテーマパークと化した150年後のニューヨークが舞台。トカゲ風の異星人が底辺労働者として社会を支えています。宇宙探査用に開発されたアンドロイドのサイモンは、子守りをするトカゲ女カタリーンと出会い、追っ手をかわして、生みの親の科学者がいるデンバーを目指します。そこで出会った神がかりな少年の名はルーク。

    統一して流れるテーマは、非人間化の進む文明社会で、人間性を保持することの痛みなんですが、ホイットマンに代表される古きよきアメリカへの回帰というモチーフがなにやらいびつで、どうもピンとこないですね。まあホイットマンの位置付けは、自然回帰に理想を求めたなんていう安易なものではなく、文明社会に警鐘を鳴らした思想家ということなんでしょうけど。それぞれのパートに、ホイットマン自身と、その代替の老人が出てきて、ストーリーの転機となる重要な役割を担うんですが、ううむ、なにやらどれも胡散臭い(笑) ホイットマンについてそれなりに知識がないと十分楽しめないのかもしれません。

    なにやら安易にすぎる第1のパートに比べ、かなりホラー風味の効いた第2のパートは期待を持たせるんですが、第3のパートのSFは、出来そこないの「ブレードランナー」と昔のブラッドベリを掛け合わせたような雰囲気で、これでユーモアでもあればまだしも、基本的にメランコリックなトーンで統一されてて、なんか中途半端ですね。もう少し深く抉るか、しみじみと読ませてくれたら、なかなかの作品になったのかもしれませんけど。

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    Edinburgh International Book Festival

    エディンバラ国際ブックフェスティバルが、8月13日から29日までエディンバラのシャーロットスクエア・ガーデンで開催されます。

    作家自身によるリーディングやディスカッションを始めとして、650以上ものイヴェントがあるそうですが、今年登場する顔ぶれも、サルマン・ラシュディ、マーガレット・アトウッド、イアン・ランキン、ジョン・アーヴィング……と、すごいですね。個人的には WAKE UP TO WORDS というモーニング・リーディング・イヴェントの、ミッシェル・フェイバー&ミック・ジャクソンの回がとっても気になります(このペアにはどういう共通点が?)。

    昨年のリーディングの模様はアーカイヴで見ることができます。

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    Saturday, August 06, 2005

    The Planets, by Dava Sobel

    The Planets太陽と太陽系の各惑星を、様々な視点から描いたエッセイ集だそうです。天文学、神話、SFから美術、音楽、詩、伝記から歴史まで、惑星にまつわるエピソードを、自然科学から芸術に至るいろいろな文化的側面から持ち込んだもののようですね。大きなテーマに対するアプローチの気宇壮大なところが期待を持たせます。

    しかしでも、太陽系といえば、どうやら10番目の惑星がみつかったようですね。来年あたり、ペーパーバック版が出るときに、そのあたりは増補されるんでしょうか。それとも、75年ぶりの隠し子発見ということで、The 10th Planet: Private Life なんていう暴露本が出るんだろうか^^) どんな名前が付くのか楽しみですね。

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    Color of Pomegranates/Legend of Suram Fortress/Achik Kerib by Sergei Parajanov

    parajanov DVDの話題が出たので、私のお薦めはこれ! 昨年待望のDVD化が実現した故セルゲイ・パラジャーノフの3作品です。この話をしてもいつもシカトされてしまうのですが、私は負けません(ホントにいいんです~)。

    代表作の『ざくろの色』は、18世紀のアルメニアの詩人サヤト・ノヴァの生涯を彼の詩で綴った物語、『スラム砦の伝説』は陥落しない砦を作るために人身御供を捧げるグルジア伝説、『アシク・ケリブ』は領主の娘と愛し合っているものの、身分違いのため許されない吟遊詩人アシク・ケリブの放浪の物語。遺作となったこの作品は当時既に故人となっていたタルコフスキーに捧げられています。

    パラジャーノフは旧ソ連当局から不当な弾圧を受けて投獄もされ、結局長篇は4作品しか撮っていません。でも、どの作品もほんとうに叙情的で美しいんですよね。セリフはほとんどなく、動きはパントマイム的で、ときどき歌舞伎っぽかったりするのですが、それが民族色豊かなエキゾチックな雰囲気の中に、とてもうまく溶け込んでいます。思わずこの映像美の世界の中に入り込んでしまいたくなるほど大好きです(浮いちゃいますね)。

    もう1作、初期の作品『火の馬』だけはもっと前にDVDで出ていたのですが、こちらはもう販売終了してしまったようです(私はず~っと前、映画館で見ましたけど)。

    もっと詳しく知りたい方は Parajanov.com へ。

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    Friday, August 05, 2005

    I, Coriander, by Sally Gardner

    I, Coriander最近は共感覚の持ち主の作家とか、自閉症の動物行動学者とか、作品の題材だけでなく、ハンディを持った作家が独特の視点で作品を発表するケースが増えているようですが、この本の作者は失読症(dyslexia)だそうです。

    失読症というのは、言語を音で認識する限りにおいては何等問題ないのに、文字を音や意味と結びつけることができないという遺伝性の疾患で、イギリスでは軽度の人を含めると約10%、重度の場合は4%の人がこの障害を持つとのこと。まあ言語はあくまで音だという認識に立てば、決して障害と見なすべきではないのでしょうが、不便であることには変わりないでしょうね。ちなみに、言語によって文字表現の方法が異なるので、失読症の影響も一様ではないようですけど。

    作者のサリイ・ガードナーは、もともとの名前は "Sarah" だったそうですが、それがどうしても綴れないため、なんとか書くことができる "Sally" に変えたそうです。舞台美術が本職で、絵本を手掛けたことから今回児童書へと手を広げたそうですが、「バービーの便座」みたいなマッキントッシュを使うようになって文章をまとめることができるようになったんだとか。

    文字に図案のような反応を示すという作者が書いた作品は、17世紀のイギリスを舞台に、虐げられた孤児の少女が異世界を訪れるという、トラディショナルな妖精物語の雰囲気だそうで、なんかちょっと期待ですね。

    作者の詳しい背景は Guardian Unlimited のこの記事で。

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    Galveston, by Sean Stewart

    Galvestonそれじゃあわたしはお気に入りのショーン・スチュアートの 2001年度の世界幻想文学大賞受賞作を。まあこの作品よりも Mockingbird のほうが好きなんですが。


    テキサス州ヒューストンの近くにガルヴェストンという島がある。ここは、1900年のハリケーンでほとんど全島が高波に飲み込まれるほどの被害にあい、数千人の溺死者を出した過去を持つ。浜に打ち上げられた死体に錘をつけて水葬に付したところ、翌日にはみな島に戻ってきてしまい、やむなく行った火葬の臭いが、その後何年間も全島に漂っていたという。

    2004年、ガルヴェストンに再び大洪水が押し寄せた。だが、今回島を飲み込んだのは海水ではなく、再びこの世界に戻ってきた古の魔法であった。ノアの洪水のように全世界を覆った魔法の力は、世界各地に大きな変化をもたらした。ミノタウロスが跋扈し、エビ人間が跳梁する中、肉体的にも精神的にも魔法の影響を受けた人々は、崩れ行く20世紀の科学技術と神話的世界の狭間で、新しい秩序への順応を余儀なくされていた。他の地域の様子は、作者の既刊 Ressurrection Man と The Night Watch に詳しい。

    さて、この魔法の洪水に対して、なんとか島の秩序を守ろうとする一握りの人々がいた。後に市長となった女丈夫ジェイン・ガードナーと、自らも少々の魔法をこなす「エンジェル」のひとりオデッサ・ギボンズである。オデッサの力により魔法は押しとどめられ、ジェインの努力により全島の半分では文明世界が維持されていた。だが、残りの半分は、ジェインの夫でもある月の神、モーマスが支配する、絶えることなくマルディ・グラが続く魔法の世界へと変わっていた。

    数十年が経て、微妙なバランスで維持されてきたガルヴェストンに、破滅の影が忍び寄る。市長のジェインが病に倒れ、オデッサでもコントロールしきれない異変が頻繁に現われるようになったのだ。主人公のひとり、ジェインの娘であるスローンは、後継ぎとしての責任が自分に降りかかることを危惧しつつ、島の救済を義父であるモーマスと交渉することを決意する。ギボンズの助けにより、仮面をかぶり別の人格スライを身につけたスローンは、もうひとつのガルヴェストンへとすべりこむ。「母の死を目にしたくない」というスローンの願いをモーマスは快諾するが、例のごとく願いは曲解されて実現した。悲嘆に暮れるスローンは放縦なスライとなって、マルディ・グラの支配する闇へと沈む。

    一方、この事件は、もうひとりの主人公であるスローンの幼馴染、ジョシュ・ケインに思わぬ不運をもたらした。父がポーカーで家屋敷を失い、もうひとつのガルヴェストンへと消え去って以来、ジョシュは不運続きだった。薬局を営む母はインシュリンが底をつくとともに苦しみぬいて死に、後を継いだジョシュは消え行く医薬品を薬草で補いながら、頑なな店主として孤立を深めていた。

    スローンが消えた夜、たまたま薬局を訪れていたことから、殺人犯として告発を受けたジョシュは、全島会議で追放を宣告され、最後まで擁護にまわったただ一人の友、ハムとともに島から去る。ガルヴェストンを出て陸地へと向かった二人を待ちうけていたのは、ハリケーンや毒蛇、マッド・マックスもかくやと思われるヒッピーの食人種という地獄の日々。一方、ハリケーンの到来とともにガルヴェストンは再び崩壊の危機にみまわれる……。

    混乱を通して描かれるのは、再び島の秩序を取り戻そうとする人々の姿である。現実に直面して、スライとスローンのふたつの人格を統合し、再建に奔走するスローン、プライドを捨て人々を治療してまわるジョシュ。ボーイ・ミーツ・ガールの物語は意外なツイストを見せながら二人の心理的な成長へと昇華される。また、全編に登場するポーカーのシーンは、常に読者の望まぬ結果に終わるが、作者は運命に翻弄されながらも前向きに生きる人々を描いていく。

    1965年生まれのショーン・スチュアートには既に7作の著作がある。魔法がこの世界に戻ってきたというSF的改変世界風の共通設定の作品の他に、マジック・リアリズムや米南部の雰囲気、神話的要素や古典的なファンタジイの香りを自在に操りながら独自のアーバン・ファンタジイを書き続けている。亡き母の影響から逃れようとする姉妹の心理的葛藤を、ヴードゥーをモチーフにマジック・リアリズム風に描いた前作の Monckingbird も素晴らしい作品で、世界幻想文学大賞とネビュラ賞の候補となった。カナダ育ちだが生まれはテキサスで、現在はヒューストン在住だという。(2001/11/11)

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    Thursday, August 04, 2005

    "Towing Jehovah" by James Morrow

    towing_jehovah 世界幻想文学大賞受賞作、怒りの(?)未訳本の話題に便乗して、ジェイムズ・モロウの Towing Jehovah を簡単にご紹介しましょう。

    これって、1995年に世界幻想文学大賞を受賞したのに、ぜんぜん翻訳が出る気配がないんですよね~。なぜでしょう? 人口に占めるクリスチャンの割合が1%未満の日本で、ローマ・カトリックを痛烈に批判したこの作品が正しく理解されるか疑問符はつきますが、それでもすごくいい作品なので是非とも翻訳を出して欲しいです。

    ニーチェの「神は死んだ」は概念的なものでしたが、実際に全長2マイルもある神様の死体が海にぽっかり浮いているのがこの作品。死因は不明ですが、そんなこと究明する時間的余裕はありません。神の不在を世間に知られては大変なことになるし、第一このままでは腐敗が進んで海洋汚染につながる懸念が。そこで(ぜんぜん天使っぽくない)大天使ラファエルが主人公ヴァン・ホーンのもとを訪れ、神の亡骸を秘密裏に北極の墓所までタンカーで牽引する仕事を依頼します。過去にタンカーのオイル漏れ事故を起し、それを悩み続ける元船長は、迷ったあげくそれを引き受けることにします。

    こうして再び海に乗り出し、無事責務を果たすというのがメインプロットなのですが、その間のドタバタ劇に、シニカルな合理主義者モロウの本領が発揮されています。道徳的規範の拠り所の「神」を失ったと知って右往左往する船員たちに対し、同船した教会関係者たちの意外に冷静な態度などがいい例ですね。また、航行自体も順調にはいかず、遭難しているところを救助されたダーウィニストの女性、第2次世界大戦ごっこの同好会、途中で方針を変えたヴァティカンなどの邪魔が入って、結構トンデモなスラップスティックになっています。主題の重さとは裏腹に気軽に楽しめる本です。

    「神を殺すなんて不道徳な」と憤慨する人もいるでしょうが、モロウが殺したのは、ローマ教会が長い歴史の中、虚飾で飾り立てて巨大化させた張りぼての神様(または教会組織)の象徴なんですよね。最後に子供に「神様っているの?」って聞かれたときの父親の反応に、モロウの宗教観がよく現れていると思います。航海日誌という物語形式にして、ちょっとしたエクスキューズとしているところは賢いですね~。作者が望んでいるのは教会との対立ではないんです。

    ほかに「贖罪」や「父と子の対立と和解」というテーマも盛り込まれていて、内容的にはけっこう深いのですが、ほんとうに楽しく読めるんです(人によっては、悪のりしすぎとか、グロテスクと感じる部分があると思いますが)。モロウの他の作品にも言えますが、最後がすごく暖かい雰囲気で終わるところも気に入っています。

    もし翻訳を出すとしたら、タイトルはそのまま『神の曳航』でしょうか。「栄光」を失った神を、引きずり回しちゃうということで、ぴったりかと。

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    世界幻想文学大賞

    Declareは何故翻訳されないのかという憤懣やるかたない気持ちに駆られて、1990年以降の幻想文学大賞Novel部門の受賞作および翻訳状況をまとめてみました。

    1990
    Lyonesse: Madouc ジャック・ヴァンス(Jack Vance)
    1991
    『吟遊詩人トーマス』 Thomas the Rhymer エレン・カシュナー(Ellen Kushner)
    Only Begotten Daughter ジェイムズ・モロウ(James Morrow)
    1992
    『少年時代』 Boy's Life ロバート・R・マッキャモン(Robert R. McCammon)
    1993
    Last Call ティム・パワーズ(Tim Powers)
    1994
    『グリンプス』 Glimpses ルイス・シャイナー(Lewis Shiner)
    1995
    Towing Jehovah ジェイムズ・モロウ(James Morrow)
    1996
    『奇術師』 The Prestige クリストファー・プリースト(Christopher Priest)
    1997
    Godmother Night レイチェル・ポラック(Rachel Pollack)
    1998
    『白い果実』The Physiognomy ジェフリイ・フォード(Jeffrey Ford)
    1999
    The Antelope Wife ルイーズ・アードリック(Louise Erdrich)
    2000
    『魔術探偵スラクサス』Thraxas マーティン・スコット(Martin Scott)
    2001
    Declare ティム・パワーズ(Tim Powers)
    Galveston ショーン・スチュアート(Sean Stewart)
    2002
    『アースシーの風』The Other Wind アーシェラ・K・ル・グイン(Ursula K. Le Guin)
    2003
    The Facts of Life グレアム・ジョイス(Graham Joyce)
    『影のオンブリア』Ombria in Shadow パトリシア・A・マキリップ(Patricia A. McKillip)
    2004
    『アゴールニンズ』Tooth and Claw ジョー・ウォルトン(Jo Walton)

    17作品中翻訳が出たのは9作品。しかもプリーストやフォードの翻訳が出たのはつい最近のことなので、「受賞後数年以内に翻訳が出た」という条件なら打率50%を切ってます。意外に低いですね。
    ジョイスはまあそのうち訳されるでしょうけど、ジャック・ヴァンスやジェイムズ・モロウは完全に見捨てられちゃってる感じ。パワーズは2作も受賞してるのに無視されて可哀相すぎです。

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    Wednesday, August 03, 2005

    Les Triplettes de Belleville

    ベルヴィル・ランデブーわ~、予約してた DVD が着いたので、まだ見るつもりじゃなかったのに見てしまった! そうです、Lilith さんによれば「ベルヴィル・ランデヴー」か「ベルビル・ランデブー」じゃなきゃおかしい「ベルヴィル・ランデブー」です。いやでも、このタイトル、ぜったいナンセンス。やっぱり「ベルヴィルの三つ子」じゃないと。

    ツール・ド・フランスの最中に誘拐された孫を追って、スーザばあさんと肥満犬のブルーノが、足漕ぎボートで怪しい大都会ベルヴィルへ乗り込むんですが、そこで出会ったのがいにしえのキャバレーの三つ子のヴォーカリスト。いや~、この三つ子がまるでマクベスの三人の老婆なんですね。あとはもうプッツンのアクション・シーンの連続で、クライマックスはド派手なカー・チェイスですよん^^)

    大胆さと繊細さが入り混じった映像は素晴らしいですね。印象的なシーンがちょこちょこ出てきて、あれ、これってモーツァルト? と思ったら、ふむ~、大ミサのキリエが使ってありました。いや~でも、ひょこっと終わってしまうところがなんかフランスらしいぞ。

    ええと、カエル虐待のシーンが山ほどありますので(これって自虐的笑い?)、カエル愛護協会の方は避けたほうがよろしいですけど。ノスタルジイとアヴァンギャルドが同居したノリノリのスラップスティックがお好きな方は必見です(って、見てなかったのはわたしだけですか)。大満足^^)

    コレクターズ・エディションを買うと付録がついてますよん。高いけど。オフィシャル・サイトはこちら

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    Tuesday, August 02, 2005

    Fantasy Magazine

    fantasyプライムから、ファンタジー・マガジンが発刊されるみたいです。その名も Fantasy Magazine!(って、そのまんまです~)。ヴァンダーミア、ティム・プラットらが寄稿するもようですが、詳細はまだ不明です。

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    "Secret Lives" by Jeff VanderMeer

    secret_lives Secret Lives は、昨年発売された短編集 Secret Life の関連企画です。ヴァンダーミアの知り合いの書店を通して Secret Life を購入し、その際、自分の職業や趣味について一筆添えれば、ヴァンダーミアが各自の知られざる生活を捏造して、それぞれに送り返してくれるという仕組み。作家が自分ひとりのためにショート・ショート・ストーリー(サインつき!)を書いてくれるなんて、狂喜しちゃいますよね。ま、どんなヒミツの生活をでっちあげられるのか考えると、恐ろしい気もしますが。

    で、70人ほどの応募者のアヤシイ(?)生活を1冊にまとめたのがこの本です。装幀も凝っているようなのでとっても楽しみ。とは言っても、今年2月発売予定だったのが、原稿の遅れによって発売日が延びに延びて、来年になりそうな雲行きです(アマゾンでは「3~5週間」になっていますが間違いです)。書いているうちに、ひとりひとりのストーリーがどんどん長くなって、内容が濃くなっているということなので、期待しながらじーっと待ちましょう。

    詳細は Prime Books のサイトをご覧下さい。

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    Declare, by Tim Powers

    Declareus hc: 0380976528
    us pb: 0380798360


    ついでにレヴュウも出しちゃいましょう。


    二十世紀最大のスパイといわれるキム・フィルビー。学生時代に共産主義に傾倒し、第二次大戦中は英対外情報部MI6で対ソ作戦を指揮する傍ら、内部情報をソ連側に提供。戦後の冷戦期は在米英国大使館の一等書記官として、米国の機密情報にも接する。1951年には元同僚のソ連への亡命で関与を疑われるが、その後もジャーナリストとして活躍し、1963年に捜査の手が迫ると察するや、自らも亡命を成功させる。

    その虚偽に満ちた二重生活、複雑な人物像、および生涯を彩る謎の数々は、多くの作家・研究者の関心を引きつけてやまず、ジョン・ル・カレやグレアム・グリーンも、彼をモデルとした作品を手がけている。

    さて、ル・カレの熱心な読者だというパワーズが、フィルビーとその時代を題材にしながら、一風変わったスパイ小説を著した。背景の史実を忠実に再現しながら、その隙間をファンタジイ的な要素で埋め、フィルビーの生涯と東西の冷戦構造に独自の視点から光を当てた、パワーズならではの異色作である。

    1963年、英文学の講師を務めるアンドリュー・ヘイルは、大戦中の符牒を使った呼び出しの電話を受ける。それは15年前に、大量の死者を出したアララト山での悲劇、オペレーション・デクレアの再開を告げる、かつての上司からのものだった。

    ヘイルの半生には常に中東とフィルビーの影がつきまとっていた。カトリックの布教に赴いた尼僧を母に、パレスチナで生まれたヘイルは、父を知らず、英情報局の要職にある名付け親に見守られ成長した。1942年、若きヘイルは、ナチス・ドイツの占領下にあるパリで、工作員としての第一歩を踏み出す。そこでは、共産主義こそ私の夫だと言い張る、スペイン人活動家エレーナとの運命的な出会いが待っていた。任務を終えロンドンへと帰還したヘイルは、背信を疑うフィルビーと対峙し、やがては人知を超えた謀略へと巻き込まれていく。

    時は下って1945年。新たな指令のもと終戦直後のベルリンを訪れたヘイルは、焼跡の酒場で再びエレーナと遭遇する。だがそこにもフィルビーの目が光っていた。ベルリンでは、今まさに、東西を隔てる壁の第一歩となる礎石の埋設が行われようとしていた。物陰からその様子を見守るヘイルとエレーナは、礎石に憑りついた魔物に襲われ、命からがらその場を逃げ出す。

    次第にヘイルはソ連を守護する超自然の力の存在と、フィルビーの野望、そして、自らの出生の謎が緊密に絡み合っていることを発見していく。さらに、各国の諜報機関を隠れ蓑に、太古の精霊の存続と撲滅をめぐり暗闘を繰り返す秘密組織の存在も浮かび上がる。アラビアのロレンスの突然の事故死も、スターリンの狂的な血の粛清も、すべてはこの秘密に端を発していたのだ。物語はヘイルを中東各地へと誘いながら、ベドウィンに紛れて向かう砂漠の中の幻の古代都市、クルドの民に伝わる不老不死の妙薬といった、アラビアン・ナイトさながらのエピソードを交え、旧約聖書の時代からアララト山に巣くう魔物の群れとの二度に亙る対決へと収斂していく。

    『奇人宮の宴』や『アヌビスの門』といった、80年代前半の作品で見せたSFへの傾倒と饒舌な作風から、スチームパンクの代表選手という印象を引きずるパワーズだが、90年代のLast Callに始まる三部作では、現代を舞台にフィッシャー・キングの世代交代を描き、より精緻なダーク・ファンタジイへと創作の幅を広げた。そして、史実の狭間に壮大な異世界を構築した今回の作品では、作者は重厚な伝奇ものの分野に一歩足を踏み出している。じつはこの形式は、バイロンとシェリーの南欧紀行に吸血鬼伝説を絡ませた89年の『石の夢』で既に試みられたものだが、10年を経たパワーズの筆は、単なるファンタジイにとどまらず、時代の雰囲気を濃厚に漂わせた、歴史小説の風格を醸しだしている。

    さて、パワーズの物語は1991年のソ連邦の解体をも作品の仕掛けの一部として使っているが、現実のフィルビーは、「祖国」の崩壊を目にすることなく、1988年にその「英雄」としての生涯を閉じた。ひとつの時代の終りとともに、ある種のロマンが過去の世界に閉じ込められてしまったことに、感慨を抱いた人も多かったに違いない。

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    Monday, August 01, 2005

    Strange Itineraries, by Tim Powers

    Strange Itinerariesティム・パワーズの話題が出たところで、ちょうど短編集が発売されましたんでポストしておきます。ん百ドルのビブリオよりははるかに価値がありますよ(<負け惜しみ)。基本的に長編がメインの作家なんで、ブレイロックあたりと時々ヘンな作品集は出してますが、ちゃんとした短編集はたしかこれが初めてのはず。アヒルさんの絵もかわいいので(なんでここにアヒルが出てくるんだろう?)、みんな買いましょう。

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    Tim Powers' Compendium

    パワーズのサイトによると、暫定的なタイトルが "SECRET HISTORIES : BEHIND THE WORKS OF TIM POWERS"  だそうで、PS Publishing のアナウンスを見るとなにやらスゴそうです(値段もスゴイです)。ティム・パワーズ・ファン、必携本でしょうね。初期の未完の作品が、150部限定のデラックス版にだけついてくるという差別化もスゴすぎます。どんな内容なのか興味ありますね~。身近に買う人いるのでしょうか?

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    Gil's All Fright Diner, by A. Lee Martinez

    Gil's All Fright Dinerなにやら「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」を意識したみたいな表紙ですが、こちらも楽しいホラー。ただし、デビュー作とはいいながら、かなりジャンルに精通した人のようで、細部の書き込みもしっかりしていて、全体のまとめ方も手馴れた感じです。

    ライバルに対する嫉妬から古き神を甦らせてしまおうとする女の子 Lilith(!)と、図らずもゾンビーの群れを撃退する羽目になった人狼とヴァンパイアのコンビが、終夜営業のダイナーを舞台にスラップスティックな戦いを繰り広げるんですが、キャラクターがなかなか魅力的。頼りになる人狼と、なにやらトホホなヴァンパイアの取り合わせはけっこう行けてます。アブナいティーン・エイジャーの Lilith は「アダムズ・ファミリー」のおでこちゃんのイメージですね。

    ヴァンパイアと墓地を守る幽霊のロマンスとか、やわらかいところも工夫されてるんですが、クライマックスの戦いの、おお、とうとう出てきちゃったよの部分は大掛かりで、しっぽまでちゃんとアンコの詰まった作品になってます。軽く見せながらやるべきことはしっかりやっている玄人好みの作家といえるかも。ジェイムズ・ストダードや、最近ではジム・ブッチャーあたりに近いノリですね。この人狼とヴァンパイア(+α)のコンビ、まだまだ不運を呼び寄せそうな感じですので、今後も楽しめるシリーズになりそうです。

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    The New Policeman, by Kate Thompson

    The New Policeman児童書とはいえ、アイルランドを舞台にしてこのタイトルでは、quark さんの目を引きそうですが、やっぱり内容的には関係なさそうです^^) までも、もちろんフラン・オブライエンの『第三の警官』を意識したタイトルでしょうけど。ちょっとズレた現実感の希薄な描写と、メランコリックな雰囲気は、通じるところがあるといえばそうかもしれませんね。作者のケイト・トムスンはヨークシャー出身ということですが、ゴールウェイ在住で、アイルランドで作家活動をしているようです。

    さて、肝心の、突然ぽっと現われた新任警官ですが、パブに入り浸ってはフィドルをかき鳴らしているだけで、う~む、最後までそれだけというのはかなり大胆な設定かも。までも、主人公は15才のフィドルの名手の少年なので、メインのストーリーのほうはちゃんと進みます。

    神父を殺したのではないかと噂される、笛作りの名手を祖父に持つ主人公は、最近、毎日時間がないと嘆いばかりいる母親の誕生日に、時間を送ろうと決心します。詮索好きな隣人にそそのかされた少年は、町の片隅に残る塚の地下室から、最近ではほとんど人の行き来のないティル・ナ・ノグへと足を踏み入れる羽目に。ところが、永遠の若さを保証する、時が止まった世界であるはずの妖精郷では、わずかながらとはいえ、時間が流れているのでした。

    そう、この世界からティル・ナ・ノグに時間が流出していたんですね。ということで、時間の漏れ出している裂け目を探す少年は、ティル・ナ・ノグで出会った奇妙な面々と、祖父の代から続く因縁に立ち向かうことになります。ふ~む、ミヒャエル・エンデの『モモ』みたいな話ですね。いやでも、緊迫感とはほど遠い、この力の抜けたのんびりした展開は、なかなか得難いかも。ごく短い章立てで、各章の末尾には、内容に関連したアイルランドのトラッド・ミュージックの楽譜が添えられているんですが、楽譜の読めないわたしとしては、CDの付録が欲しかったですね(笑)

    で、新任の警官はどうしたかというと……あれ? どうしちゃったんだろう? な~んにもしないで消えちゃいましたね。やっぱりフラン・オブライエンの世界かも。

    P.S. quark さん作成の作中の曲 The New Policeman の midi ファイルをどうぞ^^)

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    Tainaron, by Leena Krohn

    Tainaronワールド・ファンタジイ・アワードのノヴェラ部門の候補に挙がっているフィンランドの作家レーナ・クルーンの Tainaron ですが、すでに『ウンブラ/タイナロン』として邦訳があり、作者は講演で日本を訪れたこともあるようですね。ちなみに英訳はウェブでも公開されてます。う~ん、むちゃくちゃお得。けど、手元に置いておきたくなるような本ですよ。

    虫が住人の街タイナロンを訪れた語り手が、知人に送った手紙という形式で語られる連作掌編集は、カルヴィーノの『見えない都市』や、アラン・ライトマンの『アインシュタインの夢』を思わせるような、奇妙なイメージと文明論的な思索、静かな情感が味わえます。

    個人的にお薦めなのはこちらの Sphinx or Robot のほう。ジュヴナイルということで、主人公の少女が毎回奇妙な出来事に出会う連作短編ですが、どうしてどうして、けっして安易な寓話には流れない奥の深い作品になってます。題材がバラエティに富んでますので、タイナロンよりはカラフルで、最初に読むにはこちらの方が向いているのではないでしょうか。マグリットふうの挿絵(?)もなかなかです。

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