"The Book of Flying" by Keith Miller
異世界を舞台としたイニシエーション・ストーリーとまずは呼べるでしょうか。
誰も本を読まない街で図書館司書をしている主人公のピコは、自らも詩を書くナイーブな青年。そんな彼が、翼を持つ少女に恋をし、そして破綻するところから物語は始まります。
この世のどこかに、翼を得る方法を書いた本"The Book of Flying"というものがあるらしい。そんな噂をたよりに、旅に出た主人公が、旅の途上で様々な人と出会い、経験を積み、ついには目的の地にたどり着く……かどうかは、ともかく、昔から延々と繰り返されてきた物語の王道。バンヤンの『天路歴程』、メーテルリンク『青い鳥』から松本零士『銀河鉄道999』まで、みんな同じ話型。こういう話の場合は、いかに魅力的な人物やエピソードを繰り出せるかってとこに、すべてが懸かってるんですが……。
どうも、この本の場合は失敗しているとしか思えません。盗賊団の女首領、橋の管理人をしているミノタウルス、夢を売る女、博物学者の兎、等々、一見それらしい設定ではあるものの、どいつもこいつも印象が薄い。キャラが立ってない。そもそも主人公のキャラが立ってないからして、これではどうにも面白くなりようがない。何だろうこれは……?
Amazon.comの読者評ではマーヴィン・ピークの『タイタス・アローン』に譬えたものもあったけれど、感触としてはパウロ・コエーリョの『アルケミスト』に一番近いかも。ただコエーリョみたいに、思わせぶり象徴的に書くことで、読者に何かしら大切な真理を学んだようにさせるという戦略すら感じられず、どうもこの作者は自分のお気に入りの玩具を並べてみただけのような気もします。
ただ、後半にいくほど上手くなってるのはわかるし、エンディングは意外にしっかりしていて、読後感は悪くない。もう5冊ほど書いたら、いい作家になるかもね。

Comments
そうそう、主人公が全然魅力ないんですよね。気が弱くて、まわりの雰囲気に流されるタイプでしょうか。出だしはとてもいいカンジだったんですけどね~。私はすぐに堪らなくなって放り出してしまいましたが。読後感が悪くなかったとは不幸中の幸いでした。表紙の絵(レメディオス・バロの "Magic Flight" の紛い物)と、中にある作者自身のイラスト(メルヘンチック)のギャップも、すごいものがありますよね。
Posted by: Lilith | Friday, July 22, 2005 at 21:53
長くなるので本文には書きませんでしたが、一番気に入らなかったのは、異世界創造ということに対する著者のルーズさ加減でした。
この本って、翼人間とか、ミノタウルスとか、巨大兎とかが出てくるわけで、我々の住む世界と違う原理が働いていることはわかるわけです。それでも、描かれている都市の風景とかをみると、この種のファンタジーにありがちなヨーロッパ中世がベースになっていることはわかるわけ。中世風の、何処でもない場所、何時でもない時を舞台として設定しているというのは、著者と読者の大前提として了解されているはずなのです。
そうしたなかで、例えばこの著者はラム酒を平気で登場させてしまう。ラムというのは、16-7世紀に植民地経営をはじめたヨーロッパ諸国が、サトウキビ栽培の二次生産物として開発した商品なわけ。きわめて歴史的・地理的に限定されたものであって、無可有郷にあっていいものじゃない。
尽きることのない神秘を炎を描写するシーンが出てくるんですが、そのなかで、「酸素を消費する事がない」というような描写がポンと出てくる。Oxygenというのは公式には1774年にプリーストリによって発見され、名付けられたわけで、きわめて歴史的な物質なのです。中世的な観念のなかで、空中の酸素を消費するというような考えが出てくるはずもない。
主人公の設定が「誰も本を読むことのない街の図書館員」なわけですが、これは非道い。ファンタジー小説に経済観念が欠落しているのは珍しいことではないですが、これはひどすぎ。しかも、彼の図書館には「物語」の本しかないらしくて、どうも児童図書館のようにしかみえない。これでいったいどうやって文明を維持してるんだろう。この殆ど文盲ばかりの人々が船を動かしたり、高い塔を建てたりしてるっていうんだから驚いちゃうよね。ファンタジーだよね。盗賊団は、キャビアと熟成されたチーズとか喰ってるし。きっと近くに高級スーパーがあるんでしょう。まったく驚きましたよ。
Posted by: quark | Saturday, July 23, 2005 at 00:29
"盗賊団の女首領、橋の管理人をしているミノタウルス、夢を売る女、博物学者の兎、等々……"
う~ん、すごく面白そうなんですけどね、わたしが一番先に挫折したみたい。グズの主人公以前に、文章のリズムに乗れずにイライラして10ページほどで置いちゃいました。やっぱり正解だったのかな~
Posted by: a nanny mouse | Saturday, July 23, 2005 at 01:41