Galveston, by Sean Stewart
それじゃあわたしはお気に入りのショーン・スチュアートの 2001年度の世界幻想文学大賞受賞作を。まあこの作品よりも Mockingbird のほうが好きなんですが。
テキサス州ヒューストンの近くにガルヴェストンという島がある。ここは、1900年のハリケーンでほとんど全島が高波に飲み込まれるほどの被害にあい、数千人の溺死者を出した過去を持つ。浜に打ち上げられた死体に錘をつけて水葬に付したところ、翌日にはみな島に戻ってきてしまい、やむなく行った火葬の臭いが、その後何年間も全島に漂っていたという。
2004年、ガルヴェストンに再び大洪水が押し寄せた。だが、今回島を飲み込んだのは海水ではなく、再びこの世界に戻ってきた古の魔法であった。ノアの洪水のように全世界を覆った魔法の力は、世界各地に大きな変化をもたらした。ミノタウロスが跋扈し、エビ人間が跳梁する中、肉体的にも精神的にも魔法の影響を受けた人々は、崩れ行く20世紀の科学技術と神話的世界の狭間で、新しい秩序への順応を余儀なくされていた。他の地域の様子は、作者の既刊 Ressurrection Man と The Night Watch に詳しい。
さて、この魔法の洪水に対して、なんとか島の秩序を守ろうとする一握りの人々がいた。後に市長となった女丈夫ジェイン・ガードナーと、自らも少々の魔法をこなす「エンジェル」のひとりオデッサ・ギボンズである。オデッサの力により魔法は押しとどめられ、ジェインの努力により全島の半分では文明世界が維持されていた。だが、残りの半分は、ジェインの夫でもある月の神、モーマスが支配する、絶えることなくマルディ・グラが続く魔法の世界へと変わっていた。
数十年が経て、微妙なバランスで維持されてきたガルヴェストンに、破滅の影が忍び寄る。市長のジェインが病に倒れ、オデッサでもコントロールしきれない異変が頻繁に現われるようになったのだ。主人公のひとり、ジェインの娘であるスローンは、後継ぎとしての責任が自分に降りかかることを危惧しつつ、島の救済を義父であるモーマスと交渉することを決意する。ギボンズの助けにより、仮面をかぶり別の人格スライを身につけたスローンは、もうひとつのガルヴェストンへとすべりこむ。「母の死を目にしたくない」というスローンの願いをモーマスは快諾するが、例のごとく願いは曲解されて実現した。悲嘆に暮れるスローンは放縦なスライとなって、マルディ・グラの支配する闇へと沈む。
一方、この事件は、もうひとりの主人公であるスローンの幼馴染、ジョシュ・ケインに思わぬ不運をもたらした。父がポーカーで家屋敷を失い、もうひとつのガルヴェストンへと消え去って以来、ジョシュは不運続きだった。薬局を営む母はインシュリンが底をつくとともに苦しみぬいて死に、後を継いだジョシュは消え行く医薬品を薬草で補いながら、頑なな店主として孤立を深めていた。
スローンが消えた夜、たまたま薬局を訪れていたことから、殺人犯として告発を受けたジョシュは、全島会議で追放を宣告され、最後まで擁護にまわったただ一人の友、ハムとともに島から去る。ガルヴェストンを出て陸地へと向かった二人を待ちうけていたのは、ハリケーンや毒蛇、マッド・マックスもかくやと思われるヒッピーの食人種という地獄の日々。一方、ハリケーンの到来とともにガルヴェストンは再び崩壊の危機にみまわれる……。
混乱を通して描かれるのは、再び島の秩序を取り戻そうとする人々の姿である。現実に直面して、スライとスローンのふたつの人格を統合し、再建に奔走するスローン、プライドを捨て人々を治療してまわるジョシュ。ボーイ・ミーツ・ガールの物語は意外なツイストを見せながら二人の心理的な成長へと昇華される。また、全編に登場するポーカーのシーンは、常に読者の望まぬ結果に終わるが、作者は運命に翻弄されながらも前向きに生きる人々を描いていく。
1965年生まれのショーン・スチュアートには既に7作の著作がある。魔法がこの世界に戻ってきたというSF的改変世界風の共通設定の作品の他に、マジック・リアリズムや米南部の雰囲気、神話的要素や古典的なファンタジイの香りを自在に操りながら独自のアーバン・ファンタジイを書き続けている。亡き母の影響から逃れようとする姉妹の心理的葛藤を、ヴードゥーをモチーフにマジック・リアリズム風に描いた前作の Monckingbird も素晴らしい作品で、世界幻想文学大賞とネビュラ賞の候補となった。カナダ育ちだが生まれはテキサスで、現在はヒューストン在住だという。(2001/11/11)
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Comments
そういえば Mockingbird、ずっと前に注文したバーゲン本がまだ届きません。なにげに昔のカバーをアマゾンで拡大して見たら、"Stephen King meets Ibsen. Trust me." なんていうニール・スティーヴンスンの言葉が……。
"Galveston" の月と仮面の表紙もなかなか風流でいいですね。しかし、エビ人間って……。
Posted by: Lilith | Friday, August 05, 2005 at 22:07
Stephen King + Ibsenですか……
人形の家に閉じ込められて、ミザリーが出してくれないんでしょうか。ちょっと怖すぎます。
そういや海老ボクサーってのがありましたねぇ。
Posted by: quark | Friday, August 05, 2005 at 22:52
う~ん、あんまりホラーではないんですが、亡くなった母の影響力から逃れようとする姉妹の葛藤がほんとにうまく描かれてます。そんなところがイプセンなんでしょうか。
エビ人間はね~、出てくるだけでとくになにもしなかったような。いやでも、ハサミにグローブをかぶせてしまうのはかなりの虐待なのでは?
Posted by: a nanny mouse | Saturday, August 06, 2005 at 23:23