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Thursday, July 21, 2005

"The Empire of Ice Cream" by Jeffrey Ford

scifiction
 バースデイ・ケーキのろうそくを吹き消す――この匂いはヴァイオリンのバス音。ギターの旋律は金色の雨になって目の前を降り注ぐ。数字の八は萎れた花みたいに臭い……。主人公ウィリアムのように、匂いを聴き、音を見、映像を嗅ぐ者を、共感覚者と呼ぶ。これは、ある刺激に対応する本来の感覚に副次的な感覚が伴う現象で、百万人に九人がそんな能力の持ち主だという。

 幼い頃、妙なことを口走るウィリアムは、心理学者や精神科医のもとを連れ回され、教育も家で受けたため友人がいなかった。十三歳のとき初めて親の目を盗んで行ったのが、少年少女の溜まり場になっているアイスクリーム屋だ。彼は疎外感を味わいながら、カウンターでコーヒーアイスクリームを注文する。コーヒーは、身体に悪いと医者から禁止されていた。勇気を出して二匙を口に運ぶ。すると突然現れたのがアンナだった。共感覚で見えるのは、ふつう抽象的な形や色だけだ。だが、その後も苦手なコーヒーを口に含んでいる束の間、彼はアンナの姿を見ることができた。

 共感覚者への理解が進むと、音楽的才能に恵まれたウィリアムは音楽学校で作曲を学ぶようになる。物語の後半は、彼が取り組む二声のフーガに同調しながら幻想的に語られていく。フーガの主題と応答をウィリアムとアンナになぞらえ、物語をドラマティックに織り成す作者の技法は見事だ。ウィリアムの曲想通りに二人の関係が徐々に複雑化し、緊迫度が高まって渾然一体となり、ついに運命論的結末に至るのを、独特の浮遊感に囚われ、虚無感に包まれながら、スリリングに辿ることができる。fugueは精神医学用語でもあり、要所要所に出てくる書名にもこの文字が隠されている。本筋もさることながら、このような様々な仕掛けや遊び心が読者の想像力を刺激し、結果的に読後にも長く余韻を残す奥行きのある作品に仕上がっている。音楽と絵画的素材によって美しく彩られたこの物語は、共感覚者でないものにも音が聞こえ、絵が見えてくる不思議な魔力を持った秀作だ。(2004.04)

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Comments

The Centrifugal Rickshaw Dancer、まだ買ってませんでした。ちなみに、フォードの大学での創作講座の同僚の William John Watkins が書いた実在の本です。

Posted by: a nanny mouse | Thursday, July 21, 2005 22:29

そういえば centrifugal は私の妄想だったようで……。絶対意図的だと思ってたんですけど~。じゃなかったら、このヘンテコなタイトルの存在理由は一体……。

Posted by: Lilith | Thursday, July 21, 2005 22:42

そういえばフォードが送ってくれた Girl in the Glass の ARC が昨日届いたんでした。読まなきゃ。

けど、ちゃんとした本のほうも 8/1 には出るんですよね。

Posted by: a nanny mouse | Thursday, July 21, 2005 22:42

そうそう、フォードのコメントによれば意識になかったそうです。

"Yeah, all I meant by The Centrifugal Rickshaw Dancer was my freindship with William Jon Watkins. The other stuff you and your friend came up with was, seriously, not in my conscious mind at the time. But I love these things that you guys have found in the story and I appreciate your letting me know about them. Going through a story and, as you say, Easter Egg Hunting (which is a good term for it), is one of the joys of reading."

Posted by: a nanny mouse | Thursday, July 21, 2005 22:51

むむ、もしかしてフォード自身も書きながらフーガの魔力に囚われて、自分でも気が付かないうちにあのタイトルを選んでしまったんじゃないでしょうか。ま、冗談はさておき、ミステリアスな部分がたくさんあるオープンエンドな物語なので、あれこれいろいろな想像ができて楽しいんですよね。Girl in the Glass、そろそろ予約しなくては。ミノちゃんも(表紙はイヤだけど)やっぱり買っちゃう気がします(けど、やっぱりあの表紙は許せないです)。

Posted by: Lilith | Friday, July 22, 2005 21:52

いえいえ、これはフォードの執筆時の姿をリアリズムで描いたものですってば^^)

Posted by: a nanny mouse | Saturday, July 23, 2005 01:15

ぎゃ~、やめてください。その表紙はキライだと言っているのに~。読んだ作品からは、繊細で芸術的センスのある人のはずなんです。

Posted by: Lilith | Saturday, July 23, 2005 21:06

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