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Sunday, July 17, 2005

Jonathan Strange & Mr Norrell, by Susanna Clarke

us pb (2005/08/30) uk hc: 0747570558
uk pb: 0747579881 (2005/09/05)
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us pb: 1582346038 (2005/08/30)

とりあえずレヴュウをひとつ。

今年最高のファンタジイとして、この秋、大西洋の両側で脚光を浴びているのが、スザンナ・クラークの初めての長編となるこの作品である。出版社が、あのハリー・ポッターで大当たりしたBloomsburyということで、「大人向けのハリー・ポッター」という謳い文句が耳障りだが、作品自体は、現在のファンタジイ・ブームとは無関係に、ほぼ十年をかけてこつこつと書き留めてきたという、細部まで丁寧に仕上げた、職人芸の光る労作である。

ニール・ゲイマンによれば、「紛れもなく過去七十年間に書かれたイギリスの(英語の?)ファンタジイでは最良のもの」だそうで、察するに、一九二六年に出版されたホープ・マーリーズの『霧の都』に次ぐ作品という位置付けを与えている。

これを文字通りに解釈すれば、その後のトールキン、ピーク、T・H・ホワイトの御三家はいうに及ばず、アラン・ガーナーやマイクル・ムアコック、M・ジョン・ハリスンやフィリップ・プルマンの諸作をも凌ぐ作品ということになる。あるいは、「英語で書かれた」という意味にとれば、ライバーよりもヴァンスよりもゼラズニイよりもビーグルよりもウルフよりもクロウリーよりもル・グインよりもマキリップよりも……凄いというのである。

そこまで絶賛されると、つい、ほんとかあ、と疑いたくなるが、過去の傑作との比較はさておき、妖精物語の伝統を見事に今世紀に甦らせた、正統派のファンタジイの秀作であることは間違いない。

物語は、ナポレオン戦争真っ只中の一八〇六年に幕を開ける。描き出されるのは、一九世紀という時代の雰囲気濃厚な現実的な英国の姿。ただし、この世界には、ほんのすこし現実と異なるところがあった。古代より賢者によって引き継がれてきた魔法の存在である。とはいえ、北イングランドを治めていた魔術師、レイヴン・キングが何処へともなく姿を消してから三百年、魔法は失われ、いまや文献や伝説の中にその片鱗がうかがい知れるのみだった。

だが、隠遁生活を送っていた偏屈な学者ノレル氏がロンドンに現われるとともに、イングランドに魔法が甦り始める。手始めの仕事は、突然亡くなった大臣の婚約者を蘇生させることだった。さらに、ノレルに師事した青年ジョナサン・ストレンジが、次第に頭角を現し、ナポレオンと戦うウェリントン公を助け、イングランドに勝利をもたらす原動力となる。

天才肌のジョナサンと、学究派のノレルには、もともと相容れないところがあったが、いにしえのレイヴン・キングの魔法に魅せられたジョナサンが、その復活を模索し始めたことから、新しい道を探るべきだとするノレルとの溝は決定的なものとなる。いっぽう、安易な魔法の使用は闇の力の暗躍を招くこととなり、二人のあずかり知らぬところで、新たなる危機がイングランドを飲み込もうとしていた……。

とまあ、メイン・プロットのみを取り上げると、いかにもハイ・ファンタジイといった展開だが、実際は、一九世紀初頭のイギリスの日常生活をリアルに描いた、正統派の歴史小説の手触り。とくに、海千山千の男たちが出入りするロンドンのサロンの光景や、前半のメインとなるウェリントンの遠征、バイロンが登場するヴェネチアの一幕など、当時の文学作品さながらの雰囲気である。ジョナサンとノレルの角突き合いも、魔術師の対立というよりは、滑稽な学者同士のいがみ合いの構図。スケールの大きなディケンズの背景に、皮肉の利いたオースティンの風俗喜劇を乗せた作品とでもいえようか。

とはいえ、上質のファンタジイの魅力にもこと欠かず、全編に散りばめられた『金枝編』ふうの脚注は、詳細に構築された魔法の歴史を垣間見せ、次第に現実と二重写しになる妖精郷の姿を浮かび上がらせる。本編に登場する魔法も、一斉に語り始める大聖堂の石像、雨から作られた幻の船隊、ナポレオン軍を惑わす迷路と化した街道といった、ありふれた破壊の魔法とは対極にある、奇譚に通じる風変わりなもの。

ここにあるのは、実質的なファンタジイの要素がごく薄い、トールキン・タイプの戦闘型ファンタジイ一辺倒になってしまったジャンルを、正しい道筋に引き戻そうとする試みである。『霧の都』や、ジョン・クロウリーの『リトル・ビッグ』といった本来の王道を歩むファンタジイに、力強い後継者が誕生したといえるだろう。(2004/09/13)

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Comments

1年以上前の記事にコメントつけたりしていいのかな…。 いや、実はいま、この本を聞いているのです。 最近めっきり本は読まなくなりましたが、最近AudibleUKの会員になり、月に2冊まで無料で選べるので、月会費を上回る長いのばかり狙っているのです^^;。

この本はタイトルと表紙に覚えがあり、たしか、a nanny mouse さんが何か書いてらっしゃたなぁ~と思って探してみました。

「実際は、一九世紀初頭のイギリスの日常生活をリアルに描いた、正統派の歴史小説の手触り。」って、ほんと、そうですね。

問題は、通勤中や寝る前に聞くので、聞きながら寝てしまい、話がなかなか見えてこないことです…。 目が覚めたときになが~い「脚注」部分だったりすると、かなり頭が混乱します。でも、微妙に面白いです。

Posted by: パンプキンフェイス | Friday, December 09, 2005 at 21:49

いえ、いつの記事でもコメント大歓迎ですよ。

たしかに最初のうちはなかなか話の動かない作品ですね。あんまりドラマチックな展開を期待するとそれもないですし。けど、ゆるゆるとした話運びにときどきハッとさせられて、ゆったりと楽しめると思います。むさぼるように読む本ではないですね。日本でもハリー・ポッターや指輪物語の読者をあてこんだ売り方をするんでしょうけど、何%の読者が乗れるのかちょっと興味があります。

ある作家が3回読み始めては挫折して、結局半年がかりで読んだとかいってましたが、最後にはむちゃくちゃ気に入ったそうですよ。

Posted by: a nanny mouse | Friday, December 09, 2005 at 23:46

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